第4話 反復
「……身体中が痛い」
そしてその翌日、当然のように僕の全身は筋肉痛となった。それはもう首から足首まで全身漏れなく筋肉痛だ。逆に言うと、よく幼いながらの体力で、あれだけ長時間壱の型を繰り返せたなとも思う。
獅子龍王流は実戦で人や魔物と戦うことを前提とした流派であるとゴード師匠は言っていた。ちなみに僕たちが弟子入りしたことに気を良くしたのか、自分のことは師匠と呼ぶようにと言われた。
壱の型と呼ばれる型はこの流派の本当に基礎の基礎、ひたすらに突きと蹴りを繰り返す型になる。5つの動きが一連の流れとなっており、5番目の動作が最初の動作につながるので、何度でも壱の型を繰り返すことができる。
昨日の昼頃からオズとモニカと一緒に門の前でゴード師匠にこの壱の型を教わった。そして夕方みんなと別れてからは自分の家に戻ってもひたすら壱の型を続けていた。もちろんこの幼い身体だとしばらくすると疲れてしまうので、何度も休憩を入れた。
「あらあら。今日も朝から頑張っているのね。朝ご飯を食べるわよ」
「は~い」
朝起きてから筋肉痛がする身体を引っ張って、昨日と同じ壱の型をひたすら繰り返す。
確かこういうときは適度に身体を休めたほうが効率的だと前世の本で読んだ気もするけれど、そんなことは考えずに筋肉痛の中で無我夢中に同じ型をひたすら繰り返した。
「聞いて驚け! 昨日俺はあの後も家でいっぱい練習したんだぞ!」
「モ、モニカもちょっとだけど頑張ったもん!」
お昼ご飯を食べたあと、重い身体を引きずっていつものようにオズとモニカへ会いに行った。2人とも僕と一緒で家に帰ってからもずっと同じ型を繰り返していたみたいだ。
「僕も頑張ったよ。早速ゴード師匠に見てもらいに行こうよ」
「へえ~2人も頑張ったんだな。よし、父ちゃんへ会いに行って早く次の型を教わろうぜ!」
そんな感じで昨日と同じように門のところにいるゴード師匠へ会いに行った。
「おいおい、次の型なんてまだ先の話だぞ。まずは壱の型をある程度できるようになってからだなあ……」
「ええ~もう俺はできるようになったぞ。早く奥義を教えてくれよ、父ちゃん!」
「こら、ここでは師匠って呼べと言っただろう」
「ゴード師匠、モニカにも新しいのを教えて!」
「……う~ん。まずは興味を持ってもらうことが先かあ。確かに俺の時は型だけじゃなくて組み手や巻藁を突いたり、型以外のこともしていたっけな。巻き藁はあとで作ってやるとして、先に他の型も教えておくか」
なにやら独り言を呟いているゴード師匠。先に新しい型を教わる流れになりそうだけど、僕はまずは壱の型をしっかりとできるようになりたい。
「ゴード師匠! 僕は壱の型をこのまま続けたいです!」
「んっ、エフォ坊はそっちからでいいのか?」
「おいエフォート、そんなのよりも早く奥義を教わろうぜ」
「モニカも新しいやつがいい」
「僕がやりたいだけだから気にしなくていいよ。僕はゆっくりでもいいから、順番にひとつずつできるようになりたいんだ」
そう、僕には前世からひとつのことを継続して何かを成し遂げたという経験がほとんどない。中学校の部活を続けたり、習い事を続けたり、勉強をして資格を取ったりなんてこともない。他のみんなが当たり前のように成し遂げたという経験が僕にはないのだ。
だからこそ、僕はどんなに遅くてもいいから、順番にひとつずつを積み重ねて一歩ずつ進んでいきたい。
「おっ、偉いなエフォ坊! そうだぞ、武術はひとつひとつの鍛錬の積み重ねが自らを作っていくんだ。武術を極めるのに近道なんてないからな。そういう意味だとオズやモニカよりもエフォ坊のほうが向いてそうだなあ~」
「わ、わかったよ父ちゃ……師匠! 俺も壱の型からでいいよ!」
「モニカもやっぱり壱の型でいい!」
「よしよし、オズとモニカもえらいぞ。それじゃあ、昨日の壱の型を復習するぞ」
まんまと僕が2人のやる気を出させるダシに使われた気もするけれど、僕もひとりでやるよりは2人と一緒にやるほうが嬉しい。そんな感じで今日も壱の型を繰り返すことになった。
「ほう……エフォ坊は昨日だけでもだいぶ良くなっているなあ。これは筋がいいか、よっぽど練習したんだろうな」
「ありがとうございます、師匠!」
ゴード師匠はそう言って僕を褒めてくれた。別に褒められるために今日の午前中までひたすらこの型を繰り返したわけじゃないけれど、やっぱり褒められるととても嬉しい。
「師匠、俺は俺は!」
「師匠、モニカは!」
「おう、オズは家で練習していたのをちゃんと見ていたからな。モニカも動きが滑らかになっているぞ、家でもしっかりと復習してえらいぞ」
「へへっ」
「えへへ~」
僕だけ褒められたのが悔しかったらしく、ゴード師匠に詰め寄るオズとモニカ。この辺りはまだまだ子供なんだな、とも思う。
「いいか、3人とも。武術の型というのはただ繰り返すことに意味があるわけじゃないぞ。ちゃんと1回ごとにより鋭く、より力を込められるように意識することが大事だ。自分の中で理想の型をイメージするんだ。まあ、まずは俺の型をしっかりとイメージしてやってみろ」
「「「はい!」」」
そうだ、確かに僕は同じ型を繰り返すことだけを考えてしまっていた。積み重ねると言ってもただ無作為に積み重ねるだけじゃ意味が薄いんだ。1回ごとにちゃんとイメージをして繰り返さないと。
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