022 成長シルクと三人目
俺が初めてシルクと出会った時、ただの小さな女の子だった。
お腹を空かしていて、俺の境遇にとって最高の
だがそれから彼女は、予想以上に頑張りを見せていた。
よく食べ、よく眠り、そしてよく訓練する。
メイドの仕事も頑張っていた。初めてでわからないことだらけ。
作法なんて習ったこともないだろうに、王女の側近として恥じをかかないようにしたいと一生懸命に。
それこそ寝ずに頑張っていた期間も俺は知っている。
ソフィアが茶会に行くときは、絶対に側近メイドに選ばれたいと夜な夜な二人でお茶の入れ方やお菓子の出し方を練習した。
だからこそ油断していたのかもしれない。
彼女の強さを、忘れかけていた。
『凄い、凄い、凄い、シルク選手、もの凄い攻撃だぁあああああ』
怒らせたのは俺だが、それを後悔するほどの手数で攻撃を仕掛けてきていた。
その表情は普段見られないもので、とても怒っていることがわかる。
俺に対しては優しい笑顔しか見せない。
だが王女をバカにされたことで苛立ちが勝っているのだろう。
とはいえ冷静さを欠いて勝てるほど俺は甘くない。
「悪いが、勝たせてもらう」
最後の攻撃を回避し、後ろに回る。
そのまま首に一撃を加えた。
彼女は固い。物理的にもだが、防御力が高いのだ。
今までの敵への攻撃より遥かに強い手刀を与えた。
やりすぎたかもしれない、そのくらいの力を込めた。
だが――。
『おおっと、今まで一撃で敵を倒してきた仮面マンの攻撃を、耐え切ったああああああああああ』
少しはクラっと来たみたいだが、その場で踏みとどまって周り蹴りを入れようとしてきた。
俺は随分とシルクを侮っていたらしい。
ダメージを受けたことで怒りはどこかに消えたのか、深呼吸して冷静さを取り戻していた。
克服できたのなら、新たに怒らせる理由もない。
「固いな幼女。さすが竜人族だ」
「違うよ」
「違う?」
「私が固いのは、いっぱい食べさせてくれた人のおかげ。その人の為にも、私は勝つ」
シルクの真剣なまなざしに、俺は初めてのおつかいを見ているような気分になった。
涙腺が崩壊しそうだ。
だがここでわざと負けることなんてしない。
上には上がいる。それを教えるのも、立派な師匠兼父上である俺の役目だ。
「そうか。その人はきっとイケメンで格好よくて声もよくて生活態度もよくて朝も早起きなんだろうな」
「……お昼過ぎに起きてるかも」
「そうか」
真面目なシルクちゃんっ!
「さて、夕方はいっぱい寝る予定なんだ。そろそろ決着をつけさせてもらおう」
「――望むところです」
俺は静かに魔眼を発動させた。
うっすらと赤くなるが、仮面のおかげで気づかないだろう。
そのまま瞬歩、距離を詰める。
素早く動いていると、時間がゆっくりに視える。
だが驚いたのは、シルクが的確に俺を捉えていたことだ。
いつの間にこんなに強く。
ったく、たらふく食べやがって。
一撃で倒すつもりで攻撃を仕掛けたが、シルクはまさかの反応で回避した。
俺の知っている彼女なら食らっていたはず。
ハッ、おもしろい。
だが――。
「悪いなシルク、俺は規格外なんだ」
「――え、エリ兄ぃ?」
カウンターの攻撃を寸前で回避。
だが頬に当たって、仮面が獲れる。
俺の素顔を見たシルクが驚いて声を上げた。
「よくやったな」
その言葉の後、シルクは完全に意識を失った。
『優勝者のは、仮面マンんんんんんんだああああああああああああああああああああ』
はちきれんばかりの歓声が木霊する。
俺は急いで仮面を拾って装着。
「凄いですね。今のお気持ちをお聞かせ願えますでしょうか?」
「悪いがなしだ。先に彼女を医者に診せたいからな」
大丈夫とはわかっているが、やっぱり心配だ。
目立ちたい心を抑えて控室まで歩き、彼女を医者に預けた。
仮面マンコールが鳴り響くも、戻る予定はない。
この後、正式な手続きを終えると賞金がもらえるだろう。
だが――。
「シルク、お前が一番強かったぞ」
――――
――
―
「エリ兄-ズルいよー」
「ズルくない。シルクが全力を出せるように仮面をしていただけだ」
「むぅ」
「でも、本当に強かった。いずれは俺を抜くだろうな」
竜人族の強さに上限はない。
いくら俺が規格外でも、いずれはそうなるだろう。
賞金は山分けすることにした。シルクは貯金するだろうが。
掛け金については使うところがある。
「えへへ、ありがとう!」
「先に宿に戻っていてくれ。寄る所があるんだ」
そのまま別れた後、俺はこの国の孤児院の施設の寄付金箱に、この世界の小切手のようなものを入れた。
優勝賞金と掛け金の全てが入っている。
これは将来への投資だ。
いま金は喉から手が出るほどほしいが、未来の彼女候補、まあついでに男もいるだろうが、不幸せな状態になっているのは気にくわない。
原作でこの孤児院は寄付金不足により解体する。
その後のエピソードもあるのだが、いい話ではないのだ。
俺の彼女698人は未来にも存在しているはず。
いずれここを卒業した女の子と「え、寄付金くれたのはエリオットだったのですか?」となるのだ。
そしてその帰り、俺は大会に出場していた女の子に声をかけた。
元々は奴隷上がりで、一攫千金を夢みた黒い耳、ダークエルフの少女。
試合には負けてしまっていたが、彼女には夢がある。
それは、お金をもらって幸せになることだ。
だがそんなことにはならない。犯罪に手を染めて、ソフィアと戦うことになる。
そうはさせない。そんな未来は、俺がぶっ壊す。
「プラタ」
「……? わ、わたしですか?」
「そうだ。パン屋に興味はあるか?」
彼女が、ブラック軍団の3人目だ。
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