020 押し出しのシルク、手刀の仮面マン
「シ、シルク選手の勝利です!」
予選を順調に勝ち抜いたシルクは、一回戦目、自身よりも五倍はデカい大男を一撃で倒していた。
押し出しのシルクって感じだ。なら俺は手刀の仮面マンでいこう。
会場は大盛り上がり。
可愛げな幼女が、如何にも悪そうな男を倒した。
そりゃ興奮しないほうが嘘ってもんだ。
だがそれは観客席だったり、有料閲覧席みたいな場所に座ってる富豪権力者たちだ。
実際に戦う可能性のある奴らに目を向けると、関心を飛び越え、恐怖の表情を浮かべていた。
「お、おいゴルゾーが一撃だったぞ!?」
「嘘だろ。なんだあの怪力」
「身体強化魔法か? にしても小さすぎんだろ!?」
戦闘が好きな奴らはプライドが高い。
女に負けるのも嫌な男もいるだろうし、それよりも小さな幼女に負けた、なんて尾ひれがついたらとんでもないことになる。
この日の為に鍛えてきているのだ。
「シルク選手、おめでとう」
「ふぇ? あ、ありがとうございます!」
通りすがり、シルクに声をかけると慌てながら頭を下げた。
俺の仮面が少し怖いのか、通り過ぎた後もチラチラと見てくる。
気持ち的には保護者なのだが、彼女からすれば不審者扱いらしい。
エリオット、初めての悲しみ。
公平さを保つ為、自身の初戦の相手はギリギリまでわからないシステムになっている。
いつだろうと思ったら、実況の声が木霊した。
『さて次は二回戦、か、仮面マンvs――黒衣の魔女、エンドレス!!!!』
「うおおおおお、エンドレスううううううう」
「エンドレス様ああああああ」
「あのエンドレスが来てたのかよ!?」
ゆっくりと舞台に上がる。
俺のときだけ噛んだというか、なんか言いづらそうにしてたのは気のせいだろうか。
だがそれよりも驚いたことがある。
「こんにちは。よろしくねえ仮面さん」
「よお、まさか有名なアンタがこの大会に出てるとはな」
「私の事、知ってくれてるの?」
「誰でも知ってるだろ」
「ふふふ、嬉しいわあ」
黒衣を纏ったエロセクシーお姉さんことエンドレス。
彼女の二つ名は。
由来は、戦争時に一国を一人で滅ぼしたからと言われているからだ。
本人は否定も肯定もしないが、俺は知っている。
それが真実だと。
ただ性格自体は温厚で、今みたいに熱い支持者やファンもいる。
この大会に出場していたとは知らなかった。
観客席はさっきよりも盛り上がっている。
俺が無残にもやられる姿を期待しているんだろう。
「賞金が欲しいタイプとは思わなかったな」
「あら、その通り。ただの暇つぶしよ。仮面さん、あなたは?」
「俺は賞金目当てだよ。もう一つの理由は、運動会の参観日のお父さんって感じかな」
「ふうん。よくわからないけれど、面白そうな相手で嬉しいわ。退屈になるかなって思ってたから」
驚いた。
魔眼を発動していないもかかわらず、エンドレスは俺を警戒したのだ。
のんびりやる予定だったが、そうもいかないらしい。
『相手を死亡させると失格。場外は10カウント。降参させても勝ちです。それでは――はじめッ!』
余計な文言も言わずに試合がはじまる。
おそらく実況者もエンドレスの独壇場だと思ったのだろう。
ちなみに試合には掛け金がある。
もちろん俺は、俺に賭けている。
一応シルクにも賭けている。
どっちが勝つにしろ大幅黒字。
だがエンドレス、悪いがお前は計算に入ってない。
「――深淵をまき散らす魔法」
エンドレスは、最上級魔法を惜しげもなく詠唱した。
闘技場が暗黒で覆われていく。
器官を奪う闇魔法だ。
人類をつかさどる五感、触覚(touch)、味覚(taste)、聴覚(hearing)、視覚(eyesight)、嗅覚(smell)を奪う。
何もできなくなった相手は気づけば死ぬ至る。
だがそれすらも気づかない。
ここで俺を殺すつもりはないだろうが、気絶させるはず。
けど悪いな。その魔法は思考は奪うことはできないんだ。
――魔眼。
あえて魔法を解除せず、ゆっくりと近づいてくるエンドレスに狙いを定める。
そのまま瞬歩。
首に手刀を与える。
彼女の敗因は驕りと油断。
勝利の確信を得るほどの魔法を習得してしまったせいだ。
鈍い悲鳴と共に闇が晴れていく。
『な、なんということだ!? エンドレス選手が、倒れている!?』
そのまま10カウント。
だが驚いたことに9カウント目でエンドレスが少しだけ顔を起こした。
「あなた……一体何者なの……」
「俺か? 俺は、手刀の仮面マンだ」
『しょ、勝者仮面マン!!! なんということでしょうか。あのエンドレス選手が、何もできずに地に伏せましたああああああああああああああああああああああ』
そのまま颯爽と振り返る。
完璧だ。
あ、でも……。肝心の手刀が誰にも見えなかったのは残念だ。
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