018 シルクの覚悟

「暗黒協会については概ね理解した。他のアジトの件は、私も調べてみよう。しかしエリオット、お前には頭が上がらないな。何か欲しいものがあるか? 褒美をやろう」

「気にするな。俺自身の為にもやっているだけだ。けど……そうだな。――だったらシルクに休暇を取らせてやってくれないか」

「……その程度でいいのか?」

「ソフィアの命が助かったのは彼女のおかげだ。メイドの仕事もそつなくこなしていると聞いてる。たまにはゆっくりさせてあげたいんでな」


 俺の言葉に、皇帝陛下ベルフェスは椅子に座ったまま静かに頬を緩めた。

 

 今はイケオジ風だが、ソフィアが戻って来たときは――。


『ソフィアアアアアア、大丈夫で良かったぞおおおおおおおおおおお』


 と泣きじゃくっていたが。

 

 まあ、カワイイので良し。


「問題ない。小遣いも渡しておこう」

「助かるよ。それじゃあ――」

「エリオット」


 振り返って去ろうとすると、俺は驚きの光景を目の当たりにした。

 皇帝陛下は傲慢ではないが、プライドが高い。


 だがそれは当然だ。

 媚びへつらうことなんて世論が許されないし、それが弱みになることを知っている。


 なのになぜ、頭を下げている・・・・・・んだ。


「娘をありがとう」

「……ああ」


 俺はただ原作知識があっただけだ。

 感謝される必要なんてない。


 けど、あんたが皇帝陛下として君臨している理由。

 最凶と名高いエリオットが完全敗北するのは、当然なんだな。


   ◇


「こ、こんなに食べていいの?」

「ああ、どうせ俺が作ったやつだ。遠慮しないでいい。小遣いもたらふくもらったし、後で出かけようぜ」

「えへへ、いただきます!」


 王城にあるシルクの部屋は、簡素ではあるが綺麗だ。

 メイドとはいえ、王女側近である。


 すぐに信頼してくれて部屋を用意してくれるなんて破格の待遇だろう。


 シルクに休暇をもらったことを伝え、パンをたらふく用意した。

 どれもこれもオーブンの真ん中、アイドルでいえばセンターを担うぷくぷくてらてらの美味しいパンだ。


「おいひい、おいひい」

「ああ、よく噛んで食べろよ」


 しかしシルクは、七つ目で手が止まる。


「どうした? まだ全然食べてないじゃないか。何か、何かあったのか!?」


 心配だ。いつもならもっと、もっともっと食べるのに。


「……エリ兄ぃ、もっと強くなりたい」

「お前は十分強い。あの時は人質が――」

「そんなの言い訳にならない。私はエリ兄に助けられた。ソフィア様にもよくしてもらってる。――もっと、強くなりたい」


 その目は覚悟の目だった。

 俺がこの世界に来てから、ソフィアの側近になろうと決意したときと同じだ。


 シルクは強い。あの牢屋から脱出できたのも彼女のおかげだ。


 ただそれだけでは足りていないのだろう。

 この貪欲さは、食欲をも上回っている気がした。


 ……だったらそうだな。


「強くなる心当たりはある。けど、休暇を全部使うかもしれないぞ」

「それでも大丈夫。頑張る!」

「そうか。わかった」


 俺も考えていた。

 ブラック軍団のパン屋は人気で、リスとニアも大忙しだ。


 つまり――人手がいる。


 俺は効率厨だ。

 無駄なことは一切したくないし、嫌いだ。


 シルクも強くなった上で、仲間を増やし、そいつの人生をも良くするいい案がある。


 さて、新しい彼女候補に会いに行くか。


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