016 覚醒チャラオット

 ひんやりと冷たい地下室。

 鉄格子、牢屋の中でソフィアとシルクはこそこそと話し合っていた。


「シルクちゃん、どう?」

「鎖は外せます。――いきます」


 ガチャリと、鎖がシルクの力で外れる。

 喜びも束の間、すぐに鉄格子に手をかける。だが、魔法のエフェクトではじき返される。


「きゃあっああ」

「シルク、大丈夫!?」

「凄い結界が、この鉄格子に……」


 魔王が君臨していたときの古代三大魔法具の一つ、魔力無効のリング。

 パン屋に並んでいた二人は、とある悲鳴を聞いて駆け付けたところ、それを装着されたのである。


 同時に、抵抗すると幼い子供が死ぬと人質に取られた二人は、大人しく捕まったのだ。

 ただし、竜人族のシルクは魔力と関係がない。


 だが子供が解放されたと同時に次はソフィアに刃を突き付けられたのである。


 そのとき、足音が聞こえてくる。


 現れたのは、金髪のニヒルな男だった。

 背が高いが、猫背のせいで姿勢が悪い。


「すみませんねえソフィア王女。私は暗黒協会のブイです。以後お見知りおきを。メイドが竜人族だったとは驚きました。しかしそれは好都合です」

「あなた……何が目的なのよ!」

「わかっているでしょう。私たち目的はただ一つ、魔王の再誕です。今の世の中は腐っている! 浄化が必要なのですよ」

「……ふざけてる。こんなことしたら、ただじゃすまないわよ!」

「ほう。誰にやられるというんですか? ここは王都より遥か遠くにあります。騎士は動いてませんし。動けません。誰も知りませんよ」


 ソフィアは何も言わなかった。

 ただ強くブイを睨みつける。


「ふん。――お前ら、連れて行け」

「な、何するのよ!?」


 すると男たちがソフィアを囲う。

 シルクが抵抗しようとするも、剣がソフィアに付けつけられる。


「……ソフィア様!」

「大丈夫。シルク、きっと、大丈夫」


 エリオットが来てくれる。その言葉を飲み込んで、ソフィアは連れて行かれた。

 シルクはただ一人残されたが、諦めていなかった。


 魔法のエフェクトを見る限りでは、鉄格子にしか付与されていない。

 横の壁を見つめ、静かに右手を漲らせた。


 そのまま静かに突く。

 ぼろりと、壁が砕けた。


「諦めない。エリ兄ぃから、教わってるから」


   ◇


「リス、ニア。ここからは二手に分かれよう。俺は1人で二人を探す。お前たちは決して単独行動はせず、お互いをカバーしろ」


 一方ブラックことエリオット・ハヴィラントこと俺は、既に暗黒協会に辿り着いていた。

 森の中にある洞窟、その大きな区画が改造されていること知っている。


 ただ原作ではその場所が詳しく明かされていないので特定できなかったが、足跡を見つけたのだ。


 それは、シルクが残した魔力の痕跡。


 もし何かあった場合に残せと訓練しておいた。忠実に守っているみたいだ。


「敵は巨大なはずです。一組で動いたほうが」

「いや、俺は1人の方が身軽だ。それに人海戦術のほうがいい。――お前たちを信頼してるからな」


 リスはニアと目を合わせ、頷く。


「わかりました。ニア、行くわよ」

「はい。それではブラック様」


 二人は消えていく。俺は正攻法から行くつもりだ。

 だが彼女たちは裏口をまず探す。


 入口と出口が一つだけ、なんてありえないだろうからな。


 洞窟の中では、門兵のような奴らが奥で待機していた。


 俺は、冒険者を装って近づいていく。


「わあああああ、魔物だあああ」


「――おいなんかきたぞ」

「焦んな。指示通りにやれ」


 暗黒協会の奴らも冒険者の恰好をしていた。

 油断させた後、俺を殺す気だろう。


「おい、お前どうし――」

「消えろ」


 だが俺は瞬歩。

 魔眼は既に発動させている。


 無駄のない動きで二人の頸動脈を狙って落とす。


「ぐぁっああ……」

「がぁぁつああ」


 暗黒協会のは野蛮な連中だ。元々壊滅する予定だった。


 更に王女であるソフィアを誘拐。

 手加減する必要はない。

 リスとニアにもそう伝えている。

 

 いつもはおちゃらけているが、今日は違う。


 俺の大切な雇い主を奪われたんだ。


 手加減はしない。


 全員、ぶっ潰してやる。

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