015 漆黒教会

「どういうことなんだパン……」


 俺――エリオット・ハヴィラントは、この世界にきてから一番驚いていた。


「……凄いですね。入れるのかしら?」

「行列だー」


 ソフィアとシルクも驚いている。

 視線の先では、俺のブラックパン屋、もといブラパン屋にとんでもない行列ができていた。


「ここのパン、美味しいのよねえ」

「皇帝陛下がメロンパンをお勧めしてるんだって」

「へえ、楽しみだねえ」


 ……何ということだ。

 俺はブラック軍団の資金源としてパン屋を始めた。が、まさかここまでになるとは。


 ある程度で良かったのだ。生活ができて、少しずつ黒字になるくらいで良かった。

 いやそれより――。


「ちょっと並んでてくれ。ソフィア、シルク」

「え? どこいくんですか?」

「エリ兄ぃー?」

「急用だ! 二人でパンパンしてくれ!」


 裏口に回って扉を開ける。


 そこは――戦場でした。


「リス、どうしようパンが間に合わない!?」

「卵パンから先に、焼きそばパンは後で!? え、あ、ぶ、ブラック様!?」

「凄い事になってるな。間に合うか?」


 いや、どうみても間に合わない。

 今日はオフの予定だったが、そうも言ってられないだろう。

 俺が始めたパン屋だ。手伝わないわけにはいかない。


「よし――俺が焼きまくる。お前たちは前に出てくれ。後、王女っぽいのと小さな幼女がいたら丁寧に、そして俺の事は一切言うなよ! リスはわかるな?」

「はい!」

「よくわからないけど、はいです!」


 リスはシルクと会っているが、ニアは知らない。

 できるだけ関はないほうがいいだろう。


 ソフィアとシルクには悪いが、美味しいパンを届けたほうが二人も嬉しいはずだ。

 てか、皇帝陛下も食べてるとは驚いた。

 

 あの渋い顔でメロンパンはちょっと笑うな。


「よし、頑張るぜ。――魔眼発動」


 そして俺は、能力を使った。

 パンの焼き具合を完璧にするためだ。更に速度もあげる。


 貴重な資金源だ。


 本気を出す――。


    ◇


「ありがとうございましたー」

「ありがとうございますー」


 夕方過ぎ、最後の客がはけ、リスとニアが丁寧に頭を下げていた。

 パンは全部なくなった。店の規模を大きくしてもいいかもしれないほどの売れ行きだ。


 だがパン屋は小さいほうがいいと知っている。小さいパン屋はうまいのだ。知らんけど。


「売上凄いです。過去最高だー!」

「やったですリス! パンパンです!」


 二人はとても笑顔だった。以前の悲しい顔はどこにもない。

 この顔を見られただけでも価値があったと言える。


 ……あれ、そういえば。


「王女っぽいのと幼女っぽいのはいたか?」

「え? いや、見ませんでしたけど」


 ニアは首を横に振る。リスも来ていないと静かに首を振った。

 

 ……おかしいな。

 

 先に帰ったのか?


 だが何だか胸騒ぎがした。

 締め作業を二人に任せ、急いで王城に戻ったが、とんでもないことが起きていた。


「――二人が、攫われた?」

「ああ……先ほど魔法鳥で手紙がきていた。ソフィアを攫った。返してほしければ、魔族の復活の為に魔法具をよこせと」


 皇帝陛下からそう告げられたのだ。

 手紙を確認すると、確かにそう書かれていた。


 だが右下のマーク。それを見て戦慄する。


「これは……漆黒教会の」

「知っているのか。奴らめ、まだ再帰を狙っていたとは」


 漆黒教会とは、数百年前に存在したと言われている悪魔崇拝のカルト集団だ。

 

 原作、ァクト・ファンタジーでも殺戮集団として強敵だった。

 確かに奴らの行動は予測できない。原作でもランダムだった。


 クソ、あのタイミングとは。


「奴らめ、魔法具で魔族を復活させるつもりだ。だがあれを渡すと世界が……しかしソフィアの身に何かあれば……」

「皇帝陛下、俺がソフィアを必ず助け出す。魔法具の交渉は待ってくれ」


 俺は堂々と言い切った。


 ソフィアの傍にはシルクもいる。命の危険はないはず。

 そもそもソフィアは死なない。原作を考えるとありえないからだ。

 だが怪我はさせたくない。俺は、彼女を守ると決めたからだ。


「……嘘ではないのか」

「ただ俺は単独で動く。余計な仲間は足手まといだ」

「わかった。なら明日の朝までは待つ。――頼んだぞエリオット」


 そして俺はそのまま窓から飛び降りた。

 隠し持っていた漆黒のコートを羽織る。

 

 その瞬間、左右からリスとニアが現れる。

 スタイルが強調されている黒いボディスーツを着込んでいた。


「漆黒教会だ。リス、調べは――」

「アジトは既に把握しております。ニア」

「はい。ソフィア王女、メイドのシルクの両名が北門の近くで最後に目撃されています。裏の情報なので、確かかと」


 俺が二人に命じていたのはパン屋の仕事だけじゃない。


 俺でも知らない裏の組織は沢山ある。

 原作でもそんなこと細かく語られないからだ。


 それをリスとニアに調べてもらっていた。


 更に俺の行動も予測していたとは、さすがだ。


「漆黒教会は危険な奴らだ。命の危険があるぞ」

「リスのこの命はブラック様の為にあります」

「ニアも同じくでございます」


 二人の忠誠心に感謝しつつ、俺たちはアジトへ向かった。


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