014 入学パン、お昼パン、帰りパン
「改めてみると大きいな」
「そうですね。エリオット、ネクタイが曲がっています」
「ちょ、ちょっと待て。誰かに見られたらマズ――」
「大丈夫です。すぐ終わりますから。はいっ、綺麗です」
ファクト学園の門前。
俺たちは、無事に全員が合格した。
といってもシルクはお付きとしてだ。
基本的に周りお世話としてなので、授業には参加しない。
ただ王立学園は空き時間も多い。
個室も専用されているので、シルクとしてものんびりできていいだろう。
とはいえメイドとしての覚えることもあるので、専用の授業もあるらしい。
「エリ兄とソフィア様はいいなあ……」
竜人族とはいえ、シルクはまだ子供だ。
一緒に授業を受けれないのは心苦しいが、我慢してもらうしかない。
俺は、しゃがみ込んで目線を合わせる。
「そうだな。でも、帰りは一緒だ。空き時間はもちろん、ご飯も一緒に食べられるだろう。あくまでも俺たちはソフィアのサポートだ。それを忘れるなよ」
「はいっ! 了解しましたっ!」
ビシっと敬礼するシルクは、とても可愛らしかった。
シルクも俺に着いてきたことはまったく後悔しておらず、むしろ毎日が幸せといってくれている。
リスとニアの二人の仲も良好らしい。
俺も皇帝陛下の犬としてワンワン良好。
うーん、ワンワン最高!
「シルクちゃん、それじゃあまた後でね」
「うん、また!」
ぶんぶんと手を振るシルク。
それを眺めながら悲しむソフィア。
いや、君のメイドだからね!?
立場逆転してるよ!?
「これが……娘を想う母の気持ちなんですね」
「それでいうと俺はパパか」
「え? エリオット、それは私と婚約の儀を結びたいということですか?」
「違います」
ソフィアはこうやって度々に俺に求婚してくる。
皇帝陛下の前だといつもヒヤヒヤするのでやめてほしい。
君は綺麗だ。美しい。スタイルも良い。
だが――ダメだ。
俺の彼女残り498人の為にもすまない。
「さて行こうか」
「むぅ」
むくれてる君もカワウィーけどね!
◇
教室の扉をがらりと開ける。
俺とソフィアは同じ教室だ。といってもそのくらいの事は忖度してくれるとわかっていたが。
ファクト王都学校の私有地面積はおそろしいほど広く、設備も最新鋭。
各地から有望な貴族たちが集まっている。
授業は座学、魔法学、薬学、戦闘の場合は多岐にわたるので説明が面倒なほど。
といっても貴族は忙しい。
特に王女であるソフィアはそうだ。
その分短期間で覚えることが増えるだろうが、彼女には問題ないだろう。
「エリオット、そこに座りましょうか」
「ああ」
大勢の視線が突き刺さる。
そこには俺の見知った奴らが大勢いた。
どいつもこいつも癖のある奴らばかりだ。
その中にも悪役と呼ばれるような奴らがいる。
俺が前にち〇こを破壊した名前も忘れた大男のような。
学園に入った後、ソフィアに嫌なことをする連中たちだ。
俺はそいつらから守り、そして学園の外でも守る必要がある。
とはいえ無能、俺は無能、イケメンで変な無能を演じる必要がある。
「ソフィア、僕はかっこいいか?」
「え? ええ――かっこいいわ」
冗談交じりに訪ねると、ソフィアに軽蔑してもらうつもりが、頬を赤らめた。
「あいつら、できてんのか?」
「でもエリオットの成績は確かギリギリだったろ?」
「クルーヴァーを倒してるのはみたけど、たまたまだったもんな」
予想とは違うが、とりあえず問題ないらしい。
前髪を下に下げているのがいいみたいだ。
そのまま先生がやってくるとHRが始まった。
この学校がいかにすごいか、選ばれた集団か、まあわかりやすい話ばかりだ。
そのまま座学がはじまり、無事に一時限目が始まった――。
◇
「シルク、どうだった?」
「楽しかった! お友達もたくさんできた!」
「そうかそうか」
「私も楽しかったです。久しぶりに同学年たちと混じって、普通な気持ちになれました。んっ、このパン美味しいですね」
「だろ? 王都でいいパン屋を見つけたんだ」
お昼休み、食堂はちょっとのんびりできないので、屋上で持参したパンを食べていた。
卵パン、カレーパン、メロンパン、焼きそばパン。
もちろん――リスとニアの手作りだ。
驚いたことに、俺のことを知って朝届けにきていた。
屋根の上に登ってる黒ずくめの二人を見たときは目が飛び出しそうになった。
『ブラック様、お弁当パンをご用意しました』
『パンをパンパンにしときました』
『気持ちはありがたいが、朝に黒い服はダメだ。後、兵士にみつかったら俺がヤバイ』
皇帝陛下に嘘はバレる。
明確に聞かれたら終わりなのだ。
厳重に二人を注意しつつ、パンにはお礼を言った。
一口食べると、あまりの美味しさに微笑んだ。
俺がいなくても盛況らしいのでひとまず安泰だ。
これからもっと仲間も増やす予定もある。
いい感じだ。何もかもが。
「このパン、よく見たら王都で今話題のパン屋さんですよね。帰りにいってみようかな」
「え? このパン屋がそうなの?」
「はい。シルクちゃんも行く?」
「行くー!」
俺が知らない間に話題になっていたらしい。
ちなみにシルクにパン屋の事は伝えていない。
純粋無垢すぎて皇帝陛下にバレるとよくないのと、彼女は表だからだ。
とはいえここでパン屋に行くなというのも変だ。
二人で行かせても問題ないだろうが、シルクはリスの事を知っている。
とは時間の問題だったか。
多少は認識してもらっていたほうがいいだろう。
「なら俺も付いていくか」
「わあ、よかったねシルクちゃん」
「うん!」
リス、ニア、お前たちのアドリブ力を信頼してるぞ。
「くちゅんっ」
「大丈夫? リス、風邪?」
「うーん、寒気とはかないんだけどね……そういえばニア、今日の売り上げ金ちゃんと金庫に保管した?」
「今からやるよ。――え、あの人達、誰?」
「え? ――きゃあああああああああああ」
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