011 ブラック軍団発足誕生

「――ハァッ」

「いいぞ。だが重さが足りない、もっとだシルク!」

「はい!」


 王立中庭、シルクを鍛えていた。

 

 順調に魔力が育っているおかげで強くなっている。

 俺の将来に向けてもっとすくすくと育ってほしい。


 そのまま一撃を与え、俺の勝ち。


 適度な負けず嫌いにさせるのも、訓練の一つ。


 決して甘やかさない。


「エリ兄は強すぎるよお……」

「かもな。甘いもの食べるか? 王都で美味し所を見つけたんだ」

「食べる食べる! えへへ、食べるの大好き」

「うんうん、俺もシルクが食べている所を見るのが大好きだ」

「えへへ」


 シルクは微笑みながらにへへと笑った。

 そして、本題に入る。


「けどその前にやる事がある。今日・・がその日だ。覚悟はいいか?」

「――もちろん。私と同じような人は、絶対に作りたくないから」

「いい気概だ。俺は手をださない。シルク、頼んだぞ。それにこれはソフィアにバレていけない。それもわかってるな?」

「はい、エリ兄の為なら、私は何でも」


 うんうんいいねいいね。

 信頼度も上がってきている。


 シルクはいい子だ。


「さて時間だ。いくぞ」


   ◇


「イーヒッヒヒヒヒ、お前さんは高嶺で売れそうだなあ」

「…………」


 深い地下、下卑た笑いのオッサンが、鉄格子に入った女の子を見ながら笑っていた。

 本当に反吐が出る。


「――シルク、いけ」

「はい」


 そこにシルクが飛び出した。

 ここは奴隷商人の秘密基地。


 原作ならエピソード2・見慣れぬ地下通路へ2Bだ。


 とはいえそのあたりはどうでもいいが。


 もちろん護衛もいる。

 屈強な男たちが、シルクの前に立ちはだかった。


「何だガキ?」


 俺たちは変装していた。

 黒いフードにお面、完璧だ。


 シルクの顔は視えないが、その裏は怒りに満ちているだろう。


「横取りしようってかァ?」

「――お前らも売り払ってやる」

「ガキが」


 俺はこの世界が腐っていることを知っている。

 如何にあの素晴らしい皇帝陛下であっても、原作の設定からは逃げられない。


 闇は、絶対に存在する。


 だからこそ摘み取ってやる。

 ついでにな・・・・


 シルクは目にもとまらぬ速度(俺には見える)で動き、男たちを気絶させた。

 その鋭さは惚れ惚れするみたいだ。


 そのまま鉄格子を――素手で破壊した。

 とんでもない力だ。


 だがそのとき、隠れていた男が現れ、シルクを狙った。


「がぁっあくあああ」


 だが俺が前に出て、それを止める。

 手を出す予定ではなかったが、予定変更だ。


「気づかなかった……」

「ま、このくらいは俺もな」


 そして俺は、少女を見た。

 決して善意からじゃない。俺の――駒として動いてもらうために助けたのだ。


「声は出せるか」

「あ、う、う……だ、だせます」

「俺がお前を助けたのは善意じゃない。お前みたいな奴らをこれから助け、俺の組織を作るからだ。そしてそのリーダーの役目を、お前にになってもらう」

「リーダー……?」

「ああ。だがこれは強制じゃない。お前の人生はお前が決めろ。だがもしお前が俺に着いていくというなら、全て叶えさせてやる。幸せも、金も、場所も、全部な」


 シルクのときもそうだったが、俺は強制が嫌いだ。


 彼女の肌は浅黒く、耳が少しぴょんとしている。

 人間じゃなく、ダークエルフなのだ。

 本来は売買される。


 このまま死ぬ予定だった。


「……美味しいごはんも食べられる?」

「ああ、そんでもって、お前みたいなやつも助けることができる。だが覚悟しろ、人を殺す覚悟をだ」


 シルクは表、彼女は裏だ。

 非情だが、偽善じゃない。


 俺の幸せの為、しいてはこいつの幸せの為でもある。


「……人間は嫌い。でも、それを隠さないあなたの事は信頼できる。私は、あなたについていく――どこまででも」

「ハッ、いいだろう。とりあえず風呂に入らせてたらふく飯を食わせてやる。今日はたっぷり寝て、なんだったら一週間ほど堕落した生活をしろ。だがその後からは訓練だ。もし弱ければこの話はなしだ。1人で生きてもらう」

「わかった。私、頑張る」

「ああ、いい顔だ。シルク、メイドのしながら面倒をみてやれよ」

「わかりました!」


 さあて、ブラック軍団の一人目だ。


 俺の彼女500人の為に、がんばってもらおう。


「ま、先に甘い物食べに行くか」

「行く!」

「あ、甘い物?」

「ああ、最高に美味しいもんだ。行くぞ」


 表向きは従者、裏ではボス。


 はっ、最高じゃねえか。


 でももっと、おっぱい大きい仲間もほしい。


「そういえば名前は?」


 原作では死ぬはずだった。

 一文だけしか語られないが。


「……リス」

「リスか、いい名前じゃないか。――これからよろしくなリス」

「はい! ご主人様!」

「ごしゅ……ま、いっか」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る