008 すれ違いは煩悩と覚悟の中に

「これ、美味しい……」

「はっ、食べるの初めてなのか?」

「うん、でも太りそう」

「そうか、いいことだな」

「え、なんで!?」

「美味しいってことだからな」


 秘密のデート兼カロリー調査。

 おそらくこのくらいだろうという数値を書き込みながらの食べ歩き。


「何を書いているんですか?」

「市場を調べてるんだ。何でも役に立つからね」

「エリオットは勉強家ですね。何でも取り入れようとして、凄いです」

「そんなことないよ(本当にそんなことはない)」


 王都は綺麗だ。

 さすが主人公の国というべきか、街並みが整備されている。

 

 途中から気づけばメモを取るのも忘れて、すっかり楽しんでいた。


 綺麗な丘で、王都の街並みを一望する。


「すげえな」


 俺が今いる世界はゲームだが現実だ。


 それが、心にぐっときた。


「はい、本当に綺麗です」

「シルクにも見せてあげたいな。きっと喜ぶ」

「ふふふ、二人は兄弟みたいに仲良いですよね」

「ああ、でもソフィアもじゃないか」


 シルクとソフィアは日に日に仲良くなっている。

 メイドの勉強としてお風呂の作法を教わる名目として、いつも一緒に入っているらしい。


「シルクちゃん、いつもエリオットのことを褒めていますよ。おかげで毎日満腹で幸せだって」

「よかった(本当に良かった)」


 だが本当にシルクは幸せそうだ。

 竜人族は生きているだけでお腹がすく。


 だが城なら食べ放題だからな。

 食費もかからないし。


「エリオットは、将来どうしたいのですか?」

「そうだな、幸せに暮らしたいだけだよ」

「それほどお強いのです。何でも出来たのでは?」

「そんなことないよ(本当にそんなことはない、いつか殺されるからね)」


 ソフィアは、ふふふと笑う。


「無欲な方ですね」

「いや、強欲だよ(ガチで)」

「ありがとうございます。最近、ずっと力を入れすぎていました。これから、適度に力を抜いていきます」

「ああそれがいい。何事もやりすぎは疲れるからな」


 エリシアは丘を降りようとする。

 そのとき、倒れこみそうになり、俺は急いで支えた。


 目と目が合い、唇がぷるんっと震えていた。


「エリオット……」

「ソフィア」


 思わず吸い寄せられるようになるが、思いとどまる。

 

 彼女は王女だ。婚約者でもない俺がそんな不敬は許されない。

 だが本当にいい子だ。

 

 俺みたいな偽物ではなく、もっといい人がいるだろう。


「さて、いこうか」

「はい……」

「どうした?」

「何でもない。やっぱり、頑張ることにします!」

「何の話だ?」

「何でもありません」

「頑張らなくていいって!(どうせ合格するし、世界も君の物だよ!?)」

「頑張るんです(きゅん的な意味で)」

「な、なんで!?」


 うーん、なかなかままならん。


 けどま、それを支えるのは俺の役目だ。


 今後彼女にはおそろしいほどの悪意や困難が降りかかる。

 そのすべてを、俺が振り払う。


 原作でソフィアは苦しい目にあっていた。

 悲しい出来事もいっぱいあった。


 けど、それは全部俺が止めてやる。


 最高の幸せを与えてやる。


 たとそれで俺自身が傷つこうとも構わない。


 結果的にそれもすべて、俺の為だからな。


 彼女が100人できるまで、死ねないのだ。


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