006 絶対に怪我をさせてはいけない24時(with皇帝陛下)

「ハァアッ!」

「ひぇえっ」

「ハアアッアハアッ!」

「あぶなっ、あっあっ」


 俺は、真剣でソフィアと中庭で向かい合っていた。

 風を切る音、耳にヒュンっと聞こえる。


 え、今の下手したら死んでたよね?


「流石です、エリオット・ハヴィラント。私の剣をここまで回避できるとは」

「まあな、そっちもなかなかじゃないか。ソフィア」


 視界の端では、皇帝陛下が両手でお祈りをささげていた。

 

『え、なんで真剣でやるのだ? ソフィア』

『これが戦いの礼儀だからです』

『いやそれはあぶない、あぶないぞ』

『大丈夫です』

『いやちょっとでもそれは……』


 ということだ。

 皇帝陛下は俺を睨んでいる。

 今まで関係が良好だっただけに恐ろしく感じる。


 絶対に怪我は負わせられない戦い24時をやっている気分だ。


 俺はエリオットとしての記憶のせいで身体が勝手に動く。

 無意識に捻じ伏せようとしてしまうのだ。


 何度かそれでヒヤヒヤしたが、ソフィアはそれを受け止めた。


 尋常じゃない反応速度。

 まだ成長途中だというのに、さすが原作主人公だ。


 すごい、さすがだ。


 だからもう、やめたい。


「もういいだろう、十分だ」

「いいえ、あなたは手加減しています。もっと強いところを見せてください」


 さすがにわかったか。


 ――なら。


「後悔するなよ」


 俺は魔眼を発動させた。

 ソフィアは驚く、だがすぐに真剣な顔つきに戻る。


 よく訓練されている。

 だが視えている。


 動いても魔力の流れが。


 次の瞬間俺は、彼女の喉元に剣を立てていた。


「勝負ありだ」

「……なんて速さ」


 ちらりと皇帝陛下を見る。

 よくも我が娘をみたいな顔をしている。


 俺は急いで手を掴む。傷はない。ホッと胸をなでおろした。


 そのときか細い声で話しかけてきた。

 良い声だ。


「覚えてますか? 舞踏会のことを」

「ん?」


 記憶をたどる。

 一度だけ踊った気がする。


「あのとき、私のことを綺麗だといいましたよね」

「……ああ」


 そうだっけ? そうなの!?

 このチャラオットめ。


「あの時は驚きました。ですが、私の為に亡命までしてくれるなんて思いませんでした」

「ふぇ?」


 そういえば……のちに語られるエピソードだが確かエリオットは彼女が好きだった。


 ある意味では俺もそうだ。

 原作でもソフィアの事が好きだった。


 とても綺麗だし、真面目で、なおかつ心がまっすぐなのだ。


 だが――。


「まあな。でも、お前の為だけじゃない。半分は俺の為だ」

「……ふふふ、嘘でもはいといっていればいいのに、正直ですね」

「だな」


 ソフィアはペコリと頭を下げる。

 そして――。


「指南役、これからも是非宜しくお願いします」

「ああ、よろしくな」


 ちらりと視線を向ける、皇帝陛下の顔が少し穏やかになっていた。

 俺も安心する。ミッションクリアだ!


「これからがんばろう(適当でいいよ、どうせ合格するし、君、最強だからとは言えない)」

「はい。これからは婚約者としてもよろしくお願いします」

「え?」


 ちらりと横を向く。

 皇帝陛下が、また怒っていた。


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