005 エリオット・ハヴィラントの次回作をお楽しみください

「ふぁあああ」

「すぅすぅ……」


 俺の隣でよく眠っているシルク。

 うんうん、胃袋も休めているだろう。


 起こさないようにベットから降りて、窓を眺める。


 綺麗だ。綺麗すぎる街並み。


 まるで王様になった気分だ。


 まあ、本来ならそうなれたのだが。


 破滅の王として。


 だが今は違う。

 後は自身の能力を皇帝陛下と王女の為に使えばいい。

 

 相手からすれば有能な手駒が手に入ったのだ。これほど使い勝手いい奴もいないだろう。


 そして、鏡に映る自分を見つめる。


「……かっこいい」


 落ち着いたら彼女をいっぱい作ろう。

 友達100人出来るかなという歌があったが、俺は彼女100人出来るかなをしよう。

 うんうん、目標は高いほうが燃えるよな。


 そのとき、シルクが目を覚ます。


「ふぁああ、おはようエリ兄」

「おはよう。お腹空いてるか?」

「うん!」

「よし、いっぱい食べような!」

「うん! エリ兄ぃ、ありがとう! すき!」

「俺もだよ」


  ◇


「おいしい、おいひい」

「ゆっくり噛んで食べろよ」


「ほう、よく食べる娘だな。――もっと持ってきてやれ」


 ナイスアシストだ。皇帝陛下・・・・


 すさまじいほど大きなテーブルに並べられた食事、この場にいるのは、皇帝陛下、ソフィア、俺、シルクだ。


 朝食に呼ばれたが、まさこの面子だとは。


 さすが王国一の大胆な皇帝陛下――ベルフェス。

 普通はありえないだろう。


「その子がまさか竜人族だったとはな」


 その言葉に、俺は生まれて初めてドキッとした。といっても、ある意味では生まれてそんなに経っていないが。

 昨晩の間に調べたのだろう。


 食べるほど強くなることも理解しているはず。


 下手な受け答えをすると嘘になるな。


「そうだ。俺が拾った」

「はっ、嘘ではないのか」

「ああ、俺は嘘をつかない」

「みたいだな。シルクとやら、君は食べるほど強くなる。知っているか?」

「え? そ、そうなの?」


 あっさりとばらしやがった。

 まあいい、いずれ教えるつもりだった。


「そうだシルク、自分の身を守るためにも食べるんだぞ」

「わかった!」


 これは嘘じゃない。本当だ。

 ついでに、ついでに俺も守ってくれ。


「で、朝から俺を呼んだのには訳があるんだろう?」

「もちろんだ。ソフィアの側近護衛についてはまだ保留だが、少し手ほどきをしてやってくれないか」

「手ほどき?」

「エリオット・ハヴィラント、お前の強さは知っている。入学試験までに、それなりに鍛えてやってくれ」

「はっ、この国はそんなに人材不足なのか?」

「強すぎるのだよ。ソフィアがな」


 まあ、原作主人公だもんな。


「そしてこれは私ではなく、ソフィアたってのお願いなのだよ」

「? そうなのか」

「お、お父様!? それは言わない約束では!?」

「どうせこの目には何も嘘をつきとおせない。私と同じだ」


 秘匿のはずだが、俺の目の事も知っているらしい。

 なるほど、やはり将来、俺は負けるべくして負けるんだな。


 というか、ソフィアのやつ、なんか頬が赤いな。


「俺は構わないが、いいのか? 周りから反感を買うぜ」

「私は自身の能力に絶対の自信を持っている。お前が嘘をついていないことをな。利用するなら、早い方がいい。お前の国の情報を集めるのは、周りを安心させるためだ」


 その自信は、俺にとってはありがたい。


「構わない。どうせ当分は暇だろうしな」

「ははは、お前はやっぱりおもしろい」


 この国は強い。強いが、敵も多い。


 最初からこうなることはわかっていた。

 つまり俺は王女のボディガードだ。

 それ自体は構わないし、むしろ願ったりだ。


 でも俺、稽古とかできるのか?


 まあいいか。


 ソフィアは頬を赤らめていた。

 どうやら恥ずかしいらしい。そのもじもじも初々しい。

 将来を俺を百連撃で刺殺するはずだったが。


「わ、わたしは……」


 確かにそうだ。シルクは強くなるが、今は違う。

 やることがないのもつらいだろう。


 できるだけカロリーも消費してほしい。


「だったらシルクにメイドの仕事を覚えさせてやってくれないか。もし学園に入学するなら、お付きとして入学することもできるはずだ」


 学校には従者とメイドを連れていける。

 シルクを連れて行けば、俺も楽ができる。

 シルクも、俺といたいはず。


「ほう、おもしろい提案だ。シルク、君はどうしたいんだ?」

「や、やってみたいです」

「ならメイド長に伝えておこう」


 原作主人公のソフィア、最強の竜人族シルク、そして最強で最凶のイケメンこと俺、エリオット。

 誰にも負ける気がしない。


 あれ、もう完結じゃね?


 エリオット・ハヴィラントの次回作をお楽しみくださいじゃね?


 バラ色だ。バラ色。うーんバラ色。


 とはいえ、しっかりと聞いておくか。

 交渉の為、先に伝えたが、断りづらかった可能性もある。


 俺は、シルクに声をかけた。


「でも、本当にメイドとして働くでいいのか? もっとゆっくりしたいのなら、それでもいいんだぞ」


 昨晩教えてくれたのだが、シルクは家族がいないという。

 竜人族は食べると強くなる。けれども、それは食べなきゃいけないほどエネルギーも消費する。

 そのあたりは濁していたが、捨てられたのだろう。


 身寄りも居場所もないシルクだが、そこに付け入りたくはない。最終決定権はちゃんと彼女にある。

 あくまでも俺は支えてあげるだけ。


「エリ兄ぃは私をたすけてくれた。その恩を、返したい」

「そうか……でも、いやになったらすぐに言うんだぞ」

「わかった!」


 俺はエリオット・ハヴィラント。

 作中と同じで自己中だが、他人にまで強要したくない。


 それに近くにいる人くらいは、幸せにできたらいいよなぁ。


「ほら、ほっぺ汚れてるぞ」

「えへへ、ありがとう」

「シルク、ほらこのハム美味しいぞ」

「うん、食べる!」


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