004 勝ち組チーズとバタ子さん。
「ふむ、お前がエリオット・ハヴィラントか」
「如何にも」
「隣の少女は?」
「我が従者、シルクです。――彼女には手を一切出さないでもらいたい。もし、指一本でも触れたり傷つければ、俺は死を覚悟してでも暴れ倒すつもりだ」
「ほう、その
原作でこのゲームはテンポの良さが売りだったが、現実世界でこれほど展開が進むのは俺だけだろう。
いま俺は、敵国の皇帝陛下を前にして鎖で繋がれていた。
さらに隣には屈強な二人の兵士が、首に剣を突き付けている。
だがシルクは違う。
鎖で繋げようとしたが、俺が止めた。
幼い少女、シルクに罪はない。
それに今はたらふくご飯を食べたところだ。
過度なストレスは胃液の働きの邪魔をする。
シルクには笑顔でいてほしい。
「それで、何を考えている?」
皇帝陛下は俺を見据えて、実に的確な質問をした。
無駄がない。
すべてを答える必要がある言葉だ。
温和育ちな顔ではなく、まるで歴戦の戦士のような風貌だ。
高齢だろうが、それを感じさせないほど体躯もしっかりしている。
問答を間違えればそのまま断罪されてもおかしくないだろう。
そしてその横には、この国の王女であり、娘のソフィア・オーリアルスが立っていた。
華憐な少女、長い赤髪、この世の物とは思えない綺麗な顔立ちだ。
俺は、少しだけウィンクした。
イケメンフェイスのファーストアタックだ。
「俺は自分の国を見限った。いずれ滅びるだろう。だがこの国は違う、国民を想い、そして未来がある。だから亡命しにきたんだ。わかるだろ?」
「貴様、不敬だぞ――」
俺の物言いに、隣の騎士と思われる男の一人が激怒した。
少しばかり偉そうだが、このくらい堂々としたほうがいい。
ハッタリは大事だ。
「良い。――エリオット・ハヴィラント。噂に違わぬ面白さだ。この状況でも落ち着いた様子、子供とは思えぬ目、私はどんなことにも驚かない性質だが、今は違う」
「光栄です」
皇帝陛下――ベルフェス・オーリアアルス。
世界最強の王だ。
原作でエリオットの国を打ち負かす男でもある。
考えれば単純なことだ。
勝てる軍に付けばいい。
もし転移先がジオン公国軍だったら、誰だって地球連邦軍のアムロにつくだろう。
それと同じだ。
さらにわかりやすくいうならば、バイキンマンよりアンパンマン側につくだろう。
さらにもっとわかりやすくいえば――。
「で、何を望む? 何が欲しい?」
「安定と安全とアンパン、そして衣食住があれば」
「アンパンとはなんだ?」
「間違えただけです」
思考と混ざってしまった。やめておこう。
「ふむ、それでこちらは何を得ることができる?」
「――私自身です。知っていると思いますが、私はとにかく強い。更に鼻が利きます。裏と表で活躍していたことは、あなたならご存知のはず。そしてソフィア王女が、多くの敵から狙われていることも知っています」
これはある意味では当たり前なことだ。
原作主人公であるソフィアには敵が多い。そのくらい知識でもなんでもない。
だが俺は、いつどんな時に彼女が危険な目に合うのかわかる。
それを使えばいい。
敵ではなく、側近として。
例えるならアンパンマンのチーズだ。
守るワン!
「ほう、やけに大きくでたな」
「もちろんそれだけではありません。この国の強敵となる奴らも、できるかぎり排除します」
俺の言葉に、皇帝陛下は豪快に笑う。俺は知っている。
ソフィアの側近に誰を付けるのかずっと悩んでいたことを。
なぜなら彼女は強い。強すぎるのだ。側近騎士がそれよりも弱いと意味がない。
といっても、護衛を付けないのもありえない。
そこで俺の出番だ。
俺の強さは、彼らなら知っている。
「フフフフハハハハハ! おもしろい、おもしろいなエリオット。確かにお前の強さは知っている。だがこっちとしてもはい、そうですかとは言えぬ。嘘の可能性もあるだろう」
「いや、俺が嘘をついているかどうか、あんたならわかるはずだ」
「貴様、何度いったらわかるのだ! その口調を辞めろと!」
「良い。エリオット、なぜ
「そりゃ敵国の王だ。何でも調べておくさ。それに、だからこそ信憑性もあるだろう」
ベルフェス・オーリアアルス。
彼もまた俺と同じく神に愛された男だ。
授かった能力――それは、他人の嘘を見破ることができる。
俺の言葉が、全て真実だとわかったはず。
だからこそここへ来た。話さえ聞いてもらえれば、信用してもらえるとわかっていたからだ。
「ははははは! いいだろう。だが全てを把握するまではこの城から出ることはできぬぞ。お前の国を調べないといけないからな」
「願ったりだ。どうせ外は危険だしな。とはいえ独房はごめんだ。ちゃんと客人として扱ってもらいたい」
「もちろんだ。その物言いもある程度許そう。――で、シルクとやらはどうする?」
「彼女は俺と一緒だ。一心同体。決して離れない。食事もいっぱい食べさせてあげてくれ」
こいつめ、スーパーラッキーロリガールは手放さないぞ!
たらふく食べさせてやるんだからな!
「ふむ、シルクとやらはそれでいいのか?」
「わ、わたしも……エリ兄と同じ気持ちです」
「妬けに懐いているな。――いいだろう。今日はゆっくり眠るがいい」
「――一つだけ」
「なんだ?」
「俺は駒みたいなもんだと考えてくれればいい、使いたいときはなんでもいってくれ」
「ははは! いい条件だな」
「俺にとってもな」
「気に入った。ソフィア、それに騎士団長、エリオットとシルクを案内してやれ」
「皇帝陛下、あまりにも危険すぎますよ」
「奴は嘘をついておらぬ。――ソフィア、良いな?」
「はい」
騎士団長にはかなり睨まれたが、皇帝陛下には信用してもらえたらしい。
「どうぞこちらへ」
「はい。いくぞシルク」
「う、うん」
奴隷商人に捕まる⇒謎の男に助けられる⇒一凛の花を挿された山賊を眺める⇒飯屋でたらふく食べる⇒亡命⇒高級な廊下を歩く。
シルクの一日を考えると、少し申し訳ないな。
とんでもないハッピーセットだ。
胃液の為にもゆっくりしてもらおう。
案内された部屋は、とんでもなく豪華だった。
いい匂いがする。
天窓付きのベット、俺はシルクの手を放す。
嬉しさのあまりか、部屋を走り回る。
運動は大歓迎だ。胃袋に隙間ができるからな。
「ありがとう、ソフィア王女」
「どうして私の名前を?」
「一度会ったことがあるだろう。それほどの美貌を、俺が忘れるわけがない。いや、そうじゃないな。君はメイドにとても優しかった。それが忘れられなかったんだ」
俺たちは過去、舞踏会で会っている。
といっても、それが最後で国は仲たがいしたが。
とはいえ俺がどれだけイケメンフェイスのイケメンヴォイスでも、ソフィアが懐くことはないだろう。
彼女はそれだけ誇り高いからだ。
「……嬉しい」
「え?」
「あ、いえ。――それでは」
そう言った彼女の頬は、なぜか赤かった。
なんでだ? まいいか。
「エリ兄ぃ、眠い……」
「ああ、もう寝るんだ。しっかり胃袋を休めなさい」
「おやすみ……」
「おやすみ」
ベッドに横になり、天井を見上げる。
さいっこうだあああああああああああああああああああああああああああああ
勝ち組だ。勝ち組。
これで俺は安泰だ。
なんたって、ソフィアは、原作主人公だ。
もう何も怖くないワン。
明日からいっぱいソフィアの為に代わりの顔を焼こう。
「おやすみバタ子さん」
「シルクだよ……エリ兄ぃ……」
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