003 大胆不敵なナルシストボーイ

 何とか目的地の王都に来た俺たちは、手ごろな食堂に入り、おすすめの食事を頼んだ。

 たらふくのご馳走がシルクの前に並ぶと、すぐに食べ始める。


「おいひい……おいひいよおお……」

「そうか、良かったな」


 本当に良かった。

 シルクの喉が怪我をしてなくてよかった。


 胃袋が機能していて良かった。

 

 魔眼を発動させる。魔力が少しずつ増えるのを確認した。


「ほら、水も飲め。ゆっくり、そしてたくさん・・・・食べろよ」

「うん! ありがとうエリ兄ぃ!」

「いい子だ」


 頭をなでなでと撫でる。

 いっぱい食べるには、よく喉が通るようにしたほうがいい。


 しかしよく食べる。

 この分なら早く強くなりそうだ。


「おい親父、スイーツも頼む」

「へ、へい!」


 シルクは、申し訳なさそうに俺を見ていた。


「……甘いものも食べていいの?」

「当たり前だ。食べたいだけ食べなさい」

「やったああ。でも、……どうしてそこまでしてくれるの?」

「食べている姿を見るのが嬉しいんだよ」


 シルクは大変喜んだ。

 俺も喜んでいた。


 嘘は一切ついていない。そもそもウィンウィンだ。

 聞かれたら答える。


 聞かれたらな。


 さて、これからのことを考えよう。


 スーパーラッキーロリガールを手に入れたのはまたとない行幸だ。

 目の癒しにもなるし、何よりも将来の安泰レベルが上がった。


 だが後ろ盾が一切ないことには変わりない。

 俺が消えたことは、すぐに誰かが気づくだろう。


 表と裏で優秀だった俺だ。

 王家の奴らは特に血眼になって探すはず。


 このまま冒険者となって旅に出てもいい。

 シルクと一緒ならどんな魔物、敵にも負けないだろう。


 だけどその場合、その日暮らしになる。

 

 剣と魔法の世界は憧れるが、面倒な生活になるのはごめんだ。


 俺はシルクの食べっぷりをみながら覚悟を決める。

 元からその予定だった。後は、一歩を踏み出すだけだ。


「俺は今からあることをする。下手したら断罪されるかもしれない。だが、ついてきてほしい」

「え、な、なにするの?」

「未来の幸せの為に行動するんだ」


 突然拾って、突然ご飯をいっぱい食べさせて、突然決断させる。


 すごいな、サイコパスすぎないか俺?


 まあでも、何でも早い方がいい。


「エリ兄ぃは私を助けてくれた。だから、ついていく」

「――ありがとうな。もうお腹いっぱいか?」

「うん!」

「デザートはいいのか?」

「いっぱい食べた」

「そうか、飴ちゃん一個ぐらいは入るだろ?」

「入るかも」

「よしよし、いい子だ」

「えへへ」


 そういって俺はシルクに飴ちゃんをあげた。

 胃の消化は一定だ。毎日頑張ってもらわないと。


 もちろん無理はさせない。

 食べたくない子に食べさせるなんてありえない。


 魔力の増加も遅くなるからな。


 そして俺は、憲兵に声をかけた。


 この王都は、俺が住んでいた場所からそこまで遠くないが、普段は足を踏み入れない。


 なぜなら――敵国の領土だからだ。


 中に入ったのも、隙を見て入った。


「あ? 何だお前?」

「俺は、エリオット・ハヴィラント」

「……エリ――お前、まさか!?」


 俺は、堂々と胸を張る。


「皇帝陛下に会わせてくれ」


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