悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
13-76 心の闇! 魔王の器は誰なのか!?
13-76 心の闇! 魔王の器は誰なのか!?
アスプリクでもなく、マークでもない、想定外の第三者を魔王にする!
黒衣の司祭カシンより告げられし情報に驚きはしたが、それ以上の問題があった。
そうなった原因はティースにあるのだと言う。
「我が麗しの花嫁よ、お心当たりは?」
「あるわけないでしょ!」
カシンからの一言は、ティースにとって完全に寝耳に水な話であった。
ティースにしても、誰がなろうが魔王覚醒は断固阻止である。世界の破滅を望む存在など、お近付きにもなりたくないし、関わってもろくな事はないと分かり切っている事だ。
にも拘らず、自分のせいで魔王がこの世に飛び出すなど、考えたくもなかった。
「どうせ、あれでしょ! 口から出まかせを言って、こちらを攪乱しようって言う魂胆ね!」
「そうであれば、お前にとっては喜ばしい事なのだろうが、生憎と、この件に関しては本当だ」
カシンの口調は自信満々であり、裏表のなさそうなはっきりとした態度であった。
どうするべきか迷うティースは、自然と頼りたくないけど頼らざるを得ないと考え、夫であるヒーサに視線を向けた。
「……まあ、事実であると思うな」
「根拠は!?」
「わざわざそんな事を、こちらに告げてきた点だ。この場合は二つの理由が浮かぶ。一つはティースが言ったように、攪乱目的だ。もう一つは、優位性の誇示だ。もうこちらが手の打ちようのない状況になっており、それを誇示してこちらが慌てふためくのを見て愉悦に浸る。実に嫌な性格だ」
「ヒーサによく似てますね!」
「バカを言うな。私はカシンほど、あくどい事はしておらん」
やっぱりこっちも性格が悪いと、ティースはため息を吐いた。
この二人が互いに嫌い合っているのも、ある種の同属嫌悪に近いと感じ取った。
「さすがに察しが良くて、いちいち説明の手間が省けるというものだ。そう、ティースがもたらした“あれ”によって、事態は大きく動いた。二人の魔王候補を闇落ちする手間が省けたと言うものだ。なにしろ、新たに選定した“第三候補”は、すでに十分すぎるほどに“心の闇”が蓄積され、器に魔王を降ろす儀式さえ執り行えば魔王として、覚醒するのだからな!」
「なんですって!?」
ティースはますます混乱した。
自分のせいで魔王覚醒が間近に迫っているなど、考えたくもなかったのだ。
一体何をしたらそうなるのか、自分がどういうものを提供してしまったのか、これといったものが全く思い浮かばず、動揺する一方であった。
そこにマークが進み出て、
映像なので無駄だとは分かっているものの、手には剣が握られており、牽制するかのようにその切っ先をカシンに向けた。
「カシン、聞きたい事がある」
「何かね? 答えられる範囲で答えよう」
「その“第三の候補”とやらは、ティース様ご自身か?」
これがマークにとっての最大の懸案事項であった。
自分が候補から外れたのであれば、それに越した事はないが、ティースが新たに魔王に成ると言うのであれば話は別だ。
守るべき主君が、倒すべき魔王に変じてしまうなど、マークには耐えられなかった。
後事を託した
そんなマークの不安をよそに、カシンはニヤリと笑って応じた。
「そんなわけなかろう。ティースのどこに“心の闇”があるというのか?」
「……なら、ティース様が魔王になる、と言う事ではないのだな?」
「私の言葉を信じるかどうかは任せよう」
判断に困る物言いであり、マークもまたティース同様、迷いに迷った。
目の前にいる黒衣の司祭は絶対に信用ならない相手である。今まで散々やり込められてきただけに、マークも慎重であった。
嘘と真の折り重ねで、“真の狙い”を隠匿しているのではないか、というのが今のマークの判断であった。
だが、判断するには情報が少なすぎるので、決断しかねていた。
ただ一つだけはっきりしているのは、
(ティース様は酷い状況だった。家族を失い、地位や名誉も失って、ナル姉まで殺されてしまったに等しい。でも、立ち直った。強かに、図太く、吹っ切れたと言ってもいい。そう、あの男がなんやかんやで手を回していた)
チラリと向くマークの視線の先には、ヒーサがいた。
マークから見て、ヒーサは正真正銘の大悪党である。世間で言われているような、聡明で慈悲深い貴公子などでは決してないのだ。
誰よりも強欲で、何より狡猾で、常人ならば躊躇う策も平然と実行し、不都合は他人に押し付け、成果だけはきっちり手中に収める。
これがマークの見てきたヒーサの姿であった。
最初の頃はよく擬態してヒサコに押し付けて、自分はあくまで善良な学者肌の貴族を装っていたが、化けの皮が剥がれてからはその内に秘めた怪物が暴れ出し、結局は力負けしたようなものであった。
(でも、今にして思えば、全部“対魔王”の動きであったと考えられる。ギリギリだけど、ティース様は自分を保たれ、その上で一皮むけた。もうひたすら前だけ見て進まれるだろう)
ヒーサに対して憎まれ口をたたくティースであったが、マークにはそれが“じゃれ合い”以外の何ものでもないと認識していた。
何かにつけてヒーサに攻撃的な態度や口調で応じるが、一度も“本気の殺意”を感じ取った事がなかったのだ。
自身も暗殺者の端くれでもあるし、気配を探ることくらいはできた。
結論から言えば、ティースはヒーサに対して“好意”を持っている。夫婦としてはどうか分からないが、少なくとも“
折角、自分の息子を王位につける事が出来たのだし、過去の事は吹っ切れてしまって、稼げるだけ稼いでしまおうとさえ考えているようだ。
(ナル姉がいなくなったときはどうなる事かと思ったけど、今はしっかりと二本の足で立っている。確かに、この状態なら“心の闇”は“明日への希望”で消されていると言っても差し障りないか)
そう結論付けたマークであったが、そうなるとやはり引っかかる部分が出てくる。
(俺自身でも、アスプリクでも、ティース様でもなく、魔王の“第三候補”は誰なんだ? もしかして、本当に“あれ”か!? だが、確証はない。それに、ティース様がやった“何か”も見えてこない)
結局のところ、情報不足が壁になって、全体像が見えないのであった。
マークも必死で考えているが、“心の闇”を抱えていて、魔王に相応しい実力を持った人物が誰なのが分からなかった。
唯一の例外は、すぐ側にいるヒーサだけだ。
(どう考えても、この人が魔王っぽいよな。言動ともに、実に腹黒い。しかし、魔王は世界の意志に従い、世界そのものを破壊するということだ。それはこの人の“趣味”に反している。破壊するより、面白おかしく“作り変える”のが、いつものやり口だし)
一番魔王っぽいのに、魔王になるとは思えない。それがマークのヒーサに対する評価であった。
やはりカシンの攪乱なのだろうかと、マークも疑い始めた。
そんな思考をしていると、ヒーサが遂に動き出した。
マークよりさらに前に出て、カシンの映像と触れ合うかと思えるほどに近付いた。
息を吹きかければ、届くほどの至近だ。
「さて、カシン、“最期”に一つ頼みたい事がある」
「何かね?」
「アスプリクを解放してはくれないだろうか? その娘は“私のもの”であって、お前のものではないのだからな」
スッと手を伸ばすと、ヒーサはアスプリクの映像に触れた。
もちろん映像であるので、触れる事はできないが、あたかもそこに実体があるかのように頭を撫で、同時にカシンを睨み付けた。
「もちろん、そんな言葉を受け入れはせんよ」
「どうしてもか?」
「そうだな……。お前の言葉を借りるのであれば、これもまた“戦国の作法”なのだろう?」
「ん~。そう言われると、返す言葉がないな」
弱肉強食、力こそすべて、欲しければ奪い取る。これこそ戦国乱世のやり方である。
ヒーサこと松永久秀が通してきたやり方であり、やったからにはやり返されても文句は言えないのだ。
欲しければ奪い返しにくればいい。ただそれだけの、単純明快な法理であった。
「では、仕方がないか。……
小さくボソリとヒーサの口から漏れ出た言葉。静かに、それでいて明確な殺意と怒りがこもっていた。
その直後、カシンとアスプリクの画像が乱れ、すぐに消えてしまった。
そして、一同は映像が消えるほんの一瞬前、“巨大な黒い犬”が映し出されたのを見逃さなかった。
映像が消えてしまったため、あちらで何が起こったのか知りようもなかったが、ヒーサだけは理解しており、ニヤリと笑っていた。
「バカめ。何の策もなしに、長々と会話を続けていたと思っているのか? 勝ったと思った瞬間こそ、心に隙が生じるのだぞ、カシン」
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