13-75 第三の魔王候補! 原因はティースにあり!?

「それで、お前が私に負けず劣らず“ちょっと”面倒臭い奴なのは知っているが、本当にこの娘を見捨てるかね?」



 黒衣の司祭カシン=コジより投げかけられた言葉だが、ちょっとか? と思うのはその場の全員が思う共通の疑問であった。


 だが、それ以上に出し抜かれて人質となったアスプリクの身が心配であり、それは顔に出さないでいた。


 唯一人、ヒーサを除いて。



「いざとなれば、そのつもりだ。助けられたら助ける、くらいだな」



「アスプリクが聞いていたら、きっと“失望”するだろうね」



「私に失望する前に、自分に“絶望”する。アスプリクとはそういう娘だ。なにより、お前に怒りの炎をぶつけるのが先だ」



「だろうな。だが、『術封じの枷』はしっかり嵌めている。王国最強の術士も、ただの小娘だな」



 これ見よがしに、カシンはアスプリクを縛る縄や枷を見せ付けてきた。念入りに封じ込めの術式が編み込まれており、一切の術式が封じられているのが一目で分かるほどだ。


 仮に目を覚ましたとしても、アスプリクの細腕ではどうする事もできそうになかった。



「ん? おい待て。アスプリクは戦闘用の法衣を着ていたはずだが、それはどうした?」



「もちろん脱がせたに決まっている。万が一にも、封印の術式を撃ち破って、拘束具が破損してしまってもいかんからな」



「誰が脱がせた?」



「もちろん私だ。相変わらず、見ごたえのない肢体であった」



「だそうだ、アスティコス。もう手遅れだったようだぞ」



 またしてもアスプリクを汚されてしまった。取って食われたと言うわけではないが、乙女の柔肌を仇敵に晒し、覗かれるという許し難い状況が行われた。


 そう考えたアスティコスは無言のうちに再び矢を放った。


 狙い違わず心臓を撃ち抜いたが、当然ながら映像であるため、そのまますり抜けてしまった。



「ぶち殺すわよ! 一度ならず、二度までもアスプリクを辱めるなんて!」



「怒るな、女エルフ。別にこんな小娘には興味はないと言っているだろうが」



「だったら、返しなさいよ!」



「断る。欲するのであれば、取り返しに来ることだな」



「貴様ぁ!」



 更なる射撃を加えるべく、再びアスティコスは構えようとしたが、そこはヒーサに止められた。


 当たらぬ矢を撃ったところで意味はないし、なにより話が進まないからだ。



「さて、少し話が外れてしまったが、アスプリクを攫う理由はおおよそ分かる」



「それは?」



「アスプリクの持つ膨大な魔力が必要なのだろう? アスプリク以外の奴を魔王にすると言うのであれば、それを目覚めさせる“気付け薬”がいる。それがアスプリクだ」



「ほう。それに気付くとは、やはり大した思考力だな、お前は」



 カシンは素直に感心し、小馬鹿にした態度を見せつつも拍手をヒーサに贈った。



「アスプリクやマーク以外の個体で魔王を復活させようとした場合、適性値が低くて上手くいかない。それを補う意味で、アスプリクの魔力を使おうと言うのだろう?」



「その通り。アスプリクめ、一向に闇落ちしそうにない。それもこれもお前に惚れているし、“家族”という余計な繋がりがあるためだ」



「私の嫌がらせが効いてきたようだな。魔王との八百長どころか、魔王への覚醒を押し止め、魔王討伐をいつまでも先延ばしにしてしまう、という嫌がらせをな」



「余計な事をしてくれたよ、まったく。だが、別の手段が見つかった」



 そう言うと、カシンはニヤリと笑い、もう一度アスプリクの顔を撫でた。



「まあ、今は部下に復活の儀式は任せているが、如何せん効率が悪すぎる。このままでは、“別の手段”を成すのにかなりの時間を要する。だが、アスプリクの魔力であれば、話は別だ。本来はこやつが魔王の器であるし、魔王を覚醒させるのに必要な魔力を得るには、質、量、相性、どれも申し分ない」



「時間短縮のための、アスプリクの拘束か」



「そうだ。手早く事を成すのには、必要というわけだ。まあ、時間の事さえ考えなければ、必須と言うわけではないが、やはり仕事は迅速でないとな」



 そして、カシンはティースの方を向き、これまた醜い笑顔を作った。



「感謝するよ、カウラ伯爵ティースよ」



「え? 私?」



「ああ、そうだ。君のおかげで、アスプリクでも、マークでもない、他の者を魔王に覚醒する手段を得たのだ。本当に感謝する。もう、わざわざ“闇落ち”を待つ必要すらなくなった」



 はっきりとそう言われ、ティースは狼狽した。


 自分が何かしでかしたのだろうか。考えに考えたが、特に思い当たる事柄がなかった。


 自然と視線は夫ヒーサの方を向いて、無言の助けを懇願していた。



「まあ、お前がやった“何か”が、カシンの眼鏡に適ったということだ。ああ、何と言う事だ! 嫁の不始末で世界が滅びるとは! 後で説教な。カシンに加担した罪を、じっくり取り調べてやるとしよう」



「って、絶対スケベな意味で言っているでしょ、それ!? ……じゃなくて! ち、ちょっと待ってください! 何のことだか、本当に思い当たらないんですけど!?」



 ティースはますます焦った。


 自分が魔王覚醒に関わる事に、何か重大な変化をもたらしたという事だが、本当に何のことだか分からなかったのだ。


 困惑するティースを見ながら、カシンは薄ら笑いを浮かべるだけであった。

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