13-69 解呪! さらば剣豪皇帝!

 またいつもの口論と言う名のイチャイチャが始まったとテアはため息を吐きつつ、二人を無視してヨシテルに寄り添った。



「最強の剣豪よ、いくつか聞きたい事があるけど、まだ喋れそう?」



「……そうか、汝がカシンの言っていた“アレ”か」



「よく分からないけど、まあ、人間ではないのは間違いないわね」



 黒衣の司祭カシン=コジから色々と吹き込まれているであろうが、その全容はまだ見えていない。


 情報と知識こそテアにとっての最大にして唯一の武器であり、その獲得には余念がなかった。


 まして、“もどき”扱いとは言え、半分魔王に覚醒していた存在からの情報であり、まさに値千金の情報が含まれている可能性があった。


 聞けるなら聞いておきたいと考えるのは、ごく自然な流れだ。



「あなたに呪いをかけたのは、カシンで間違いない?」



「ああ、そうだ。この世界に召喚された段階で、魂に呪詛を仕込まれ、あの体になった。説明を受けてなんだそれはと絶望したが、すぐに慣れてしまったがな」



「慣れるだけ大したもんよ。どう考えてもリスクが大きすぎる。“剣によるダメージはかすり傷でも致命傷となるが、それ以外のダメージはなかった事になる”なんて、自分の腕前に絶対の自信がなければまず使いこなせないわよ」



 これこそ、“不死身のからくり”であった。



(要は、“最大HPを1にする代わりに剣による攻撃以外ではとどめを刺せない”だもんね。下手したら子供の一刺しでも死ぬ。リスクが高すぎる。本当に呪いだわ)



 よくもまあこんなハイリスクハイリターンなやり方を考えたものだと、これを見抜いたテアは呆れ返るほどだ。


 剣によるダメージはかすり傷でも死を意味するが、それ以外の攻撃は瞬く間に再生する。


 近接戦に絶対の自信があり、剣による攻撃を防ぎ切れると確信すればこその呪いだ。


 最弱にして最強、それがこの世界におけるヨシテルの受けた業とも言えた。



「……よくぞ見破ったものだな」



「戦いはじっくり見させてもらいましたから。他の攻撃にはかなり無頓着に、それこそ防げても敢えて受ける場面があったわ。でも、“剣”での攻撃は別。神経質なくらい確実な方法で防いでいた。なら、そこに何かあるって考えるものよ。剣技ならば絶対に自分が勝つ。当たらないし、防いでみせるし、そして、確実に返してみせる。その絶対的な自信がないと受け入れられない“呪い”だわ」



 これがテアが出した仮説であり、それが今し方、完全に証明された。


 数々の猛攻を受けながら、ティースが剣で付けたかすり傷だけで“呪い”が解除された。


 そして、解放されたためにリセットされていた負荷が反転し、ヨシテルを二度目の死へと追いやりつつあった。


 すでに体の各所は崩壊が始まっていて、まるで結着力のないサラサラの砂のように変化し始めていた。



「呪いの負荷が出始めているわね。よくもまあ、こんなになるまで“耐えて”いたわね」



「地獄の窯で煮られるよりかは、随分と温く感じたぞ」



「それでも“痛い”んでしょ? これは“祝福ブレス”ではなく“呪詛カース”の類。傷は元に戻せても、痛みは肩代わりされない。文字通り“死ぬほど痛い”のに死ねない体になり、剣を振るい続けた」



「ああ、その通りだ。何度意識が飛びかけた分からぬほどだ」



「でも、あなたは自力で耐えた。身を焼かれようとも、引き裂かれようとも、ありとあらゆる攻撃に耐えて見せた。正直に言うわ。あなた、英雄の素質あり。最高に強くて格好いいわ。魔王にしてしまったのは、この世界の失策よ」



 女神からの偽らざる評価、それも最高の賛辞が贈られた。


 艱難辛苦を乗り越え、目的のためにひた走る。まさに女神じぶんが求めている英雄の姿そのものだ。


 そうした者の側に立ち、戦う姿を見届け、あるいは導くことにこそ、至高の価値があるとテアは考えていた。


 それが目の前にいる。闇に染まり、魔王となりし身だが、その本質はただ一本の刀剣に全てを宿し、駆け抜けたいと願う人間そのものだ。


 実に好ましい存在と言える。



(まぁ、少なくとも、私が“うっかり”選んで松永久秀ろくでなしよりかは、よっぽど英雄向きな奴よね。むしろ、こっち選んでいた方がよかったかも)



 改めてかつての自分を殴り飛ばしたくなるテアであった。


 なお、女神からの賛辞を受けた英雄にも魔王としても中途半端な存在となった男は、もはや思い残すことはないと言わんばかりに満面の笑みを浮かべていた。

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