13-57 決戦! 剣豪皇帝を打ち倒せ!(11)

 テアの立てた仮説が、正しい可能性が出てきた。


 ヒーサはそれに応じた戦術の変更を余儀なくされたが、同時にかなり困難であることも予想できた。



(だが、どうやってそれを実行に移す!? 数に任せて状況を押し込むか? ……いや、ダメだ。弱点に気付いた事を気付かれては、最悪撤収する可能性がある。そうなれば、奴は陣頭に出てこないかもしれない。今後、前に出て来なくなると、討ち取れる可能性がグッと落ちる。今日この場で仕留める事を考えねば!)



 ヒーサは今手持ちの戦力と地形的要素を再計算して、ヨシテルに致命の一打を加えるための戦術を組み上げていった。


 はっきり言って、ヨシテルの再生能力のからくりはかなりリスクが高く、もしヒーサ自身が使えるとしても、まず使わないほどのバカげた内容だ。


 だが、“剣豪将軍・足利義輝”と“異世界の魔王・皇帝ヨシテル”が重なり合う今だからこそ、目の前の怪物はまさに最強の存在となり得るのだ。


 リスクは大きいが、それに見合うだけのリターンのあるやり方であり、真似はできないし、真似をしたくもないというのが、ヒーサの率直な感想であった。



(そうなると、やはり少数精鋭で事を成すのが一番か。軍を動かしながらでは、機敏に対応し辛い。ここは一つ、いつもの顔触れと行きたいところだが、アスプリクが抜けてしまったからな~)



 ヒーサは手痛い穴に思わず舌打ちした。


 アスプリクは高度の術式を連発し、さすがに疲労してアスティコスと共に後退してしまった。


 これからの戦闘にはその力を使えないため、他の手駒を使い、ヨシテルを仕留めねばならなかった。



(とはいえ、先程と違い、テアが導き出した攻略法がある。あとはその状況に持って行くためには……)



 ヒーサは周囲を見回し、誰が、何が必要なのか、急ぎながらもじっくり検討した。



(必要なのは、いかに隙を突くか、奇襲するか、だ。当然そうなると……)



 自然と目が向いたのは、マークであった。


 暗殺者としての技術を持ち、しかも使い勝手のいい地属性の術式を修めている。


 そして何より、ヨシテルに決定打を撃ち込める条件まで持ち合わせていた。



「マーク! こっちに来てくれ! ライタンとルルも!」



 少数精鋭となると、当然声をかけるのはこの三人だ。


 三人はヨシテルを遠巻きに取り囲むように立ち、術で牽制を入れていたが、戦果のあがらない事に苛立ちや焦りを覚えていた。


 そこにヒーサの呼び出しがあったため、ようやく何かの打開策が出来上がったのかと考え、心なしか軽い足取りで近寄ってきた。



「時間がないから、手短に話す。あの化物に決定打を浴びせる手段を見出したぞ」



 期待していた言葉がヒーサの口から飛び出し、普段は表情の乏しいマークでさえ、思わずニヤリと笑ってしまう程であった。


 それ程まで追い詰められていたと言う事であり、その心情はヒーサも十分に理解していた。



「で、公爵様、その手段とは!?」



 ルルは前のめりにヒーサに尋ねた。


 こちらももううんざりと言った感じがありありと出ており、早く教えてくれとせがんできた。



「ああ、その方法なのだがな……」



 ヒーサはテアからの指摘を披露し、そこから導き出された答えを三人に伝えた。


 そして、揃いも揃って目を丸くして驚いた。



「そ、そんな単純な事だったのですか!?」



 ライタンは信じられないと思いつつも、真面目に教えてもらった答えを検討した。


 その結果は、“十分考えられる”という肯定的な感情が湧き上がってきた。


 他の二人も同様の結論のようで、まさかの“答え”にどう反応していいか分からず、悩ましくも複雑な表情を浮かべた。



「まあ、テアの指摘されて、ようやく気付いたのだがな、私も。これは“祝福ブレス”ではなく、“呪詛カース”だと、な」



「よくもまあ、そんな博打じみた手段を用いますね。私だったら、絶対やらないです」



「ルルの意見には、私も賛成だ。あれは奴だからこそ、絶対に“有効打になり得る一撃”を食わらないという自信があるからこそ、出来る芸当だ。真似しようとは思わん。問題は、奴にその一撃を叩き込めるかどうか、だ」



 攻略方法は分かった。その方法でヨシテルに一発入れれば有効打となるのだ。


 だが、一同の顔は全員揃って難しい表情をしていた。



「その状況を作り出し、かつ一撃を入れる事が出来るのか?」



 そう、問題はそれを達成できるのかどうか、これに尽きた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る