悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
13-56 決戦! 剣豪将軍を打ち倒せ!(10)
13-56 決戦! 剣豪将軍を打ち倒せ!(10)
(……っというのが、状況から導き出された仮説なんだけど、どう思う?)
【
ヒーサはそれを即座に頭の中に思い浮かべ、その仮説が当たりかどうかの検討に入った。
(……かなり突飛な発想だ。普通なら一笑に付す話ではあるが、もはやあのバカ将軍は笑うしかない状況であるし、まずは試して見ねばならんか)
追い詰めたはずなのに、逆に追い詰められているのが現状だ。
ヨシテルを孤立化し、集中攻撃をいくら加えようとも、桁外れの再生能力で受けた傷を次々と修復している。
最大火力のアスプリクの一撃にすら、涼しい顔で凌いで見せたのだ。
これをどうにかしない事には、絶対に勝てないという焦りは、ヒーサのみならず、この場の全員が考えている事でもあった。
(どのみち、他に手段がないな。仮説が正しいかどうか、試す以外に道はない。そちらも観測を続けろ)
(了解。気を付けて)
ここで
少し離れた場所で指揮を取っていたサームに駆け寄った。
「サーム!」
「公爵様、いかがなさいましたか?」
「あれの突破口が見出せそうだ。兵を使う。銃兵と槍兵、二十名ずつだ!」
「…………! 承知しました!」
サームもヨシテルの再生能力には辟易としていたため、主君からの打開策打診に目を輝かせた。
直ちに銃兵と槍兵二十名ずつの部隊編成がなされ、ヒーサの前に整然と並んだ。
「よし! 全員聞け! あのバカげた再生能力を突破する打開策が思い付いた。それが有効かどうか、実際に試してみる。諸君らの命を私に預けろ! いいな!?」
「「ハッ!」」
サームの選り抜いた精兵達であり、その声もなお士気を保ち、威勢の良い返事が返ってきた。
これもヒーサの日頃から行ってきた“善政に対する徳”が結実したものだ。
なお、実際のところは自身の欲望を満たすために、自領を富ませる事を頑張った結果であるが、領民は皆その恩恵を与って来た。
その“聡明で慈悲深い”領主が命を預けろと申し出てきたのだ。今こそ忠義、恩義に報いるべきだと、全員が息巻いていた。
「よし! では、作戦を伝える。なぁに、特に難しい事はやらん。指示を聞き間違うなよ」
ヒーサはそう言うと、これからの作戦についての説明を行った。
そして、全員が揃って「えっ?」と驚いた顔を見せた。
ヒーサの言う通り、難しくも、変わった事も、何もない行動なのだ。隊列を組んで仕掛けるとすれば、ごくごく普通の動きであった。
そう、“最後の一動作”を除けば、であるが。
「以上が、作戦だ。それであいつの秘密を引っぺがす! 心してかかれ!」
「「ハッ!」」
すでに指示は出されたので、兵士達もすぐに承知し、言われた通りの隊列を整え始めた。
銃兵は弾を装填し、いつでも射撃できる隊形を整え、槍兵もまた槍を暴れるヨシテルに向けており、いつでも突っ込める状態となった。
あとは、実際に仕掛けると言う合図を待つだけだ。
「公爵様、先程の指示で大丈夫なのですか!?」
「ああ。ジッとあいつを観察していた、テアの見立てだ。まあ、信用してやってみるしかあるまい」
「テア殿の、ですか」
テアはシガラ公爵家の家中では、稀代の才女と認識されていた。当主であるヒーサの専属侍女であり、同時に行政秘書官をも兼ねているような存在で、気品あふれる端麗な容姿と才知は老若男女問わずに人気があった。
ヒーサの愛人ではとの噂もあるが、ヒーサもテアもそれは否定しているし、たまにからかって遊んでいるだけだときっぱり言い切っていた。
おまけに、愛人云々の噂が立ちながら正妻のティースとの仲も悪くないので、やっぱりその手の話はないんだなと皆が納得していた。
「では、始めるぞ。銃兵隊、構えておけ」
ヒーサは指示を出しつつ、その見極めのためにヨシテルに意識を集中させた。
今はライタンとルルが中心となって、幾人もの術士がヨシテルに仕掛けているが、これもやはり再生能力のために決定打を与えれず、逆に反撃を受けて押されている状況であった。
そして、再び振るわれた刀から衝撃波が走り、防御のための結界ごと術士を吹き飛ばした。
「今だ! 全員離れろ! 銃兵、放てぇ!」
ヒーサの指示通り、群がっていた他の将兵や術士は射線を開け放ち、それと同時に二十挺もの銃から爆発音とともに弾丸が飛び出した。
これもよく訓練された銃兵であり、全弾がヨシテルに命中するという精度であった。
だが、体中穴だらけになろうとも、ヨシテルはなおも倒れず、またしでも傷口が塞がっていった。
「次! 槍ぃ、突き入れぇい!」
再生中は若干動きが鈍るので、その隙に今度は銃兵の背後から槍兵が飛び出し、怒声を上げながら一斉に突っ込み、槍を繰り出した。
これも成功し、二十本の槍がヨシテルに突き刺さった。腕に、足に、胴に、首に、顔に、体中の至る所に差し込まれた。
普通の人間ならば、これで人生終了であるが、目の前の男は常人ではない。何しろ、こうなることはすでに何度も実証済みであり、何度も何度も殺しても、必ず再生するのが今のヨシテルなのだ。
だが、ここからが違った。
「槍隊、全力で逃げよ!」
事前の指示もあったため、ヒーサの声に即座に槍兵達は反応した。
突き刺した槍を手放し、一目散に逃げだして、ヨシテルから離れた。
「今だ! 投げ込めぇ!」
それがヒーサが説明した“奇妙な最後の一動作”の正体。それは、銃兵達に腰に帯びていた
銃兵は基本、銃を構えて撃つ事が仕事であるが、万一の近接戦に備えて、射撃の妨げにならない程度の護身武器として、
今回の投擲も、その護身武器を投げ込んだ。
実に二十本もの剣が宙を舞い、陽光に煌めきながらヨシテルの方に向かって飛び交った。
「ぐぅぁぁ! 【秘剣・
ヨシテルの振るう横一閃の斬撃が衝撃波となり、刺さっていた槍も飛んできた剣も全て吹き飛ばしてしまった。
ここまでならば今までと変わらない一幕だ。何度も攻撃を浴びせては反撃され、再生能力により元通りとなり、また攻撃のやり直し。
将兵達の視点では、そのようにしか映らなかった。
だが、ヒーサとテアは別の視点で見ていた。
そう、テアが仮説を立て、ヒーサがその証明のために動き、今の一連の攻撃となった。
そして、ついに“掴んだ”。
((見えた! 掴んだ! あいつの弱点を!))
二人はようやく見つけた突破口に狂喜し、離れた場所にいながらほぼ同時に握り拳を作った。
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