悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
13-53 決戦! 剣豪皇帝を打ち倒せ!(7)
13-53 決戦! 剣豪皇帝を打ち倒せ!(7)
少し離れた城壁の上から、テアは戦いの光景を眺めていた。間近では戦闘の邪魔になりかねないし、何より全体像を把握するには少し距離を空けた方が観察しやすいのだ。
(状況はヒーサの思い描いたとおりになっている。仕込み銃での不意討ちは相変わらずだけど、その後の足止めと帝国軍への攻撃は完璧。皇帝ヨシテルをこちらの懐で孤立化させた。そう、ここまでは完璧なのよ)
事前にある程度の説明を受けていたため、こういう状況になると言う事は知っていた。
あの化物相手に、ここまで有利な条件を作り、その上で集中砲火を加えているのだ。その点ではヒーサの手腕は冴えているし、さすがと言わざるを得ない。
だが、それでも予想を超えられてしまうと言う事もある。
それは、ヨシテルの“再生能力”だ。
(異常すぎる! 何なのよ、あれは!? “再生”って言うより、“巻き戻し”じゃない、これ!?)
事前に話を聞いて理解していたつもりであったが、実際に目の当たりにしてその目算が甘かったことを思い知らされていた。
(そう、とっくに死んでいてもおかしくないだけのダメージは通している。頭を潰し、心臓を
これだけの攻撃を加えながら、ヨシテルはなおも倒れないのだ。
ダメージは通せているし、体もズタボロになる。だが、ダメージを与えたと思ったら、すぐに傷口が塞がっては起き上がり、刀を振るって反撃をしてきた。
距離を空けて見ている分、相手の異常性と味方の動揺ぶりが、テアには良く見えていた。
(再生なんて、生易しいもんじゃない。あれは“時間回帰”しているか、そもそも“事象の拒絶”によりなかったことにしているかのいずれかしかない。そんな事って有り得る!?)
それは有り得ないはずだ。そこまで行くと神の領域であり、いくら魔王の力を下ろしているとは言え、明らかにその枠組みを逸脱していた。
(治癒系の術式を使っている痕跡もないし、そもそもそんな魔力も感じない。完全に自分の力、あるいは肉体に備わっているスキルか何かの効果よね。でも、そんな強力な再生能力を得られるスキル、心当たりがないんだけど!?)
今のテアは情報のみが武器である。神としての力が封じられているため、経験や知識と言う名の情報こそ、この場で使える武器なのだ。
そして、それに賭けているのが相方のヒーサだ。
あのデタラメな再生能力の秘密を解き明かさない事には、いずれは消耗してやられるだけであり、それだけは避けなばならなかった。
(この世界に降臨して、初めてまともに任された仕事! 頼られた案件! でも、ほんと、見えてこない、答えが全然!)
テアの頭の中にある情報には、該当する能力がない。
どんなスキルでも、あるいは術式か、もしくは神の加護か、様々な可能性が頭の中で検討されたが、いずれも確信のいくようなものはない。
(これを用意した奴、相当性格が歪んでいるでしょうね。どんな祝福を与えたら、あんな無敵じみた再生能力を得られるのよ! ……お?)
必死で考えながらも状況確認を怠らないテアは、ヒーサが新たな指示を飛ばしたことに気付いた。
銃や弓で遠巻きに射撃を浴びせつつ、そこから
そして、十数本もの槍がヨシテルの体を貫いた。
頭、首、腕や肩、あるいは心臓や腹など、容赦なく突き立てられた。
突っ込んだ勢いそのままに、槍に刺さった義輝が天に向かって持ち上げられるほどだ。
槍を伝って滴り落ちる鮮血は大地を染め上げ、確実に死を届けるに値する一撃である事を示していた。
だが、これもまた無意味となった。
突き上げられたヨシテルは刀でそれらを払い、槍が全て切断されてしまった。
地面に着地と同時に斬り込み、槍兵を一人また一人と確実に屠っていった。
剣を抜き、勇敢に立ち向かう兵士もいたが、かわされ、防がれ、反撃の一刀で切り捨てられた。
(うっわ、近接戦でも無理か!?)
術もダメ、銃や弓もダメ、近接戦も効果なし。もうこれでどこにも穴が無くなった。
だが、前線にいる者は諦めが悪かった。
アスティコスは水の精霊を呼び出し、それをヨシテルにまとわり付かせ、ずぶ濡れの状態にした。
そこに間髪入れずにルルが冷気を当て、みるみるうちに氷を作り出し、そこにヨシテルが包まれていった。
倒せないなら、いっそガチガチに凍らせて動きを封じようと言う意図があった。
だが、これもまた無意味になった。
完全に氷中へと封じられたかと思ったら、氷の中から響く大絶叫によって氷にひびが入り、氷塊が粉々に砕け散ってしまった。
(これもダメなの!? 動きを止める事さえできない!)
打つ手が全て通じない。ヨシテルを取り囲んで集中砲火を浴びせている面々も、完全に動揺していた。
ヒーサの思い描いた有利な状況を作りながら、決定打となる一撃が未だに見いだせず、無駄に消耗させられるのであった。
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