13-54 決戦! 剣豪皇帝を打ち倒せ!(8)

 次々と攻撃が繰り出されるも、それら全てに耐え抜き、反撃を加えてくる皇帝ヨシテル。


 その姿は異常であり、幾度殺したか分からぬほどにダメージを与えているはずなのだが、一向に倒れない。


 兵士達にも動揺が走り、主だった顔触れも焦燥が見え始めていた。



(これじゃ、どっちが攻めてるのか分からないわよ!)



 今回の要だと情報分析を任されても、テアには全然有効な手段が浮かんでこなかった。


 一旦引かせようかとも考えたが、そもそもこんな有利な条件でヨシテルと戦える機会は今後有り得ないのだ。


 一騎討ちを餌に誘い込み、孤立無援の状態にして取り囲んだのだ。


 二番煎じは通用しないであろうし、今後はさらに慎重に行動するようになるであろうから、騙し討ちもまず防がれることは間違いなかった。



(結局、今この瞬間に倒さないと、永遠に機会が回ってこない事もあるって話! ええい、考えろ、考えろ、私)



 ヨシテルの動き、ヒーサを始めとする攻め立てる側の動き、それらすべてを観察し、手早く有効打を見つけなくてはならない。


 だが、テアの焦りをよそに、ヨシテルは次々と繰り出される攻撃を受けながらも、なおも立ち上がって反撃を試みていた。


 普通ならば、一方的な嬲り殺しにも見えるが、その実態は無敵の力を持つ魔王に、人間が懸命に立ち向かっていると言う構図であった。



「ねえ、テア、ちょっといい?」



 不意に声をかけてきたのは、同じく横で激闘を観戦していたティースであった。


 今回、専属侍女テア公爵夫人ティースはコンビを組んでいた。拡声術式で欺瞞情報を流すなどの仕事を与えられてはいたが、この二人は基本後方支援が主働きであった。


 テアは女神として直接対象攻撃できないからであり、ティースは“普通の腕利き”であるからだ。


 術を用いての遠距離攻撃もできないうえに、銃や弓による射撃も今は代わりが大量にいるため出番がない。


 そのための後方待機となっていた。



「あれさ、削り切れるの?」



「自信がない。絶対どこかに穴や限度ってものがあるんだろうけど、それが見えてこない」



「だよね。ヒーサが焦っているのは見ものだけど、マークがいるからそうも呑気な事は言ってられないのよね。早く何とかしないと」



 ティースも割と冷静を装ってはいたが、それでもかなり気をもんでいるのは間違いなかった。


 そのとき、猛烈な勢いで火柱が立ち上がり、天を衝かんとする勢いで燃え盛った。


 その中心にはヨシテルがおり、それを放ったのは先程からずっと詠唱していたアスプリクであることは、離れた位置から見ていた二人には一目瞭然だった。



「さすがの大火力! これなら……」



「ん~、ダメみたいよ」



 実際、ティースの言葉通り、ダメであった。


 火の柱が真っ二つに斬り割かれ、姿を現したヨシテルはやはり傷が塞がりつつあった。



「あの火力でもダメなの!?」



「燃やしても、凍らせても、銃で顔面を潰しても、弓矢で針山にしても、槍で心臓を穿っても、全部ダメ。どうなってんのよ」



 本当に打つ手が見えてこない二人の声色も、いよいよ余裕が一切なくなってきており、得体の知れない相手への不気味さが震えとなって出て来ていた。


 怪物と必死で戦う者もまた動揺してはいるが、それでも勇猛果敢に攻め込もうとしていた。


 槍を手にして突き入れんとする者、あるいは剣を携えて斬りかからんとする者、様々だ。


 だが、そのことごとくが意味をなしていなかった。


 槍を突き入れても、そのまま反撃の一撃を食らい、剣で斬りかかろうとも防がれ、これもまた反撃の一撃で命を散らせてった。


 どんな攻撃もやはり意味を成しておらず、無駄に命を消耗している状態だ。


 すでに軽く百名以上が討死しており、たった一人を相手にするには代償が多きに過ぎた。



「いったいどんな加護を受けたら、あんな状態に出来るのよ!? 魔王の力を付与しているにしても、やっぱり異常だわ!」



「“加護ブレス”じゃなくて、“呪詛カース”じゃないの、あれ?」



「……え?」



 考えもしなかったことに、テアはティースの指摘に目を丸くした。


 神として祝福を与える事ばかりに気を向けていて、逆に呪いを与えると言う行為を見落としていたのだ。



「いや、だってさ、あんなズタボロになってまで戦う事を強制されるなんて、そんなの呪いでしょ?」



「呪い……」



 思わぬティースからの指摘に、テアは発想と思考の方向性に変化を加えた。


 テアは術式による強化や、スキルによる特殊能力付与の真逆の方向、すなわち“呪い”によるマイナス方向への付与を検討した。


 すなわち、足し算・掛け算による強化バフではなく、引き算・割り算による弱体化デバフという逆転の発想だ。


 普段なら絶対に使わないような、そんな類のやり方だ。


 しかし、そこに取っ掛かりが存在した。



(いや、でも、待って。それって事は)



 テアはすぐに計算をやり直した。


 あまりに馬鹿げた、それでいて“足利義輝”と言う剣豪ならば、あるいは有効とも思える手段に行き着いた。



(でも、それって有り得るの!? リスクが余りにも大きい。下手すると、小鬼ゴブリンにすらやられるわよ、それ!)



 仮説を立て、それが正しいとした場合、ヨシテルは最強にして最弱の存在になる。


 あまりに極端すぎるやり方なのだ。



(でも、いくつかの事象が、それが正解だと示している。なら、試してみるしかない!)



 迷っている時間はなかった。


 テアは意識を集中させ、【念話テレパシー】で声を相方に送り届けるのであった。

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