13-49 決戦! 剣豪皇帝を打ち倒せ!(3)

 まさに一瞬の出来事であった。


 山手より発した大きな水音と、傾斜を流れ落ちる水に、誰しもが注目した。


 そう、その一瞬、僅かな隙こそ、ヒーサの求めていた必殺の一撃を叩き込む瞬間であった。



「火縄のない銃と言うものは、やはり便利な物だな」



 いつの間にか口が開いている鞘の先から硝煙の立ち上る剣を、ヒーサは銃のように構えて、ヨシテルに向けていた。


 “大剣クレイモア”に偽装させた仕込み銃を用意し、それを堂々と身に着けていたのだ。


 ヨシテルも暗器を警戒し、ヒーサの動きには注意を払っていた。斬り合いでは絶対に自分が有利であり、毒や暗器で仕掛けてくると考えていたからだ。


 だが、ヒーサはその暗器を堂々と晒していた。あまりに堂々とし過ぎていて、身に着けていた剣が騙し討ちの小道具だとは、意識が向いていなかった。



(なにしろ、日ノ本の“銃”と言えば、“火縄銃マッチロックガン”だからな。この世界のような、“燧発銃フリントロックガン”とは違う。偽装銃の仕込みは大変であったが、完全に裏をかくことができた。残念でしたな~、バカ将軍!)



 ヒーサこと松永久秀自身、銃とは火縄が付いている物だと考えていたのだが、この世界において火縄ではなく燧石ひうちいしで着火する銃がある事を知り、幾度となく活用してきた。


 だが、皇帝ヨシテルは文化後進国である、ジルゴ帝国に降り立った。銃などと言う便利な道具はなく、それゆえに頭の中にある“銃”についての知識は、日ノ本のそれで止まったままなのだ。


 先日の戦闘で銃の違いに気付いたかもしれないが、それでも生粋の剣士である者には、この手の応用が不得手と考え、この策を実行した。


 偽装銃を作るにしても、火縄よりも燧石ひうちいしの方が相手に知識がない分、偽装しやすい。火縄の煙でバレてしまう可能性もあった。


 しかも、破壊力を高めるために大口径にしてあるため、片手での操作ができず、必ず両手で撃たねばならない。愛用する炎の剣『松明丸ティソーナ』も一旦手放さなくてはならず、それでの着火もできない。


 そうなると、燧石ひうちいしを用いるのが最良というわけだ。


 それでもなお、不意を突いても防がれる心配があったため、もう一手擬態を凝らした。


 そのためのルルであり、水系の術式が得意な彼女を使って、山手で水柱を上げさせたのだ。


 先日の大水の記憶が呼び起こされ、ついそちらに意識をやってしまった。



(ルルを手早く移動させ、所定の位置で水柱を上げる。そう、ただそれだけなのだ!)



 ヒーサはルルにそう指示していたが、他にはなにもやらせてはいなかった。本当に術式で水柱を発生させ、それを全員が見えるように立ち上げただけであった。


 山手から水が来る、これを意識させただけで、相手が勝手に誤解してくれるのだ。再び水計を用いて、こちらを押し流そうとしている、と。



(そうだ、バカ将軍よ。お前は将軍としての矜持と責任感が強い。ゆえに、率いてきた部下のことを“決闘中”だというのに、案じてしまうのだ。そんなものを気にもかけず、さっさとこちらを殺しに来ればいいものをな! だから、お行儀が良いと言ったのだ、間抜け!)



 魔王を名乗り、復讐に燃えてはいても、結局、根の部分は貴人のままであり、そこにこそ付け入る隙があったというわけだ。


 そして、その結果が、文字通りの“面目丸潰れ”となった。


 “大剣クレイモア”に偽装した銃は銃兵達が使用する銃よりも大口径であり、少し小さめの“抱え大筒ハンドキャノン”といった感じだ。


 これを僅かに二十歩という、至近から放ったのだ。命中すれば鎧甲冑など関係なく、大穴を空けて吹き飛ばしてしまった。


 現にヨシテルの首から上は、原形を留めぬほどにグチャグチャになっていた。



「ふははははは! 残念でしたなぁ~、公方様。“わし”が“まとも”な“一騎討ち”をするとお思いでしたか? そんなわけないですよ。ああ、訂正します。これは一騎討ちに非ず! “一騎撃ち”にございますよ!」



 勝ち誇っているヒーサであるが、その不快なほどに響く笑い声は、ヨシテルの耳には入っていなかった。なにしろ、それを意識するための脳をぶちまけていたからだ。


 大口径の銃で顔面を潰されたヨシテルは、そのまま崩れ落ちるように地面に倒れ込むのであった。


 血肉や脳漿をぶちまけ、力と意識を失った皇帝は、血と泥の中に沈んだ。

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