悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
13-39 裏工作!? 肝心なあいつが不在です!
13-39 裏工作!? 肝心なあいつが不在です!
黒衣の司祭カシン=コジがどこにもいない。これは見逃すべき点ではないと誰もが考えた。
特にカシンに対して恨み辛みのあるアスプリクとアスティコスは、露骨に顔をしかめる程だ。
「じゃあ、カシンはこの戦場にいないって事かい?」
「そう考えるのが自然だろうな。もし、私が先方の立場なら、前線は皇帝に任せ、自分は後方を扼する役目を負う。あやつめ、戦場での駆け引きは抜けが多いが、情報操作や扇動などの裏工作をやらせれば、文句なしの最高の逸材であるからな」
なにしろ、カシンは優れた幻術の使い手であるのみならず、頭も切れて弁も立つ工作員向けの人材なのだ。それが主戦線に一度も顔を見せていない以上、どこかで何かしらの工作に勤しんでいると考えるのが自然であった。
「ああ、もう! あいつめ、忌々しいな!」
「まったくね! 次に会った時はどうしてくれようかしら!」
アスプリクもアスティコスもかつて受けた屈辱の数々を思い出し、ドンッと机に拳を振り下ろした。
「となると、その工作とやらが終わる前に帝国軍を退け、返す一撃でカシンの方も撃破する、と言う流れになりますか?」
「そう言う事だ、ティース。かなり微妙な差だろうがな。各個撃破になるか、あるいは逆に挟撃されるか、ここは時間との勝負だ」
「籠城策を捨て、短期決戦に拘るのはそういうことですか」
夫が普段に無く前に出ようとする理由をティースは理解した。
カシンに扇動されて、王国領内で反乱が発生しようものなら、このアーソ辺境伯領は孤立無援の状態となる危険性があり、兵站線が崩壊するのだ。
それを理解すればこそ、目の前の敵を迅速に処理し、後方の反乱に備えねばならなかった。
「でも、後方で反乱を起こすって、どうやってそんなことを?」
挙手して発言をしたのは、ルルであった。
「ん~、そうだな。ルル、もしお前が反乱を企図した場合、“誰”を旗頭にする?」
「サーディク殿下。選択の余地なんてないですよ」
「まあ、そう判断するわな」
王族のサーディクは現状、立場的には完全に隅に追いやられていた。
第三王子として、上二人の兄、アイクとジェイクが亡くなったため、順当に行けば王位を継ぐ立場にあったはずなのだ。
ところが、アイクの忘れ形見と称して、ヒサコがマチャシュを連れて王宮に乱入。まんまと王位を横から掠め取った格好となった。
しかも、その騒乱のどさくさの中で、サーディクを持ち上げていた枢機卿のロドリゲスとセティ公爵ブルザーが亡くなっており、その勢力を大きく後退させる結果となった。
これを不満に思い、“正統なる王位継承”を成すために旗揚げする、と言う事が十分に考えられた。
「旗揚げするにしても、時間も人材もないでしょうし、杞憂に終わるのではないでしょうか?」
そう言ったのはアルベールだ。
妹ルルの意見に賛同しつつも、やはり状況的には難しいと感じたのだ。
「後方には、ヒサコ様に加え、コルネス殿もおられる。仮に挙兵したとしても、鎮圧される方が可能性として高いでしょう。旗頭は存在しても、勢力として人々を糾合し、戦力と成す実戦指揮官がいません。サーディク殿下自身、前線で戦っていた将であるため、戦場での駆け引きは心得ているでしょうが、兵站の維持など、細々とした仕事まで手が回りません」
「ならば、向こうも短期決戦で、いきなり王宮を強襲してくるかもしれんぞ。現に“こちら”もその手でいったのだからな」
「なおの事、ヒサコ様が警戒なさるでしょう。王宮は守りが硬く、奇襲が成功しない限りはまず落ちません。ヒサコ様であれば、そんなヘマはなさいますまい」
アルベールのヒサコへの信頼は厚い。誰よりも抜け目なく、それでいて決断と行動も迅速であり、うら若き女性とは思えぬほどの傑物だと考えていた。
それがみすみす謀反を見逃すとは思えないし、仮に旗揚げされても、こちらが引き返すまでは十分に持ちこたえると予想していた。
「まあ、アルベールとルルが言ったように、謀反は難しいとは思う。だが、“
ヒーサは自分の意志をし通しつつ、確認のために居並ぶ顔を見回した。
どの顔も安全な籠城策を取りたい、と表情で語っていたが、行動が予測不可能なカシンが後方を扼そうとしている以上、時間的な制約があり、短期決戦も止む無しだ、と結論に至っていた。
消極的賛成、これによりヒーサの意見が通る事となった。
「よろしい! 明日は決戦だ! 各自、準備を怠らぬように!」
方針は決まった。
明日、いよいよ皇帝ヨシテルとの決戦となる。それぞれの準備のために部屋を飛び出していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます