13-20 対峙! 皇帝と火の大神官!
アスプリクが空から舞いおり、倒れているアルベールとルルを庇うようにして皇帝ヨシテルと対峙していた。
王国最強と帝国最強、両国の最強同士の対峙であり、緊迫した空気がその場を支配した。
そうこうしている内に、さらに追加で二人、空から降りてきた。
アスプリクの叔母であるエルフのアスティコスと、二人に帯同してきた上級司祭のライタンだ。
三人はヒーサからの指示を受け、とにかく急いでアーソに向かえと言われていた。そこで、【
地形を無視して移動できる分、地上を馬で行くよりも遥かに早く到着することができ、部隊に先んじて現地にやって来れた。
「やれやれ。復帰戦第一号が、よもや魔王との闘争とは、公爵閣下もお人が悪い」
ライタンはぼやきつつも、深手を負っているアルベールに【
また、アスティコスも気絶しているルルを治療し、命に別状はない事を確認した。
「アスプリク、大丈夫よ。ルルは気絶しているだけだわ」
「それは重畳。いきなりルルくらいの術士を失うのは、大損害にも程があるしね」
長らくシガラ公爵領で顔を付き合わせてきたアスプリクは、ルルの成長ぶりをある意味、最も身近で見ていた存在である。
農場で、あるいは工房で、その力の伸びを見てきており、その評価も高い。それが失われずに済んだことは、幸運と言うよりなかった。
「アルベール、傷が癒えたら、すぐにルルを連れて下がってくれ。皇帝は僕がどうにかするから」
当初の予定では、大火力で敵軍勢を吹き飛ばし、それを以て皇帝を引っ張り出すつもりでいたのだが、その手間が省けたと言う態度が、アスプリクからは見て取れた。
鋭い視線と、それに連動した魔力放出で挑発し、今にも飛び掛からんほどの気配だ。
「アスプリク様、気を付けてください! 皇帝の剣技は他の追随を許さぬ程に極まっています! それ以上に、桁外れの再生能力があります! 一発で致命の一打を浴びせぬ事には、キリが無いですぞ!」
「そりゃ結構。なにしろ、そいつは僕の得意分野だ」
アスプリクはアルベールに視線を向けることなく、手でさっさと下がるように合図を送った。
皇帝の実力の深さは目で見ているだけで感じ取れるし、その僅かな動きも見逃すまいと、すでに集中力を高めていたからだ。
(こいつが強いのは容易に想像できる。なにしろ、アルベールとルルが二人がかりで戦って、傷一つなく、涼しい顔で立っているんだ。それだけで相当ヤバい。単独だと、うん、僕でも無理だね)
アスプリクは自身の評価を安くも高くも見積もらず、冷静かつ客観的に見ているが、それでも目の前の皇帝を相手するには“不足”だと判断した。
並の相手であれば、近付かせることなく消し炭にするくらい造作もないが、今回の相手はそうではない。“魔王”を称するだけの事はある、本物の実力者なのだ。
しかし、同時に脳裏には別の意味での警鐘が鳴り響いていた。
「“真なる魔王”はアスプリク、もしくはマーク」
これが裏事情を知る者の持つ情報であり、それがアスプリクを少なからず動揺させていた。
自分が魔王。目の前の皇帝はその偽者。そういう情報だ。
(そうだ。僕が魔王だって言うんなら、そうならないように抑え込んでやる。偽者を倒し、本物である僕が覚醒しないように踏み止まる。仮に覚醒したとしても、“八百長”って手もある。僕が魔王で、ヒーサがそれを倒そうとする英雄。でも、戦っているフリをして、どこぞでイチャつけばいいってもんさ)
ヒーサが自分を裏切らない。そう思えばこその考えだ。
あの貴公子が紛れもない“外道”だ。聖人君子でないことは“舞台裏”を見てきたアスプリクにとって、周知の事である。
それでも、ヒーサは決して自分を裏切らないという確信を持てていた。
防護策は幾重にも用意されているし、それにはアスプリクも納得していた。
だが、それより何より、目の前の“魔王もどき”をどうにかしなくては、後が続かないのも事実だ。
さあ行くぞと、アスプリクは気合を入れ、より良き未来を手にするために、皇帝を対峙するのであった。
先程は二対一だが、今度は三対一だ。しかもその“三”の中に王国最強の術士まで含まれている。
しかし、皇帝ヨシテルは焦りと言うものを一切感じさせないほどに落ち着き、三人を見据えた。
疲れを一切見せず、決戦第二幕が始まろうとしていた。
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