悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
13-19 到着! 戦場に舞い降りし火の大神官!
13-19 到着! 戦場に舞い降りし火の大神官!
皇帝ヨシテルとの決闘に、アルベールは敗れた。妹のルルを加えたニ対一の優位性を持ちながら、完膚なきまでに打ちのめされた。
ルルは気絶し、自身も満身創痍だ。腕は折れ、そこを中心にひどい凍傷にもかかっていた。
また、腹には強烈な蹴りの跡があり、頑丈な金属鎧すら足跡状に陥没しているほどだ。
動けない。妹の抱えて逃げる事もできない。
あとはただ、死を待つだけだ。
だが、ただ死ぬだけでは自身の矜持が許さなかった。
何もできないが、何もしないで終わるつもりもない。今から自分を殺す相手を見つめ、最後の瞬間までそれを見定めんと皇帝を凝視した。
「最期まで見事!
どこまでも武人として、忠義の士としての姿勢を崩さない相手に、ただただ敬意を示すヨシテルであった。
これを辱めるべきではない。苦しまずに一刀のもとに絶命させてこそ、最大の手向けとなる。
そう信じるがゆえに、ヨシテルの刀を握る手もまた、力と意志がこもっていった。
まさにそんな状態で、刀が振り下ろされんとしたその時だ。いくつもの火球が降り注ぎ、ヨシテルに襲いかかった。
ヨシテルは即座に反応し、次々と飛んでくる火球を、手に持つ刀で切り裂いていった。
間断ない攻撃に辟易して、少し跳んで後ろに下がると、すぐに“それ”は降りてきた。
赤い服を身にまとい、実に自己主張の強い色合いの格好であるが、それ以上に全身から溢れんばかりの膨大な魔力が噴き出ていた。
常人ならばそれだけで息苦しさを感じるであろう気配に、ヨシテルはただ、ほぅ、と呟くだけであった。
そして、ヨシテルは相手をより観察した。
降りてきたそれは、小柄な少女であった。割と体の線が見えやすい服であるので、うっすらとだが胸元が膨らみを主張しており、また陽光に輝く銀色の長い髪が、それを少女であると訴えかけていた。
肌の色は白磁と見紛うほどに白く、また尖った耳かから人間とは違う、なにかしらの混血種ではないかとも推察された。
そんな容貌の人物は、ヨシテルの中では一人しか思い浮かばなかった。
「そこの
「不本意ながら、そうらしい」
そう、折りてきた少女の正体は、一度見れば忘れる事の出来ない容貌と魔力を持つ者、アスプリクだ。
「二度と着るまいと思っていたのに、お前が、帝国が、余計な騒動を起こすからこうなったんだぞ」
そう言ったアスプリクは、自身が来ている服を指で摘まんだ。
今まで来ていたぶかぶかの儀礼法衣ではなく、俗に“戦闘法衣”と称される出で立ちであった。
しかし、見た目の軽装感とは裏腹に、戦闘法衣と称されるだけあって、相当な数の常駐術式が込められており、
また、手袋にはめ込んである
最前線から離れていたため、久しく着ていなかった装備であるが、今回ばかりは流石にいるだろうと考え、嫌々ながらも袖を通すことにしたのだ。
アスプリクは大神官の地位を放棄したつもりでいたが、世間ではそう思っていない者が多く、法王ヨハネスに至っては火の大神官の席を空けたままにしているほどだ。
(僕はもう、戦うのには辟易してるんだけどな~)
心の中でそうぼやくアスプリクではあるが、そうも言っていられないのが現状であった。
王都での騒乱の際に方々に迷惑をかけてしまったため、そのまま逃亡と言うわけにもいかなかった。
世話になっている、それ以上に恋慕しているヒーサのためにも、さすがに責任放棄からの知らぬ存ぜぬで通すことができず、手柄を立てて帳消しにする必要があった。
そのための出征であり、その最大の標的が目の前にいる皇帝なのだ。
「我としては望ましい状況であるがな。こうして王国の切り札が、早々と前線に出てきたのだ。これを倒せば、先程のこちらの損害を差し引いても余りある戦果と言えよう」
なにしろ、今の帝国軍は士気が向上していた。城攻めの際にかなりの損害を被ったに関わらず、その後の皇帝と兄妹の戦いぶりをみて、自分達が戴く皇帝の実力を再認識したからだ。
強者こそが絶対であり、法でもある帝国において、現在の皇帝はまさにその体現者。それがいよいよ、王国最強と相対したのだ。
不安と期待が入り混じる視線が、この二人に注がれた。
実際、帝国側にも動揺はあった。なにしろ、アスプリクは十一歳の時から前線で戦っており、その特異な容貌も相まって、帝国側にも広く知られる実力者なのだ。
膨大な魔力と、それから繰り出される炎によって、幾人もの帝国人が焼き尽くされたか、数えるのも億劫になるほどだ。
実際、命からがら逃げ延びた者も含まれており、怯える者、あるいはいきり立つ者など、その反応は様々であった。
ゆえに、皇帝への羨望と期待の眼差しもまた、熱く注がれているのだ。
俺達の皇帝なら、“あの”火の大神官すら蹴散らしてくれる。その期待が一身に向けられていた。
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