第13章 決戦! 乱世の梟雄 VS 剣豪皇帝
13-1 出陣! 剣豪皇帝の御親征!
アーソ辺境伯領。
カンバー王国が領有する緊要地であり、ジルゴ帝国との国境を有する係争地でもある。
幾度となく両国間で戦いが発生し、小競り合いや略奪のための小規模侵入を含めると、その数は王国建国後から千は下らないとさえ言われるほどだ。
まさに最前線の地であり、緊迫した雰囲気が立ち込める場所だ。
特に、帝国側の皇帝が即位したと言う情報が入ってからは、その警戒度は増す一方であった。
帝国は数多くの亜人獣人の部族がひしめき合う領域であり、“国”と呼ぶのさえ
そのため、王国に攻め入るときはほぼ部族単位での侵入となり、略奪が主な目的となる。
だが、時折現れる皇帝の登場した場合にのみ、王国への大規模侵攻が開始されるのだ。
力こそすべての帝国において、その最強たる存在が皇帝であり、皇帝の誕生は同時に外への拡張を意味していた。
皇帝の即位が成され、拡張の時代を迎えることとなり、皇帝の名の下に大規模侵攻軍が召集され、まさに王国へと攻め入らんとしていた。
しかし、王国がにもまた “救国の英雄”が現れた。皇帝即位と同じくして、王国にもまた、英雄の登場となった。
“聖女ヒサコ”
王国三大諸侯の一つ、シガラ公爵家の出身であり、現当主ヒーサの妹だ。
庶子と言う事で長らくその存在を知られる事はなかったが、『シガラ公爵毒殺事件』を経て公爵家当主となったヒーサに呼び出され、正式な公爵家の一員として迎えられた。
その後の活躍はめざましく、毒殺事件を調査する御前聴取の席においてその智謀の冴えを見せ付けたのを皮切りに、ケイカ村での騒動を鎮め、アーソにおける『
また、ヒーサの要請でもう一つの隣国、妖精族が多く住まうネヴァ評議国へと赴き、霊薬(実は茶の木)の入手にも成功し、その名声は否応なく高まっていった。
また、ケイカ村で知り合った王国の第一王子アイクとの結婚もあったものの、帝国の侵攻の件もあって、逆に機先を制する形で帝国領に逆侵攻。数の差を物ともせず、僅か五千の兵で十万を超す帝国方を討ち取る快挙を成し遂げた。
なお、実際のところは殺した帝国方の多くは非戦闘員であり、物資の略奪と生産力の破壊を目的とし、またそれによって帝国軍を挑発しては罠にハメる。これがヒサコの戦い方であり、“聖女”などという大層な名前とは裏腹に、やっている事は悪辣そのものであった。
だが、王国側の人間からすれば、度々王国領に侵入してくる帝国の亜人達こそが悪であり、その悪を打ち倒す指導的な立場にあるからこその“聖女”なのだ。
後方では色々とゴタゴタがあり、一時はヒサコを“聖女”と呼ぶことさえ禁じられたほどだが、最前線ではそんな後方での出来事など関係なく、帝国軍を撃退する者こそが英雄であった。
そんな最前線の地アーソは今、歓喜に湧いていた。
“聖女”ヒサコと第一王子アイクとの間に生まれたマチャシュが、王国の新たなる国王として即位したという情報がもたらされたのだ。
「え!? マジで!? そんなら、聖女様が“国母”ってことか!」
「辺境伯領だけじゃなくて、国中を指導する立場になったってことかよ!」
「よっしゃ! これで増援が期待できる! 今度こそ帝国軍を殲滅できるぞ!」
なにしろ、今までろくな援軍もなく戦っていたのが、アーソに駐留する部隊なのだ。
元々のアーソの兵士に加え、ヒーサが手配したシガラ公爵軍と、今は亡き宰相ジェイクが手配した中央軍から派遣兵、その連合軍がアーソ駐留軍の実態だ。
急成長したヒーサへ反目する勢力もまた多く、ヒサコの活躍はそのままシガラ公爵家、ひいてはヒーサの権力基盤強化に繋がると言う“政治的な判断”により、増援を出さなかった貴族も多かった。
だが、そのヒサコが国母となったからには、話が変わって来るのだ。
“聖女ヒサコ”は“敵”には一切容赦しない苛烈な性格でもあるし、ここで増援を渋るような真似をすれば、後が怖い。なにしろ、“国王の母”という権力を手にし、それを国内最大勢力にまで強化されたシガラ公爵家が補強する体制が出来上がったのだ。
帝国を退けた後は、返す一撃でその“怠惰な連中”を屠ることすら考えられた。
それを回避するのであれば、遅きに失したとは言え、兵の供出や物資の提供に応じなければならない。
ようやく待ちに待った増援が到着する。アーソの人々の士気上昇は、それに起因していた。
「でもさ、ヒサコ様が国母ってことは、さすがに前線の指揮は無理だよな?」
「そりゃな。でも、兄君の公爵閣下が来るって話になってるらしいぞ」
「おお、公爵閣下なら安心だ! あの御方も傑物だからな」
ヒーサの人気と実績もまたアーソの人々の間では高かった。
先頃のアーソにおける動乱の際、見事な戦いぶりを見せ、『
その後は全力でアーソの人々を擁護し、あるいは援助し、今日の土台を作ったと言っても良かった。
シガラの地はアーソから遠方のためさしたる係わりがなかったが、妹ヒサコがいるからと言う理由もあるが、惜しみなく財を投じてくれた恩義もあり、ヒーサの名声もまたヒサコに次いで高い。
その指揮下に入るのも問題はなかった。
そのため、アーソではヒサコから残された指示に従い、防衛力強化のため各種施設を補強し、帝国軍の侵攻に備えていた。
そして、ヒーサが率いてくるであろう増援軍と共に一気に押し返し、以て皇帝の首を取る。これが基本戦略となっていた。
勝てる。アーソの人々はやる気を漲らせ、自分こそが皇帝を討ち取り、一番手柄を上げるのだと息巻いた。
そんな湧き上がる前線の陣地が、にわかに絶望の淵に立たされることとなる。
そう、ついに姿を現したのだ。
帝国最強の戦士たる“皇帝”が。
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