12-27 開廷! 王都騒乱の真相を求めて!(7)

 現在、カンバー王国はジルゴ帝国との戦争の真っ只中である。


 ヒサコ率いるアーソ駐留軍の奮戦によって、帝国側に大打撃を与え、今は小康状態になっていた。


 だが、いつ侵攻してくるか分からない状態であり、それゆえの“戦時下”なのだ。



「現在、帝国とは戦争状態にあります! しかし、これの迎撃のための援兵が、一切アーソの地にやって来ないのはいかなる理由か!?」



 ヒーサの飛ばした言葉に、幾人かが顔をしかめ、あるいは視線を逸らした。


 なにしろ、アーソの地で合流し、帝国軍を迎え撃とうというのが本来の作戦なのだが、アーソの地に援兵、あるいは補給物資を送った貴族は意外と少ないのだ。



「こっちが必死になって戦っているのに、お前らは何をしている?」



 こう切り出されては後ろめたい事この上なかった。


 まして、シガラ公爵家は寡兵を以て戦果を挙げており、援兵を渋った貴族はますます立場がないのだ。


 無論、それは教団に対してもであった。


 ブルザーもロドリゲスも、これ以上に無いほどのしかめっ面を作っていた。



「じ、準備中だ! 軍勢を整えるのには時間を要するものなのだぞ!」



「ええ、まあ、準備は時間がかかりましょうな。そう、帝国と内通し、最前線で必死で踏ん張っている我らの背後を突くためにね、ブルザー殿!」



 ここでヒーサは批判の矛先をブルザーに切り替えた。


 軍事的な話ともなると、ブルザーを叩く材料がいくつもあり、これを逃す機会はなかった。


 なお、“王都騒乱の審理”が裁判の本題であるが、この話は完全に脱線しており、そこは司会進行が方向修正を行うべきなのだが、マリューは当然のようにこれを黙認した。



「皆さん、考えていただきたい! 帝国において皇帝即位の話はすでに聞き及んでおりましょうが、そのための迎撃の準備が遅々として進まない! 兵も、物資も、全然足りていない。我らシガラ公爵家が必死でそれに備えようとも、教団もセティ公爵家も、一向に援兵を寄こす気配すらない! これは明確な利敵行為であり、国家への反逆だ!」



「言いがかりも甚だしい! 準備に時を要していると、ロドリゲス猊下も仰っているではないか!? それはこちらとて同じことだ!」



「ほほう。それほど、こちらの背を突く準備に忙しいかな、ブルザー殿?」



「それ以上の暴言は許さんぞ!」



「指摘を暴言と評せられるのは、甚だ心外ですなぁ。それに何も、一切の証拠が無く申し上げているのではありません。事実として、あなたの弟が敵方に寝返っていたのですからね、こ・う・しゃ・く♪」



 このヒーサの指摘には、ブルザーも言葉が詰まった。


 なお、“黒衣の司祭リーベ”の件は、完全にヒーサの情報操作の結果なのであって、事実無根なのだが、世間ではそうは思われていない。裏の事情を知るごく一部の人間を除けば、セティ公爵家当主の実弟が邪教を奉じており、魔王の復活を目論んだと思われていた。


 身内の裏切り行為という、ブルザーにとって不都合な情報と、援兵を出さない現在の情勢が合わさるとどうなるか?


 答えは、セティ公爵家全体が敵方に通じているのでは、という疑念が生じるのだ。



「だから、事実無根だと言っているではないか!」



「その割には、挽回しようという動きが見られませんな」



 今度は審議席にいたスーラが横槍を入れた。



「セティ公爵家は“武”の公爵と謡われるほどの、武門の名高き名門貴族! しかし、このところ、戦績がよろしくないようですな」



「何が言いたい、大臣!」



「折角ですので、その“武”によって名誉を挽回すればよろしいのに、どうにも動きが鈍い。やはり、敵方と通じていると疑われても仕方がないのでは?」



「き、貴様!」



 ブルザーは激高し、周囲の聴衆を押しのけて、スーラに掴みかかろうとした。


 しかし、寸前のところで会場の警備に当たっていた、将軍のコルネスがこれを止めた。



「公爵、おやめいただきたい。ここは議論を交わし、審理を行う、真実追及の場であります。下手な暴力行為はこちらの職権により、あなたを排除することになります。どうか、冷静な議論をお願いいします」



「ぐぬぬぬぅぅぅ……!」



 そうまで言われては引き下がらざるを得なかった。下手に排除されては、周囲の心象が悪くなる一方であるし、この後は言いたい放題に言われるのが目に見えていたからだ。


 マリューにしろ、コルネスにしろ、公平を装いつつ、しっかりと裏ではヒーサに通じており、援護射撃に余念がなかった。


 スーラに至っては、露骨に肩入れする姿勢を見せており、今もヒーサと打ち合わせもなしに連携して、ブルザーをやり込めた。


 これでブルザーの立場も悪くなり、それに引きずられる格好で、サーディクの立場も悪くなった。



(まあ、サーディクの場合は完全な濡れ衣であるし、すぐにそれは外れる。しかし、ブルザーの方はそうはいかん。リーベの件があまりに大き過ぎて、これは容易に外せない。そこが奴の急所だ)



 なお、その急所もでっち上げなのだが、そんなことはヒーサにとってどうでもいいことだ。


 攻撃するのであれば痛い所を攻撃するのは当然であり、それを払拭する機会を逸した相手が悪いのだ。


 もし、ブルザーが政治的なわだかまりを捨て、早い段階でアーソに援軍を率いて赴いていた場合、帝国領への逆侵攻において手柄を立て、名声も大いに高まっていたはずだ。


 それをしなかった段階で、ブルザーはメンツにこだわり過ぎて、実を取らなかった間抜けでしかない。


 少なくとも、ヒーサはそう考えていた。



(そういう意味ではロドリゲス、お前も同罪なのだぞ。お前が教団からの増援を妨害していたのも、すでにこちらは掴んでいる。それが裏目に出たな!)



 次は貴様の番だと、ヒーサは審議席で渋い顔をしているロドリゲスを睨み付けた。

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