悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
12-26 開廷! 王都騒乱の真相を求めて!(6)
12-26 開廷! 王都騒乱の真相を求めて!(6)
出だし早々から混乱はあったものの、王都での事件に関する裁判が始まった。
「では、改めて始めさせていただきます。昨今の物騒極まる事件の数々、これの真相に迫りたいと思いますので、審理に関わる者は神々に誓って誠実な審問と答弁をお願いいたします」
どこか余裕の感じるマリューの宣言により始まる裁判だったが、すぐにその場の空気は沸騰した。
審議席にいたロドリゲスが立ち上がり、そして、怒鳴りつけるように大口を開けた。
「真相も何も、そこにいる魔女が犯人ではないか! さっさと火炙りにでもすればいい!」
審議席にいる枢機卿のロドリゲスが、被告席にいるアスプリクを指さした。
審議席、傍聴席の人々の視線は、当然アスプリクに向かったが、当のアスプリクは憮然とするだけで、反省も焦燥も見せなかった。
「宰相閣下暗殺は、シガラ公爵が用意した毒酒を飲ませてこれを殺害し、追い詰められると、衛兵を焼き殺して逃亡! さらに陛下の寝所に侵入して、これも殺害するというとんでもない暴挙! これを裁かずに、正義が成せるか!」
アスプリクを責め立て、しかもヒーサへの共犯の罪を鳴らし、二人をさっさと処断するように、ロドリゲスは周囲の同意を求めた。
もし、これが冒頭で展開されていればそのまま勢いで押し込まれていたかもしれないが、今では半分が首を傾げている状態だ。
それはヒーサの行動が、あまりにも不可解であったからだ。
「なぜ、わざわざ火の中の焼石を拾うような真似を?」
これが皆が抱く疑問であった。
誰しも罪に問われる事を恐れる。しかも、宰相殺し、国王殺しともなると、本人どころか一族全てが連座しかねないほどの重罪である。
そうであれば、アスプリクを切り捨て、シガラ公爵家を守る姿勢をとるのが普通と言えよう。
ところが、ヒーサはそれをしなかった。
それどころか、アスプリクとは情事を重ねるほどの関係(でも、実は割とピュア)であると暴露し、完全にこれを擁護する姿勢を示した。
名門貴族がその門地を賭けて一人の少女を救おうとするなど、あまりにも奇妙なのだ。王族ではあるが、庶子と言う微妙な立場にあり、危機に瀕したお姫様に手を差し伸べる貴公子、という絵面にはなり得なかった。
そうなると、ヒーサがアスプリクを助けようとする理由は、常識的に考えれば二つしかない。
立場に関係なく両者の間に固い絆が生じているか、あるいは無罪を勝ち取る自信があるか、だ。
それゆえに、半信半疑と言った雰囲気が醸されていた。
事の真偽に関わらず、なにがなんでもシガラ公爵家に大打撃を与えたいと考える、一部の人々を除いて。
「まあまあ、枢機卿猊下、審理はこれからでございますし、結論を急ぐ必要はありますまい」
「急ぎもするわ! 今は戦時下であると自覚しておらんのか!?」
「それとこれとは話が別でございます。もし、適当な判決を下し、それが後に冤罪だと分かれば、結局国権の威信を低下させかねませんので、それは法を預かる者としては看過しえません。どうか浅慮な発言はお控えいただきたい」
マリューはロドリゲスの恫喝を一蹴した。
今は自分の職責の内にあり、いかに枢機卿と言えども下手な口出しはやめろと、明確に示した。
ヒーサへの援護であり、勝つ自信があればこそのケンカ腰でもあった。
「失礼。今、“戦時下”と仰ったか?」
ここでヒーサが再び動いた。
足を組み、尊大な態度をあえて示して、被告とは思えぬ太々しい風体であるが、その一挙手一投足は皆の注目を集めた。
手を上げ、発言を求めると、マリューは無言で頷いて、発言をヨシとした。
「枢機卿、あなたは今、戦時下と仰った。聴衆の皆さんもお聞きになられたでしょうか?」
「それが何だというのだ? 事実ではないか。ジルゴ帝国の侵攻が迫る中、今回の事件が起こったのだ。さっさと事件の犯人を裁くことに、何の疑義がある!?」
「仰る通りです。では、その“最前線”で戦っているシガラ公爵家を、背中から撃つ所業は利敵行為となりませんかな?」
「んなぁ!?」
予想外の切り返しに、ロドリゲスは言葉に詰まった。
現在、ジルゴ帝国の侵攻が迫っており、国境のアーソ辺境伯領において防備が固められている。それの指揮を執り、かつ資材を投じているのがほとんどシガラ公爵家であった。
前線の指揮官にしても、公爵家の令嬢ヒサコが夫アイクの死を乗り越えて踏ん張っている状態であり、その聖女と称えられる奮戦ぶりは、国中至る所に武名が轟くほどであった。
視点を変えてみると、今回の騒動はその帝国の侵攻を必死で防いでいるシガラ公爵家に対して、背中から槍を突き刺す行為にも取れるのだ。
ヒーサはその点を指摘したわけだが、それに気付かされた聴衆はまたざわめき出した。
「静粛に願います! どうかお静かに!」
沸騰した空気をマリューは再び鎮め、再度ヒーサに視線を向けた。
更なる追撃を促す為であり、ヒーサもヨシヨシと頷いた。
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