12-25 開廷! 王都騒乱の真相を求めて!(5)

 マリュー・スーラの大臣兄弟は事前の打ち合わせで、ヒーサへの態度をどうするかで意見を交わしていた。


 味方するか静観するか悩んだ末に、実際に会場でヒーサの状態や会場の雰囲気を見てから判断する、と感じで取り決めていた。


 その結果、マリューはヒーサ優勢に進む状況をかんがみて加担する事を決め、スーラもそれに倣うことにした。


 審議席の末席に座していたが、ここで全力でヒーサを擁護する立場に回った。



「マリュー大臣、殿下に失礼であろうが!?」



 そうした兄弟の雰囲気を察し、流れを断ち切ろうと声を荒げたのは、セティ公爵ブルザーであった。


 ブルザーは傍聴席側に座してはいるが、横槍を入れる気満々なのか、あるいはヒーサが無様を晒す場面を見たかったのか、審議席のすぐ近くの最前列に陣取っていた。


 サーディクへの批判と嫌疑は、縁者である自分へのそれになり得るので、断じて認められるものではなかった。



「失礼も何も、嫌疑をかけられた者が、司会進行を行うのが不適当であると申し上げたまでの事。疑惑が晴れれば元に戻りますし、今はお控えられるのがよろしいかと」



「まったくの濡れ衣ではないか!」



「それを確かめるための裁判であり、審理でもあります。恣意的に国家の重鎮を処断し、それが間違いでしたでは済まされませんぞ!」



 こうだと決めた以上、たとえ相手が三大諸侯の一角であろうとも、マリューは引かなかった。


 むしろ、下手な恫喝は印象が悪くなるだけだと判断できない、ブルザーの思慮の無さこそ糾弾されるべきだとさえ考えた。



「あぁ~、よろしくありませんな公爵殿」



 ここですかさずスーラが横槍を入れた。



「公爵殿は審議する側ではなく、傍聴席に座しているただの聴衆の一人でありましょうに。下手に口出しをされ、裁判に横槍を入れるような真似はお控えいただきたいものですな」



「なんだと!?」



「まあ、政敵の失策に付け込みたいお気持ちは察しますが、今は口を噤んでおいた方がよろしいかと申し上げておきます」



「だから、殿下の件は完全な濡れ衣だと!」



「ですから、それを審理するのがこの場なのです。お判りいただけますかな? 『六星派シクスス』に内通していたセティ公爵家の当主様」



 このスーラの発言が場をさらに沸騰させた。


 ブルザーの実弟であるリーベは、邪神を奉じる黒衣の司祭として処断された。


 それゆえに、セティ公爵家の威信が大いに低下し、それをまだ引きずっている状態なのだ。


 それを今一度呼び起こし、聴衆の心象を悪化させる狙いであった。


 スーラは元々、徴税請負人という職に就いていた。役人に代わり、各所から税を徴収してくるのがその仕事である。


 役所から既定の金額の税を徴収してくる仕事だが、その規定額を超える徴収を行った場合、その内の半分を懐に収めてもいいという役得があった。


 そのため、徴税請負人は赴く先々で徹底した調査を行い、粗を見つけては徴税額を引き上げることが常態化していた。


 人々からは大いに嫌われる職業ではあるが、その役得があるため、腕前次第では一代で巨万の富を築くことができた。


 スーラがまさにそれであり、兄の引き立てと自身の財力を武器に、今では財務大臣にまで上り詰めていた。


 相手の粗を探し出し、それをほじくり返すなど、スーラにとってはいつもの事であり、相手から凄まれる事もあったが、それもまた手慣れたものであった。



「それこそ濡れ衣だ! 私は未だにリーベがあのようの暴挙に出たなどと信じられん!」



「おや? 王国の法務局も、教団の法理部も、そうだと認めた案件に口出しなさるとは、やはりあなたもそうなのですかな?」



「濡れ衣だと言っている!」



「でしたらば、わざわざ声を荒げて否定なさることもありますまい。真実が明らかになれば、サーディク殿下の名誉も、あなたの名誉も、戻るのですからな」



 もはやどっちが審理される側なのか分からなくなってきて、場はますますざわついた。



「皆様、静粛にお願いいたします。これでは一向に審理が進みません。あくまで聴取席の中は聞くだけでございまして、野次や質問などは認められておりませんので、その辺りはどうぞご考慮なさっていただきたい。しつこい違反者には、私の権限によって御退席を強制いたしますので、その点をお忘れなく」



 スーラが引き付けているうちに、マリューはサーディクを隅に追いやっており、ちゃっかり司会の座を占めるに至っていた。


 相も変わらず見事な兄弟の連携と抜け目のなさに、ヒーサも思わずニヤリと笑ったほどだ。



(さて、これで状況的には五分くらいにまで持ち直したか。だが、ヨハネスの姿が見えない点が、やはり気になる。状況が判明するまで、今少し時間を稼がねばならんな)



 熱気渦巻く大広間にあって、なおも冷静沈着に事態を観察するヒーサは、次なる一手のため、台本の修正に取り掛かっていった。

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