12-24 開廷! 王都騒乱の真相を求めて!(4)

 ヒーサやアスプリクらシガラ公爵家の顔触れが糾弾される場になるはずが、どういうわけか進行役のサーディクが責め立てられるばかりであった。


 国王暗殺の現場において、目撃者がいなかったことを理由に、その罪をサーディクに擦り付けた。


 なお、真犯人はアスプリクでもサーディクでもないため、議論は平行線を辿るのが目に見えていたが、それこそがヒーサの望む展開であった。



(一番怖かったのは、言い分すら聞き取らず、有無を言わせず罪状を言い付け、そのまま処刑場に引っ立てられること。だが、こちらの挑発に乗り、議論を始めてしまったことがそちらの失策だ)



 始まってしまったら、もう後には引けなくなる。


 しかも、まんまとサーディクに聴衆の疑惑を向けることに成功した。


 この段階まで来ると、一方的な判決は出しにくくなるのは自明であった。


 現に、サーディクは困惑し、ロドリゲスやブルザーは渋い顔をしていた。


 そんな困惑と疑念が渦巻く大広間であったが、これを好機と見て動き出した者がいた。


 審議席の末席に座していた、法務大臣のマリューだ。


 席から立ち上がると、一礼してからサーディクに歩み寄り、今し方自分が座っていた席をサーディクに勧めた。



「殿下、大変申し訳ございませんが、司会進行役は私が代わりますゆえ、どうか席にお座りくださいませ」



「大臣、無礼であろうが!」



 声を荒らげたのは、セティ公爵ブルザーであった。


 こちらも審議席に座っていたが、マリューに言わせればなんの権限でそこにいるのかと、問い詰めたいところであった。


 サーディクが進行役であるからこそ、その補佐としているのであろうが、好き放題させるつもりはなかった。



「無礼も何も、私としましては職責と権限の内において、それを行使しているだけでございます」



 そして、マリューは無礼を承知で、ビシッとサーディクを指さした。



「御前聴取という体を取って、裁判“もどき”を行っており、そう言う意味において、サーディク殿下が進行役を勤められるのは妥当でございました。しかし、殿下に嫌疑がかけられ、それを晴らせぬのであれば、進行役の席より退いてもらうのが道理かと思いますが?」



「ぬ……」



 マリューの言は正論であり、法的にも理論的にも、反論を許さぬものであった。


 いくらなんでも嫌疑をかけられた者が、疑いを晴らせぬままに裁判の進行役であるのはマズいと言うわけだ。


 サーディクもこれには納得せざるを得ず、後ろに下がっていった。


 無論、これは濡れ衣であるから晴らすつもりでいるが、自身の名声に泥を塗られたことには変わりなく、ヒーサに対して明確な不快感を示した。


 数多戦場を駆けた者の鋭い眼光が向けられたが、ヒーサはわざとらしく肩をすくめ、軽く流した。



「では、法務大臣としての職権において、この場の司会進行役を不肖マリューが、勤めさせていただきます」



 これも正しかった。


 マリューは亡き宰相ジェイクより、法務大臣に任命されており、法務における責任者という立場にあった。


 この場において、進行役を勤めるべき王族がいなくなった以上、その職責においてマリューが進行役を代行するのは、同然と言えた。


 ゆえに、誰からも文句もなく、すんなり受け入れた。


 一部は、不満がありながらも受け入れざるを得なかった。そういう感じが表情に出ていた。


 この時、マリューは素早く二人の人物と視線を合わせた。


 一人は“被告席”のヒーサであり、もう一人は“審議席”に座している弟で財務大臣のスーラだ。


 正直なところ、マリューはこの裁判もどきを“静観”しようとしていた。


 事前に把握していた状況はヒーサに不利であり、肩入れして巻き添えを食らう事を恐れたからだ。


 しかし、ヒーサからは多くの“誠意わいろ”を受け取っているため、味方をしているフリくらいはせねばと、頭を悩ませていたほどだ。


 だが、その考えは会場に現れたヒーサを見て、地平の彼方まで吹っ飛んでしまった。


 “共犯者おともだち”が余りにも堂々としていたからだ。


 一片の罪の意識も、やらかしたという後悔もなく、ただただ余興でも楽しむかのごとく、悠然とした姿を見せつけてきたのだ。



(あれは罪人、被告の態度ではない。余裕が体から溢れ出ている。こういう輩は、何かしらの“強み”を握っている。握っているのは命綱、その程度のものだとしても、何か隠し玉を仕込んでいる)



 それがマリューの最終的な結論であり、動くことを決意した。


 若かりし頃は地方の法務官、現在は中央の法務大臣として、数多くの裁判に携わり、大なり小なり罪人を裁いてきた。


 その経験から来る一種の勘のようなものが、ヒーサは白、あるいは白に見せかける何かを持っている黒、だと判断した。


 ヒーサと一瞬だが目線をしっかり合わせたのは、まさに加勢するぞという合図に他ならない。


 そして、弟である財務大臣のスーラへの視線は、それを始めるぞという開始の合図であった。


 場はひっくり返り、王都騒乱の真相を求める裁判は、第二幕へと突入した。

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