悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
12-23 開廷! 王都騒乱の真相を求めて!(3)
12-23 開廷! 王都騒乱の真相を求めて!(3)
被告席に座っているヒーサの方が、場の主導権を握っていた。
サーディクはまんまと乗せられ、完全にペースを乱されてしまった。
「何度も言いますが、あの晩のアスプリクは私のすぐ側で、安らかな寝息を立てていた。そんな鼻息荒く陛下を抹殺しに行くなど、絶対に不可能です! これは断言できます!」
「だが、私は本当に縛り付けられたのだぞ! それに、アスプリクが復讐に走ったのも、かつての出来事を恨んでの事! 『兄上は標的ではないので、少し黙っていてください』とか言って、私を見逃したのだ」
「あらら~? そこも奇妙な点ですなぁ~」
「どこが奇妙なのだ!? 世間に流布するあの醜聞、それを止める事を、アスプリクに救いの手を差し伸べなかった事に対して、父上やジェイク兄さんへの復讐だと称して……」
「それです! 殿下、あなたは今、“ジェイク兄さん”と述べました。それがおかしい。アスプリクには三人の兄がいますが、“兄”と呼んでは誰の事か判別できないため、アスプリクは常に名前で呼んでいるのです。アイク兄、ジェイク兄、サーディク兄、とね。にも拘らず、今の証言ではアスプリクは“兄上”と呼んでいた。これは“らしくない”ですな」
重箱の隅を突くかのような細かな話ではあるが、“印象操作”を行うにはこの手の話は有効であった。
少しでも矛盾や違和感があれば、本筋そっちのけでそれを攻撃する。印象を悪く見せかけるのには、このやり口は非常に有効であった。
「こういう話ではですね、“お互いの呼び方”というのが、結構真実へ到達するための取っ掛かりになるのですよ。火属性の術式の未使用、普段しないような呼び方、殿下以外の目撃情報のなさ、そして、私の証言……。まあ、親しい者の証言は信憑性に疑義があるため外すとしても、アスプリクがその場にいなかったという“状況証拠”が積み上がっていますなぁ~」
「だ、だが、本当にアスプリクがいたのだぞ!?」
「夢でも見ておられたのでしょうな。あるいは都合のいい現実を、幻として投影していたとかね」
実際、カシンが幻を見せていたのだが、それを察することができる人間は限られていた。
ただアスプリクがいなかった、という事実だけがぼんやりとだが見え始めただけだ。
(出だしとしては上々。たっぷり不可解な状況を残してくれたカシンには、後でちゃんと礼を述べに行かねばな~)
などと冗談めかしたことを思いつつ、ヒーサは周囲を眺めた。
この場にいる人間の大半は、今をときめくシガラ公爵が実はとんでもない食わせ者で、それが無様に裁かれる様を見に来たのだ。
なにしろ、“絶頂”にある者が転落する様を眺めることほど、腹を抱えて笑える喜劇は存在しないからだ。
ところが、いざ蓋を開けてみれば、責め立てられるのはサーディクばかり。
一体どうなっているのか? と周囲と顔を見合わせ、困惑する人々ばかりであった。
雲行きが怪しくなってきており、してやったりとヒーサは心の中で拍手喝采だ。人前でなければ、小躍りの一つでもしそうな勢いであった。
「だ、第一、私が父上を暗殺するなど、絶対にありえん話だ! そんなことをして、私に何の利益があるというのか!?」
「さっさと国王になれ、とでもセティ公爵辺りから
「な……」
サーディクはヒーサの指摘に思わず絶句した。
ヒーサの発言は単なるカマかけであったのだが、半分正解していたからだ。
サーディクの妻はセティ公爵ブルザーの縁者であり、もしサーディクが国王に就任した場合、外戚として権勢が振るえるとほくそ笑んでいるのがブルザーであった。
それがあるからこそ、ブルザーは次期国王であったジェイクが殺された後、素早く国王に就任するようにとサーディクに耳打ちしていた。
病床にある国王フェリクでは、現在の困難な状況に対処できない。若く精力的な王が必要だ、と。
サーディクが国王の寝所に訪れたのも、それを念頭に入れての訪問であった。
事情を告げ、取り乱す父の姿を見て後悔はしたが、後戻りはできないとばかりに譲位を迫ろうとしたところで、アスプリク(偽者)の登場となった。
(まあ、この程度は普段の行動を情報として持っていれば、容易に想像は付くがな。ククク……、証拠はいらぬ、事実すらゴミ箱へ! 都合のいい部分だけ抽出し、印象操作でこの場にいる貴族を引き入れる。さあ、楽しい楽しい“裁判ごっこ”はまだ始まったばかりだぞ)
もはや完全に流れを掴み、審議する側とされる側が逆転しつつあった。
さあ、次なる一手はどうするか、狼狽する相手を見ながら、ヒーサはさらなる思考を進めていった。
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