悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
12-16 入牢! ここが公爵の新しい寝床だ!
12-16 入牢! ここが公爵の新しい寝床だ!
王都ウージェに到着したヒーサ達は、そのまま王宮に護送されていった。
王宮は王都の中では最も強固な守りを誇り、護送されてきた四名と接触する人数を制限するのに、最も適した建造物と言えた。
また、貴人用の牢屋が存在することも理由の一つに上げられた。
外部からの施錠とのぞき窓のある部屋であり、それ以外は貴族の寝室と言っても遜色ない程の
「いやはや、結構な待遇だな」
ヒーサは用意された寝台に転がり、呑気に鼻歌まで
どこまでも余裕をふかしており、何の心配もないと言いたげであった。
なお、ヒーサの横に添い寝しようとしたアスプリクは、しっかりとアスティコスに止められていたりする。
「それでこれからどうなさいますか?」
ライタンは椅子に腰かけ、少々不安げに尋ねてきた。
なにしろ、着いて早々に敵方が“仕掛けて”きたからだ。
部屋の中にある机の上には配膳されてきた食事が四人分あるのだが、ヒーサが食べた分を除けば、
理由は簡単。“毒”が仕込まれていたからだ。
ちなみに、ヒーサが毒見と称して出された料理をまず食べて、
(まあ、私はスキル【毒無効】があるから、こういうときには便利だわな)
毒が効かないだけで、毒の味は多少感じるので、こういう時には便利なスキルであった。
「そもそも、僕ら全員術士だよ? こんなのすぐバレるって」
そう言ったのはアスプリクだ。
そもそも術士は常人とは違う感覚を持っており、毒や呪いへの違和感と言うものを自然と感じてしまうものなのだ。
ましてや、この部屋の中にいる四人は、そもそも【毒無効】を持っているヒーサに加え、国内で十指に入る凄腕の術士ばかりである。
毒を仕込んだとしても、すぐに気付かれるのがオチだ。
アスプリクがカシンの仕込んだ罠にハマったのも、あくまで油断が生んだものであって、現在のような警戒態勢にある中では、誤魔化すなどまず不可能であった。
「まあ、裁判やら聴取が始まるまでは、のんびりすればいいさ。もちろん、実力行使に出てきた場合は、それ相応の反撃はするがな」
実際、すでに裁判なしで処断するために毒まで仕込んできたが、それも失敗に終わった。
事を荒立てたくないという段階ではなく、大事になろうとも消しにかかる、という段階まで王宮が騒がしくなっていることの証であった。
コルネスが色々と手を回してくれているだろうが、それも万全ではないということだ。
なにしろ、今回の毒入りスープにしても、厨房の料理人か、あるいは配膳の給仕を一人、買収でもしておけば済む話であり、それまで全部防ぎ切るとなると、コルネスとその手勢だけでは手が足りていないのは明白であった。
「お待ちください! この先は立ち入り禁止でございます!」
「うるさい! どけ!」
何やら急に部屋の外が騒がしくなってきて、口論が始まっていた。
どうやらどこかの誰かが“面会”をしに来たようだが、望ましい客人ではないのはすぐに分かった。
監禁部屋の前にいる衛兵はコルネスの息がかかった兵士であり、それに止められているということは敵対する勢力の要人だというのは察しがついた。
「構わん! 丁度退屈していたところだ!」
ヒーサは部屋の外まで響く大声で叫び、そして、寝台から起き上がった。
“声の主”には聞き覚えがあったので、“毒”で死んだかどうかの確認に来たのだろうと踏んだのだ。
ならば、元気な姿を披露せねばと、その場の四人は実にリラックスした姿勢でこれを迎え入れることに決めたのだ。
そして、扉に備え付けられたのぞき窓が開くと、予想通りの顔が視界に飛び込んできた。
「お久しぶりですな、ロドリゲス枢機卿。お元気そうで何よりです」
嫌味たっぷりな言い回しをしながら、ヒーサはゆっくりと扉に近付いた。
ロドリゲスは
最高幹部たる枢機卿は合計で五名いるのだが、そのうち一人は王宮に入り、王族に関する祭事や、聖山との伝奏がその役割であり、以前は現法王のヨハネスが就任していた。
ヨハネスは自分が法王になったために王宮詰め枢機卿が空席となり、それをロドリゲスに当てて、なにかと口やかましい存在を聖山の外へと出したのだ。
結果、聖山におけるロドリゲスの派閥は大きく後退し、ヨハネスがいよいよ教団の抜本的な改革に乗り出す機会が訪れた。
しかし、その矢先にヨハネスの後ろ盾であった宰相ジェイクが暗殺されてしまい、足元が一気に覚束なくなった。
そこからがロドリゲスの巻き返しが始まり、今もこうして政敵であるヒーサを葬ろうと、あれこれ手を回していた。
(さて、合戦前の掛け合いだ。せいぜい、面白おかしく笑いを取ってやろうぞ)
囚われの身だというのに、ヒーサは余裕であった。
むしろ、扉の向こうにいるロドリゲスの方にこそ焦りが生じていた。
さあ、何を話そうかと、ヒーサは意地悪く考えるのであった。
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