11-9 奇襲!? 突然の登場を誰が予想したというのか!?

 二人が屋敷の中に入ると、屋敷を統括しているゼクトがすぐに寄って来た。



「お帰りなさいませ、アスプリク様。お顔を見ますに、首尾は上々なご様子でなによりでございます」



「ええ。まずは仕事の半分が片付いた、ってとこかな」



 実際、アスプリクは上機嫌ではあったが、普段とは違う慣れぬ仕事をこなしてきただけに、疲労感が思ったより出ていた。


 しかし、ゼクトはそんな少女の疲れを知りつつも、お構いなしに耳打ちしてきた。



「すぐにこちらへお越しください」



 妙に焦っている雰囲気に、アスプリクもただならぬ気配を察知した。



(まあ、そこらを飛び回ってたんだし、僕目当ての……、急な来客でもあったかな? そうなると、ジェイク兄が直接乗り込んできた……!?)



 その可能性に思い至った時、アスプリクの心臓がトンッと跳ね上がった。まだ兄と直接会談する心の準備ができていなかったからだ。


 今夜はゆっくり眠って、明日の祭りを見学しつつ、どうしようかと考えようと思っていたのに、まさかの不意討ちである。



(そこまで前のめりにならなくてもいいじゃん! もう少し落ち着きなよ!)



 そうは言っても、来訪して、しかも待っているのであれば会わざるを得ない。いくらなんでも宰相を追い返すわけにもいかないし、追い返したら場を設けたシガラ公爵家の面々に迷惑がかかる。


 足を踏み出すごとに打ち鳴らされる早鐘のごとく、心臓はバクバク唸っていた。


 そして、とある一室の前まで来ると、ゼクトは周囲を気にしながらサッと扉を開けた。


 誰かが待っているのであれば、扉打ノックもなしに無作法だなとアスプリクは感じたが、内密の来訪ならば周囲に気取られたくないと考え、その点は無視することにした。


 アスプリクはドキドキしながら中に入ると、完全なる不意討ちが決まった。



「よう! アスプリク!」



「はぁぁぁ!? ひ、ヒーサ!?」



 あろうことか、その部屋の中で待っていたのは、ヒーサであった。


 最近はちょっと見なくなった爽やかな笑みを浮かべており、座っていたソファーから立ち上がると、手を広げて、アスプリクへの歓迎の意を示した。


 あまりにも予想外な待ち人に、アスプリクも、アスティコスも目を丸くして驚いた。



「え、ちょ、え? なんでここにいるの!? ライタンと一緒に来るんじゃなかったの!?」



 アスプリクも反応に困った。


 ゼクトもそれには同様らしく、同情しますと言う無言の視線を向けていた。



「それについてはそうなのだが、大臣連中と事前に話し合いの場を設けておきたくてな。今後の事もあるし、一足先に潜入しておいた」



「あ~、そっか、マリュー、スーラには、色々と今後も動いてもらうことになるしね」



「あまり、公にできないことも含めてな」



「いやまあ、それも分かるけどさ。公爵自身が隠密行動ってどうなの、それ!?」



 良い意味でも悪い意味でも予想を裏切るヒーサの行動力には、さすがのアスプリクも脱帽であった。


 ヒサコもそうだが、“中の人”の行動の素早さは冠絶していると言ってもいい。グイグイ来たかと思えば、いつの間にか消えていることもあるし、さすがだと感心した。



「……その様子だと、首尾は上々のようだな」



「そりゃもうバッチリよ♪」



 喜ばしい戦果報告ができるので、アスプリクも疲れと驚きの表情を放り投げ、満面の笑みをヒーサに向けた。


 それには満足そうにヒーサも頷いて応じたが、途端に難色を示すような顔をゼクトに投げつけた。


 察しの良いゼクトはその意をすぐに汲み取り、アスティコスの腕を掴んだ。



「アスティコス様、今宵は夜通しの祭りでございますので、月が大変奇麗な夜景を拝める場所がございまして、ご案内させていただければ幸いかと」



「うぇ!? あ、ちょっと、待って!」



 アスティコスも状況を察したが、即行動に移すほど考えがまとまっていなかったため、強引に引っ張るゼクトの手早さには困惑した。


 そう、“ヒーサとアスプリクを二人きり”にさせる、ということをである。


 姪には甘々で、やりたいようにさせているし、ヒーサへ抱く感情も知ってはいたが、これから起こるであろう“行為”に全面的な同意をしているわけではなかった。


 だが、ゼクトはそんなことなどお構いなしに、アスティコスを連れ出してしまった。


 主人がそう望むのであればそうあるべし、ただその考えのみでの行動の結果であった。


 バタンと扉が閉まり、そこでようやくアスプリクが気付いた。誰にも邪魔されない密室の内側に、ヒーサと二人きりになれた、と言うことにである。


 大好きな人と他に誰もいない空間。


 そんな場所で“二人きり”。


 それを認識した途端、アスプリクは気恥ずかしさと、それを上回る高揚感によって顔を赤らめ、どう行動するべきかを考え始めた。

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