悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
11-2 情報収集! 白無垢の少女は調べて回る!
11-2 情報収集! 白無垢の少女は調べて回る!
シガラ公爵家の上屋敷は、祭りの最中ではあっても比較的静けさを保っていた。これは上屋敷の管理をしているゼクトの差配によるところが大きい。
ヒーサやヒサコへの面会を申し出る貴族が多数存在するのだが、兄妹の到着が祭り六日目以降になるので、それ以前に来られても面会はできないと、事前に方々に触れ回っていたからだ。
そのため、せいぜい約束を取り付けるための軽い挨拶や、あるいは贈り物を置いていく程度であり、そこまで忙しいと言うわけではなった。
とは言え、ヒーサやヒサコがいつ到着してもいい様に準備は整えており、そこは手抜かりはなかった。
そんな中に、ひょっこりと顔を出したのが、アスプリクであった。
ヒサコからの紹介状を持ち、またゼクトとも面識があったため、すぐに会う事が出来た。
「……というわけで、ヒーサが到着する前に、色々と事前にやっておきたい事があってね。寝泊まりだけでも、この屋敷を使わせてほしいのだけど、いいかい?」
「もちろんでございます。客間はすぐにご用意いたしますので、御随意にお使いください」
ゼクトの対応も懇切丁寧であった。
なにしろ、相手は元とは言え火の大神官であるし、主君たるヒーサにとっては賓客に等しい扱いをしているアスプリクである。色々と便宜を図って然るべきで、寝所の手配くらいお安い御用であった。
「まあ、情報収集として聞いておきたいんだけど、宰相府は忙しい感じかい?」
アスプリクの役目は、宰相府ならびに聖山の状況把握であった。可能であれば、公爵家とそれらの事前交渉でもできれば申し分ないが、そのためにはまず情報収集が優先された。
「そうですね。
「それだけ、切羽詰まってるって事か。一気に進めてしまいたい腹積もりかもしれないね」
教団の改革は
宰相ジェイクはこの好機を見逃さず、一気に動き出したと言う事だ。
「とはいえ、ヒーサとの話し合いが必要不可欠である以上、こっちも早く来てもらわないと、話が進まないね」
「そうでございますね。各貴族の皆様方も面会を求めておりますし、数日後はこの屋敷も人で身動きとれぬほどのになるのではと、屋敷の者全員が戦々恐々でございますよ」
「ヒーサもヒサコも、それだけの功績があるからね。お近付きになりたい輩なんて、いくらでもいるだろうね。ヒサコの件もあるし、その点にだけは重々気を付けておいて」
「それは心得てございます。警備の人員も大幅に増員しております」
ゼクトの頭によぎったのは、“暗殺”の文字であった。
なにしろ、アイクが何者かに殺害され、次いで遠征から戻って来た直後のヒサコにまで、暗殺者が襲い掛かって来たのだ。
こうした人が集まるイベントと言うのは、暗殺者や工作員を潜ませるのにうってつけであり、警戒してもしすぎることもなかった。
「それで、聖山の方の動きは?」
「人事の大刷新が行われましたね。最高幹部会も、アスプリク様がいた頃に比べて、半分近く顔触れが変わっております」
「ほ~。意外と大胆に動くね、新しい法王は」
いくらジェイクの働きかけがあったとは言え、ヨハネス自身もここまで積極的に動くとは考えていなかっただけに、アスプリクの驚きも
ヨハネスとは最高幹部の中では数少ない確執のない間柄であり、それだけに推してはいたが、積極性に欠ける性格をしていたため、いつも一歩引いている感じがしてならなかった。
ところが、選挙が終わった途端にこれである。
危機感の表れであろうが、それだけに大人しい性格のヨハネスが動いてくれるのは、どちらにしても都合が良かった。
「まあ、ロドリゲス一派が選挙に破れて、勢力が後退したというのが大きいでしょう。ですが、得票率ギリギリで当選したので、盤石とは言い難い状況ですし、まだ油断はできない状況です。面倒な騒動一つでひっくり返される可能性もあり、そうなれば法王聖下が進められる改革も、最悪頓挫することになりかねませんので、まだ聖山も宰相府もピリピリしております」
「さすがに、一朝一夕に終わる話でもないか。まあ、そのための分裂解消ではあるけど」
「ですな。分裂を解消させて、その功績を以て新法王としての地盤固めをしつつ、改革を推し進めていく。結構な事ですな」
「分裂させたのはヒーサ、混乱させたのもヒーサ、終わらせるのもヒーサ。完全に手のひらの上だよね。どこまで読んでいるんだか、あの性悪公爵は」
などと軽い雑言を吐くアスプリクではあったが、内心ではヒーサの事を絶賛していた。
自分の事を頭がいいと考えているし、その上で性格も捻じ切れていると思っている。だが、上には上がいると知らしめてくれる上に、こちらへの好意まで示してくれている。
相手が既婚者でなければ、すぐにでも飛びつきたい気持ちでいっぱいなのだが、そこの点においては少々幼めな感覚しか持ち合わせておらず、“ティースから奪う”という選択肢が出ないのが、アスプリクの根にある真面目さの部分がにじみ出ていた。
「状況はおおよそ把握できたし、叔母上、行きましょうか?」
「行くって、どこまで?」
「聖山の奥の院まで」
「参拝客で凄い事になってそうよ、あそこ。それに夕刻ももう近いわ」
実際、アスティコスの懸念する通りであった。
王都ウージェから『
しかも、そこから長い参道の階段を上り、ようやく神殿に到着することができる。
行って帰ってくるだけで、余裕の一日コースだ。
“星聖祭”の最中は夜間参拝も認められているため、入れる事は入れるだろうが、それでも到着するころには確実に日没後。下手すれば深夜の到着となりかねない。
そんな心配するアスティコスに対して、アスプリクはニヤリと笑って応じた。
「大丈夫。山には“裏”の参道もあるのよ。普段は使ってないし、神殿関係者以外は使えないことになっているけどね」
「もう辞めちゃったじゃない」
「まあね。でも、勝手に辞めただけで、“正式”に辞職したわけじゃないからね、僕は」
そう、アスプリクは勝手に法衣を脱ぎ、許可を取らずに好き勝手やっているだけであった。
つまり、人事に関する案件を法王の差配や、最高幹部会を経ずに動かしたことになるため、権限が生きている可能性があった。
「よしんば、裏からの入山を拒否したり、あるいは勝手な振る舞いの
そう言って、アスプリクは視線をゼクトに向けた。
これでゼクトはアスプリクがここに来た理由を察した。寝床の確保もそうだが、公爵家の名前を使ってもいいかどうかを、家中の者に断りを入れに来た、というわけだ。
破天荒な行動に見えて、その実よく計算され、考えて動いている。主君が一目置くだけはあると、見た目に不似合いなほどの思慮ある行動に、ゼクトはいたく感心した。
「問題ございません。実際、アスプリク様は我が主君よりの依頼で王都に参られたのでございますし、公文書は発行されておりませんが、特使と言って差し障りないかと思います。それに、使者でのやり取りはございましたが、“上”の人間同士の接触はまだでございますので、アスプリク様が参られるのも向こうは歓迎することでしょう」
ヒーサがこちらに来ているし、正式な会談前にもうワンクッション入れておくのも悪くはない。それがゼクトの判断であった。
許可が出た、と言う事でアスプリクは満足そうに頷き、勢いよく席を立った。
「んじゃ、叔母上、行きましょう」
「そうね。でも、時間かかるわよ?」
「大丈夫大丈夫。【
「なら、行きましょうか」
こうして二人は公爵家の上屋敷を後にし、人々でごった返す街中や街道を無視して、空から聖なる山を目指して飛んでいった。
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