悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
9-11 急報! もたらされた意外過ぎる伝令!
9-11 急報! もたらされた意外過ぎる伝令!
積み上がった耳の山。そして、同胞のそれを数えさせられる亜人達。
死臭漂うその空間は、まさに地獄そのものであった。
無論、それは亜人の視点に立てばこそであるが。
そんな目を背けたくなる光景の中、ヒサコのところへ騎馬の集団が駆け込んできた。
「ヒサコ様、ただいま戻りました!」
威勢の良い掛け声とともにやって来たのだ、将軍のアルベールであった。
アルベールはアーソ出身の軍人であり、数年前の帝国側からの攻撃の際には父親が戦死を遂げており、今回の逆侵攻において最も燃えている人物の一人であった。
ヒサコが提案した“騎行戦術”にも熱心な賛成を示しており、自らも部隊を率いて各方面を荒らし回っていた。
「無事の帰還、何よりです、アルベール殿。して、首尾の方はいかがですか?」
後ろの荷馬車の列を見れば、聞くまでもない事であるが、自分の口ではっきりと戦果報告をして、それをきっちり記憶してくれている上司がいるのは、いつの時代もありがたいことだ。
アルベールもヒサコの問いかけに対して、胸を張って答えた。
「そこそこ大きめの街を見つけまして、千体ほど討ち取ってきました。まあ、ろくに防備もなされておりませんでしたので、すんなり片付きましたが、全員討ち取るつもりが、人手不足で一割ほど取り逃がす結果になりまして」
「構いません。むしろ、好都合です。今、将兵は“邪悪”な亜人を次々に討ち取り、士気は天に届かんほどに高まっています。その逃げた者共も、おそらくは安全を求めて宿営地に向かうでしょう。しびれを切らして突っ込んできてくれたらば、それはそれで重畳。攻城戦では少し心もとないですが、野戦となれば対処は可能です。銃列と
「仰る通りです!」
「アルベール、今後もその働きに期待していますよ。フフッ、皇帝の歯ぎしりする顔が思い浮かぶというものです」
良く働く者にはその労をねぎらい、称賛し、褒賞を与える。正当な働きには名誉と俸禄によって報いるのが上に立つ者の務めである。
それを理解すればこそ、ヒサコはアルベールをよく讃えた。若いながらもよく部隊を統率し、しっかりと手柄を立てている。
アーソで手に入れた人材では、妹のルルと同様、実に有用な拾い物であったと感じた。
「そろそろ物資の集積もいい頃合いですし、宿営地を小突いて、反応を見る頃合いかもしれませんね」
「おお、ではいよいよ本格的な決戦に!?」
アルベールとしては待ちに待った瞬間であった。
周辺の村々を襲い、亜人狩りを行うのも悪い気分ではなかったが、やはり騎士の誉れは戦場で剣を交えて勝ち取るものだとの想いが強い。
決戦となれば、まさに槍働きにて、武功を上げる好機であった。
アルベールは目を輝かせて、ヒサコの指示を待った。
「すでに前線には、コルネス将軍に出てもらっています。ここと敵宿営地の中間点辺りまで進出し、敵の出方を探っていますが、まだ動いたとの報告なし。いい加減、お駄賃稼ぎも飽き飽きですし、ここらで大きく稼ぎましょう」
「はい! すぐにでも出立準備を整えます!」
「ええ、よろしく頼むわ。サーム、
「ハッ! ただちに!」
サームとしても、騎行戦術によって村々を襲う作業より、戦場で暴れる事の方が良いと考え、ヒサコの指示に即座に従った。
両将軍は自分の指揮する部隊の方へ早足で向かい、あちこち指示を飛ばした。
その光景をニヤリと笑いながら、ヒサコは満足そうに頷いた。
(ああ、これは思った以上にいい感じで、事が進んでいるわね。皇帝も、カシンも不在。動きの鈍さがその証拠。どちらかが宿営地にやってくる前にできるだけ討ち取り、数の不利を埋めるとしましょう)
戦局が思っていた以上に順調に推移し、まずは序盤を制することはできそうだと、ヒサコは手ごたえを感じた。
「ヒサコ様! ヒサコ様ぁ~!」
ニヤついているヒサコに向かって、誰かが叫んできたので、慌てて真顔に戻した。
周囲を見回すと、伝令が一騎、慌てて駆け込んでくるのが視界に飛び込んできた。
不可解だったのは、前からではなく、後ろから、つまり、アーソの方角から駆け込んできたことだ。
前線の先にいる敵部隊が動いたのであれば、報告は前に出ているコルネスから届くはずだが、急使がやって来たのはアーソの方角からだ。
つまり、後方で早馬を飛ばすほどの何かが起こった、ということであり、気を引き締めねばならなかった。
「ここです! 何か急ぎの知らせですか!?」
ヒサコは手を振り、使い番に分かる様に手を振った。
それに気付いた使い番は馬で慌てて駆け寄り、飛び降りて跪いた。
「ハァハァ、か、火急の知らせがあり、馬を飛ばして参りました!」
「ご苦労。それでその知らせとは?」
ヒサコは答えを待ち、使い番も乱れた息を整え、それを発した。
「アイク殿下がお亡くなりになられました!」
「……はい?」
それはあまりにも予想外過ぎる報告であった。
こうして、ヒサコとアイクの夫婦であった期間は、およそ一月にも満たぬ時間で終わりを告げることとなった。
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