悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
8-43 生産せよ! 味噌は保存の利く兵糧です!
8-43 生産せよ! 味噌は保存の利く兵糧です!
故郷アーソに危機が迫っている。
報告を受けたルルは焦り、上座にいるヒーサに向けて頭を下げた。
「こ、公爵様! どうか、どうか増援を!」
「落ち着け、ルル。増援は当然送る。だが、ヒサコは“今のところ”は無用とも言ってきている」
「え!? 十万相手に、アーソの戦力だけで戦うと!?」
いくら何でも無茶が過ぎる、というのが集まっている面々の顔色から伺えた。
「自身の才覚に溺れているようですね。まあ、溺れるのは構いませんが、どうせ溺死するなら、周囲に迷惑をかけずにいてほしいものですね」
辛辣極まる台詞がティースから飛び出した。
あの憎いヒサコが醜悪な怪物達に蹂躙され、嬲られ、殺されると言うのであれば、ティースとしては歓迎すべきことであった。
わざわざナルやマークを派遣して直接手を下すより、手間も省けるうえに相応しい最後だと言わんばかりの態度だ。
「こらこら、ティース、妹をあまりいじめんでくれ。で、話を戻すが、ヒサコの提言通り、今のところと言う点が重要だ。ヒサコの作戦だと、現在の保有戦力を以て帝国領に逆侵攻をかけ、集結中の敵勢力に一当てし、即座に引き返す、とのことだ」
「ああ、“
この中ではヒーサを除けば、アスプリクが一番軍事に明るい。なにしろ、二年近く前線で過ごし、術士として、あるいは部隊長として戦ってきた経験があるのだ。
おまけに頭の回転が速く、話を聞くだけで、その意図をすんなりと理解してしまえた。
「そう、“
「了解した。んじゃ、僕が前線に行って、ヒサコの補佐をしてくれってことだね」
アスプリクとしては、戦場に赴くのは嫌であった。なにしろあんな場所にいい思い出はなく、苦しい思いばかりをしてきたからだ。
だが、今は状況が変わってきている。なにしろ、今回の指揮官はヒサコであり、アスプリクにとっては大切な“
また、アーソの戦線が抜かれるようなことが、その被害は王国全土に及ぶこととなる。復讐を果たす前に、他人に傷物にされるのは、アスプリクの思惑に反していた。
復讐は自分の手で果たす。自分か“共犯者”以外の手で傷物にされるなど、許容できないのであった。
「だ、ダメよ、アスプリク! そんな危ない事をしちゃあ!」
当然、アスプリクの出陣にアスティコスが反対してきた。彼女にとっては姪の安全こそ優先事項であり、戦争に赴くなどとても容認できることではなかったのだ。
「でもさあ、叔母上、アーソが抜かれたら、ここにまで帝国の連中が攻め込んでくるんだよ。構築されている防衛線で敵侵攻軍を抑えるのは、軍事上の常識だよ」
「でも、ヒサコの軍に加わるって事は、帝国領に攻め込むってことでしょ?」
「まあ、集結途中の敵部隊に仕掛けるってことだし、そうなるだろうね」
「だったら防衛じゃなくて、攻撃ってことになるじゃない! 危ないから止めてって!」
軍事的な視野を持つアスプリクと、アスプリクの安全しか見ていないアスティコス。二人のやり取りは、平行線を辿って、終わりが見えなかった。
だが、それに対してヒーサが横槍を入れた。
「ああ、心配するな、アスティコスよ。今回はアスプリクを前線で使う予定はない」
「え、本当ですか!?」
「無論だ。むしろ、シガラ公爵領でやって欲しい事があるのだ」
その提案にアスティコスは目を輝かせた。シガラでの仕事であれば、前線とは遥か遠い場所であり、姪の安全が確約されたようなものであるからだ。
「それで、どんなお仕事ですか?」
「“箸”を使った食事
「ほへぇ~?」
血生臭い戦場での話をしているかと思ったら、いきなりのマナー講座である。あまりに方向性が違い過ぎて、その場の誰もが混乱した。
事前に話を聞いていたテアですら、こいつ何言ってんだ、と言わんばかりの反応であった。
「あのさぁ、ヒーサ、何をどう捻ったら、そう言う話になるのですか?」
ティースも呆れ顔を向けていた。クソ真面目な戦略会議かと思っていたら、いきなりの路線変更。しかも、ティースにとっては因縁のある“箸”についての話ときた。
呆れ半分、不快半分といった視線をヒーサに向けた。
「まあ、“箸”は一部だよ。全般的には、エルフの食文化を取入れる事が主な目的だ。特に最重要なのは、“味噌”の生産! これを早急にやってほしい!」
「味噌、ですか。まあ、材料さえ揃えていただければ、どうにかなりますが」
アスティコスは料理の心得があり、エルフの里でも料理上手ともてはやされていた。
また、そうした調理のみならず、味噌などの調味料の作成も行っていたため、ヒーサの提案は実行可能でもあった。
「安心しろ。大豆の増産は進めている。んで、そうしたエルフの食文化を、まずは公爵家の屋敷で試行し、それから領内へと広めていく。最終的には王国全土に、エルフの食文化を普及させていくつもりだ」
「随分と壮大な計画ですが、戦の真っ最中にそんな余裕があるとでも?」
「戦だからだ。味噌は保存が利く。兵糧としては最適だ」
「ああ、なるほど。それもそうですね」
ヒーサの言葉を聞き、それはそうかとアスティコスも納得した。
これは“戦国武将”としての、当たり前の認識であった。ヒーサの中身である“松永久秀”は数多の戦場を駆け巡って来た者であり、戦場に持ち込む兵糧については、誰よりも精通していた。
その中でも、“味噌”は極めて重要な役割を果たしてきた。
干したり、焼いたりして保存性を高めたり、あるいは『芋がら縄』といった味噌の煮汁を染み込ませた物まであり、水さえあれば味噌汁を飲むことができた。
(できれば、“
兵糧は重要。されど、全般的な食文化の改善も必須。これに対するヒーサの導き出した結論が、“味噌”の普及であった。
箸を覚え、味噌が食卓に並ぶとき、この国の食生活は大いに変わる事だろう。ヒーサは胸躍らせ、その日が来るのを心待ちにしていた。
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