8-32 詰問! 嘘つきの夫を問い詰めろ!(2)

 怒りのあまり、何度も拳を打ち下ろすティース。その手からは血が滲み出るほどであった。


 ヒーサはそれを止めようと手を伸ばしたが、ヒーサに触られる事をティースは拒否し、慌てて手を引っ込めてしまった。



(あ、これ、完全にヒーサも疑っている。マズくない?)



 怒りもあるとはいえ、ヒーサとの関係が崩壊している証拠をテアは見てしまった。


 ただでさえ忙しいのに、目の前に特大の爆弾が現れたのは、悩ましい限りであったが、これは騒動の種を撒いたヒーサ自身の責任であり、自分で枯らしてももらわねばならなかった。



「でだ。疑惑が確信に変わったのは、挙式を終え、公爵領に戻って来てからだ」



「ああ、あの時ですか。一時的に別行動、とってましたわね」



 王都での挙式の後、ティースはヒーサと別れ、伯爵領に行っていた。あまりに急な挙式であったため、輿入れの準備ができておらず、最低限の荷物だけでも取りに戻るため、伯爵領に戻っていた。


 その後すぐに公爵領に向かい、それからヒーサとは行動を共にしていた。


 同時に、ヒサコの嫌がらせがその過激度を増していった時期でもある。



「私が公爵領に戻って最初にやったことは、診療所の薬品庫の確認だ。そしたら案の定、いくつかの薬品やら薬草やらが消えていた。そして、無くなった薬品の調合法を考えていくうちに、“発熱させる薬”が含まれていることに気付いた」



「なるほど。それが盛られた薬というわけですか」



「ああ。この点をヒサコに詰問したら、あっさり白状したよ。毒殺事件の“裏”も含めてな」



「そこでヒーサは事件の全容を把握したのですか!」



 本当に前の話であり、その時から半年は経過していることであった。


 ティースとしては怒り狂う内容であり、やはり目の前の男も同罪だと判断した。


 もう十分だと不快な男を消してしまおうと、ナルとマークに指示を出そうと、ヒーサに指を向けた。



「ならば、なぜこちらにその情報を出さなかったのですか!? これはティース様への重大な裏切り行為にあたります!」



 ティースの指示の前にナルの質問が飛んだ。主人の殺意を感じ取り、とにかく時間を稼がねばと、気を逸らしたのだ。



「決まっている。その時点で公表した場合、私もティースも破滅すると判断したからだ」



「じゃあ、ヒーサは伯爵家が泥を被ったままでもよかったと!?」



「双方が滅亡するより遥かにマシな選択だ!」



 いよいよヒーサも熱を帯びて来て、怒声と共に勢いよく立ち上がった。



「もしあの時、事件の裏事情を公表していたらどうなると思う? カウラのみならず、シガラも失墜していたのは確実だ! そして、有象無象が寄ってたかって領内を荒らしまわった事だろう。特に危ういのは同じ三大公爵のセティ公爵家だ。アーソの地でその野心を暴かれたとはいえ、あの段階であいつらと戦っていたら、まず勝ち目はない。公爵領に続き、伯爵領ももののついでに収奪されていたことだろう。ティース、お前はそれを許容できるのか!?」



「それはそうですけど、だからと言って、私にまで黙っていることはないでしょう!?」



「あの時のティースが、冷静に行動できたと確信をもって言えるのか!? 出来るわけがない! 今もこうして取り乱し、こちらを詰問しているのだからな!」



 ヒーサも怒り任せに拳を机に叩き付けたが、その音が逆に冷静さを取り戻す切っ掛けとなった。



「すまん。熱くなりすぎた」



 ヒーサはティースに詫びを入れると、そのままもう一度椅子に座り直した。


 そんな姿を見て、ティースもまた落ち着きを取り戻した。



(う~ん、今日も見事な演技ね~。事情を知っている分には、クソ野郎だってのは分かるけど)



 カウラの三人組からすれば、ヒーサの発言は今のところ半信半疑と言った風だ。信用できない男の発言ではあるが、掴んでいる情報と発言の内容が矛盾していないため、信じざるを得ない、と言った感じなのだろう。


 なお、テアの感覚で言えば、程よく嘘と真実を織り交ぜた、びっくりするくらいの完成度を誇る作り話カバーストーリーを聞かされている気分であった。


 これは長丁場になりそうだと感じつつ、女神は事態の推移を静かに見守ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る