悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
7-69 暗殺成功! だが、それは道筋の一つに過ぎない!
7-69 暗殺成功! だが、それは道筋の一つに過ぎない!
「命中、確認」
立て続けに矢を二回放ったヒサコは、
一応、事前に近くの木で試し撃ちをしてみて、命中精度を確かめていたが、よもや聖域から里まで届くとは驚きの一言であった。
「うわ、その顔、マジで命中させたみたいね。ここから里まで直線でも2kmくらいはあるのに」
成し遂げた、と言わんばかりの顔を見て、テアは確信を持って言い放った。そして、呆れ返った。
自作の武器で、自分自身を殺されるとは思っても見なかったであろう里長に対して、僅かばかりの同情を覚えたが、これから起こるであろうことに想いを馳せると、まだまだ序の口であると、更に気を重くした。
「いや〜、この弓、本気で凄まじいわね。視界を確保していたら、どこまでも遠くに当てられるって事じゃない。
「凶悪すぎるわよ! 使い魔放って目標を観測できたら、どこまでも飛んでいくなんて!」
「さすが、神に準じる
今一度、プロトスの傑作である『
「でもさ、プロトスを暗殺するのに、彼自身の作り出したこの弓を使ったわけだけど、これがなかったらどうするつもりだったの?」
「もちろん、逃げの一手よ。まず、アスティコスの茶の木の種を拾わせる。で、
「そのまま、ヒーサのところに私が【
スキル【
入れ替わった際には、本体の側に女神が移動する事になるため、強制的に【
そして、女神が手で抱えられる程度の荷物ならば一緒に移動できることは、ケイカ温泉村での一件で実証済みだ。
「でも、それだとアスティコスとの約束は反故にならない?」
「ならないわよ。だって、アスティコスとアスプリク、叔母と姪の仲立ちは約束したけどさ、“いつ”なんて言う時間指定はしてないわよ」
「うわ……。こいつ、茶の木の種以外、本当にどうでもいいんだ」
「現状、失って困るものは、“鍋”と“
結局のところ、プロトスを倒す手段があったから倒した。
なければ、さっさととんずらする。
どっちに転んでも、“自分だけは助かる”ように動いていただけなのだ。
その後、仲違えしたプロトスとアスティコスがズタボロになった里で派手に噛み合おうが、知った事ではないのであった。
「でもさ、報復で攻め込んできた場合はどうするのよ!?」
「森の中でエルフと戦うのは圧倒的に不利。でも、攻め込んできて、森から出てくるのであればやり様はある。孫子の兵法“
「つまり、自分の庭先で戦えば、今ほどの猛威を感じない、と」
アスティコスにも何度も言ったが、戦の際に重要な要素は“間合い”の読み合いである。
いかにして、自分の得意な間合いややり方を通せる状態を作り出すか、入念な準備があってこそだ。
「はい、正解♪ あとは、
「そして、二人の前にアスプリクと言う“
「お~。さすがは“
「理解したくなかった……」
どちらに転んでも、英雄(外道)の掌の上。実に抜け目のないことであった。
そして、そんな外道外法に染まって来た自分に、テアは自己嫌悪を覚え始めた。
本当になんでこんなクズをパートナーに選んでしまったのかと、少し前の自分を引っぱたいてやりたい気分になった。
「さて、
「これ以上、何をする気よ!?」
おそらく、里の防衛は
そして、それはこちらにも言える事でもあった。
プロトスが展開していた大結界【
「あ、そっか、プロトスが死んだから、結界が消えちゃうのか。て、マズイわよ!
テアは結界が消えたことにより、周囲に足止めされていた有象無象の連中が、ワラワラと湧いてくる気配を感じ取り、悲鳴にも等しい声を上げた。
その結界が失われたということは、聖域内になだれ込んでくる事を意味していた。
それを察したアスティコスは、種拾いを中断し、慌てて二人に駆け寄ってきた。
「ちょっと! 種はだいたい拾い集めたけど、これ、マズイわよ!」
アスティコスが持ってきた鍋を差し出すと、その中身はほぼいっぱいになるまで、茶の木の種で満たされていた。
「お〜、上等上等。これを持ち帰れば、いよいよ茶栽培を始められるわ」
「呑気な事を言ってる場合じゃないわよ!」
「ああ、大丈夫よ、大丈夫。とにかく、下手に動かず、そのまま直立不動! やり過ごすわよ」
逃げないし、迎え撃つ素振りも見せない。それどころか、ヒサコは鍋に蓋をして厳重に封をし始めており、実に呑気な態度であった。
常軌を逸したヒサコの行動に、アスティコスも訳が分からなくなった。
そして、里の方から何かの遠吠えが森中に響き渡り、三人の耳にもそれが伝わってきた。
率直な感想を述べるのであれば、それはかなりイヤな音源であり、アスティコスは嫌悪感とも不快感とも取れるそれに眉をひそめた。
何度かそれが繰り返された後、いよいよ結界の消失とともに道が開かれたため、聖域内に醜悪な妖魔の群れが乱入してきた。
「ぐっ、流石にこの数は!」
つかみだけで、ゆうに数千を超す妖魔の群れだ。いくらなんでも、相手にするには分が悪すぎた。
「いいから、動かないで。こっちから仕掛けたりしない限り、あちらはこちらに“興味”が湧かないから」
ヒサコはアスティコスの肩を掴み、その身動きを制した。
流石にすぐ側を駆けていく妖魔の群れに、アスティコスは焦りを覚えたが、どういうわけかヒサコの言う通り、まるで興味がないと言わんばかりに三人を無視して走り抜けていった。
その先には、エルフの里があり、先程の遠吠えの聞こえた方角であった。
「え、嘘、なんで!?」
アスティコスは妖魔の群れが、駆け抜けて行ったことに度肝を抜かれた。
知能の低い妖魔達は、臆病ではあるものの、数に任せて本能のままに襲いかかって来るものであった。
しかるに、今はこちらが三人であるのに対して、群れは軽く数千匹は超えていた。普段の習性を考えるのであれば、襲いかかってきてもおかしくはなかった。
にも関わらず、ヒサコの言う通り、“興味”なく素通りした。
より引き付けられる何かがある。そう言わんばかりに、妖魔の群れは三人の前を駆け抜けていった。
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