7-3 異文化交流! ドワーフの都市を訪問せよ!(3)

 ドワーフの工房都市パドミアは活気に溢れていた。人口数こそカンバー王国の王都ウージェに及ばないが、工房都市ならではの活気があり、あちこちから金属を打ち鳴らす金槌の音が響いていた。



「わぁお、これは想定以上の賑やかさだわ」



 大通りを進む馬車の幌から顔を出し、通りを行き交う人々から、立ち並ぶ工房、商店を見つめていた。


 視界に収まる人々の多くはドワーフ族だが、他にも森妖精エルフ草原妖精グラスランナー、人間や獣人の姿も確認できた。


 時間があれば、じっくり眺めていきたいという衝動にかられつつも、馬車は無慈悲にも進んでいった。



「堺の町並みを思い出す光景ね。自由都市ってことだし、工房も並んでるし。日ノ本人だけじゃなくて、南蛮人や明人も堺で商いやったわね」



「堺って、そんなに栄えてたんだ」



「まあね。古くからの鋳物の産地に加え、瀬戸内の海に面した立地、豪商達の自治によって運営されていた。そして、それを活かして、日ノ本における鉄砲の一大産地にもなった」



「ここも似たようなものかしらね。多種多様な種族が行き交い、活気よく商売に精を出す」



「そうそう、こういう街がいいわね。シガラの街はお上品過ぎる」



 自身の領地を謙遜して引き合いに出しつつ、やはり目が行くのが工房であり、鍛冶場であった。


 工房都市として栄えてきたため、そうした多種多様な道具作りの技術は目を見張るものがあった。



「各種武器防具から、馬具、鍋や庖丁みたいな日用品まで。どれも質が高いわね。なるほど、アイク殿下がデルフを招き寄せたのも、やはりドワーフの技術力の高さに着目したからか」



「ドワーフは基本、頑固者が多いからね。妥協を知らないのよ。だからこそ、職人に向いているとも言えなくもないわ」



「妥協を知らない職人だからこそ、質の高さを確保できる、か。納得だわ」



 心地よいくらいの金槌の音を聞きながら大通りを二人は馬車で進んだ。


 町の中心である巨大の十字路をさらに超え、門番から聞いた第十二地区へ到着した。各地区はそれぞれに色分けされた旗が掲げられ、その周辺がその地区ということになる。


 第十二地区は赤色の旗が掲げられており、この工房都市の中でも特に鋳物を扱い職人や商人が集まっている地区であった。



「すいませ~ん。ちょっといいですか?」



 ヒサコは通りの巡察していると思しきドワーフの兵士に話しかけた。



「なんだい嬢ちゃん」



「ここの十二地区にルーデンって名前の人がやっている工房があるって聞いたんですけど。デルフって方の紹介で」



「お~、デルフのクソガキか。生きてやがったか!」



「クソガキ……?」



 ヒサコの記憶の中には、立派な髭をたくわえたおっさんの姿しか思い浮かばなかった。



「クソガキってどういうこと?」



「あ~、人間種はいつもそんな顔するな~。ドワーフと人間じゃ寿命が違うからな。だから、見た目に比して若いんだよ、ドワーフは。お前さんの知っているデルフだって、たったの四十歳くらいだからな。人間の感覚だったら十四、五歳くらいだぞ」



「うわ、あの姿で元服したてくらいの年齢だったの……」



 意外な事実に、ヒサコもさすがに驚いた。人間の四十歳ならばもうおっさんの領域に余裕で突入しているが、ドワーフにとっては若造呼ばわりなのであった。



(でも、すでに熟練の雰囲気を持ってたし、若くして旅に出て、腕を磨いたのかしらね)



 そう考えると、やはり職人としてのドワーフの力量が相当なものだと窺えるというものだ。



「おっと、話が逸れたな。ルーデンの工房はこのまま真っ直ぐ行って、三つ目の通りを曲がってすぐだ」



「そうですか。ありがとうございます」



 ヒサコは軽く会釈をして、テアが再び馬に鞭を入れて進んでいった。


 そして、言われた通り三つ目の通りを曲がり、少し進むと『ルーデン工房』の看板が下がっている場所を見つけた。

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