悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
6ー45 正気の沙汰か!? 悪役“聖女”ヒサコ爆誕!? (前編)
6ー45 正気の沙汰か!? 悪役“聖女”ヒサコ爆誕!? (前編)
「ヒサコとアスプリクに“聖人”の称号を付与する!」
あまりに突飛なヒーサの提案に皆が驚いた。
長い説明を要するため、一同は礼拝室を離れ、会議室にて話の続きをすることになった。
そして、その会議室においては、まず宰相たるジェイクが上座に座し、その右手にヒーサ、ヒサコが座って、その後ろにテアが立った。
机を挟んで、アスプリク、カインの順で座し、それらすべての視線がヒーサに注がれた。
「では、ヒーサ、先程の話の続きを頼む」
「はい、では、先程申しました“聖人”の件についてご説明いたします」
ヒーサは席を立ちあがり軽く一礼すると、アスプリクに視線を送った。
「では、大神官様」
「ヒーサ、アスプリクでいいよ。どうせ見知った顔しかいないんだしさ」
「そうですか、ではアスプリク」
さすがに今のやり取りには、ジェイクも一瞬だが嫉妬を覚えた。
ジェイクが妹を名前で呼ぶと不機嫌になって大神官と呼べと要求するのに対し、ヒーサに対してはその真逆を許可したのだ。
いかに自分とアスプリク、ヒーサの関係の強さに差があるのか、しっかりと見せつけられたのだ。
半分とは言え、血の繋がりのある兄よりも、出会って半年も経っていない男の方が信用における。そう、アスプリクに言われた気がした。
とはいえ、みっともない姿はさらすつもりはないので、悠然と座したまま話に聞き入った。
「アスプリク、“聖人”の認定については、もちろんよく知ってるよな?」
「そりゃね。教団において重要なのは、“敬神”と“献身”。いかに神を敬えるか、そして、それをいかに体現できるか、それが評価基準になっている。もっとも、幹部連中の恣意的な運用、解釈、政治力でブレ幅が大きいけどね」
「そう、それを為した者が“聖人”の称号を受ける。箔付けとしては、これ以上にないものだ」
それはヒーサの説明を受けるまでもなく、皆が知ることであった。当然、それを叙勲されるのには、かなり高い条件をクリアしなくてはならない。
「で、それを僕とヒサコに授与させるって事なんだけどさ。はっきり言って、無理だと思うよ? “聖人”の称号授与は最高幹部会で決せられるけど、その際に、法王と枢機卿の計六名の内、五名分の賛成票と、そのほかの十五名の幹部の三分の二の賛成票が入って可決するんだ。まあ、各派閥の牽制やらなんやらで、提起はできても認定されるのはごく稀。十年に一回叙勲されるかどうかってくらいだよ」
「だな。過去の実績を見てみたら、余程幅広く支持を集めない事には難しいな」
「だからこそ、無理なんだよ。僕もヒサコも“庶子”だからね」
庶子は正式な婚儀を経た夫婦ではない男女間で生まれた子供のことを指す。愛妾や娼婦などに見受けれるが、これは教団側からすれば明確な違法行為なのである。
理由は“術士の管理運営”に関わってくるからだ。正式な婚儀を経たならば、その記録が教団側に残るし、子が生まれればすぐに判別できる。
そして、初宮詣において術士の適性が調べられるのだ。
つまり、庶子がゴロゴロ誕生するような状況では、“隠し子”が横行してしまい、“術士の管理運営”に支障が出かねないため、婚外出産は厳しく戒められているのだ。
そのため、庶子の扱いが自然と厳しくなり、この国においては“神の祝福を受けざる者”として、迫害や蔑視の対象となる。
「むしろ、逆なのだ。庶子だからこそ、叙勲してもらわなくてはならない」
「…………! そうか! 庶子の社会的地位の向上と、それに伴う“術士の管理運営”への干渉、それが目的か!」
即座にヒーサの真意を察したジェイクが叫んだ。よもやこんな裏道があったのかと感心した。
「閣下の仰られる通りです。二人が叙勲したとなると、それは教団側が庶子という存在を認めたことに他ならず、その地位向上が見込めます。婚外子であろうとも、実子と同等の待遇を受けやすくなり、ヒサコやアスプリクが味わった“爪弾き”が抑えられるということです」
「確かに、庶子として日陰に追いやられていた子供が、大手を振って歩けるってわけか! なるほどなるほど、さすがヒーサ! 目の付け所が違う!」
アスプリクとしては、望ましい事であった。自分を縛るいくつかの枷の中で、庶子として後ろ指を指された過去が何度もあった。
その一つが実質無力化させるとヒーサは言ったのだ。
素直に喜び、拍手で賛意を示した。
同時にヒーサの見識の深さに、さらなる感銘を受けるのであった。
それはジェイクも同様で得あり、“聖人認定”という奇手が事態の好転を呼び込む一手となり得る事を認識した。
是が非でも成さねばならない。政治的にも、私的な事情においても。そうジェイクは決意を固めていった。
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