悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
6-41 考察! 戦のあとの論功行賞こそ、梟雄の主戦場なり!(前編)
6-41 考察! 戦のあとの論功行賞こそ、梟雄の主戦場なり!(前編)
ヒーサ、ヒサコ、アスプリクの三名は称賛され、歓迎された。
ケイカ村から続く一連の騒動の“裏側”を暴き、その元凶たる黒衣の司祭リーベを討ち取ったからに他ならない。
宰相たるジェイクからもその点はしっかりと褒め讃えられた。
「よもやまさかの事態であったが、ヒーサとヒサコの活躍は見事であり、その功績や大である。その労にはいずれ厚く報いよう」
はっきりと言ってしまえば、このシガラ公爵家の兄妹がいなければ、事態はもっと深刻になっていたであろうし、その解決に尽力してくれたことは、ジェイクにとっていくら感謝しても足りないほどであった。
一番遠くから遠征してきたというのに、類稀なる指揮で城に一番先に到着し、潜んでいた裏切り者のリーベを暴き出し、これを討ちとった。
ジェイクとしてはほぼ望むべき結果であり、ヤノシュを失ったことを除けば、理想的な展開と言えた。
(リーベの裏切りは意外であったが、逆に怪我の功名だ。これで教団からも、セティ公爵家からも、何も文句を言わせない条件が整った。改革を進めるのに、これ以上の有利な条件はない)
これがジェイクの偽らざる本音であった。
現役の司祭がよりにもよって異端宗派『
問題は“どこ”が責任を取るのか、だ。
現役の司祭という点を考えれば、当然ながら任命責任という観点から、教団側が責任を取らされるであろうが、あの腐った連中がすんなり受け入れるとは、ジェイクは考えていなかった。
恐らくは、リーベの出身であるセティ公爵家に責任を押し付けて、自らの罪を薄めてくるだろうことは、容易に想像できた。
無論、セティ公爵家が黙って受け入れるなどということはまずないと、これも予想の範疇だ。
つまり、両者の間に責任の擦り付けという、越えがたい壁が出来上がった事を意味する。
しかも、“都合が良い”ことに、セティ公爵軍が
“武”の公爵と呼び声高いセティ公爵家が、その拠り所となる武力を大きく減衰させたことを意味する。今後の交渉において、これは大いに影響を与える一事であった。
(セティ公爵家と教団、さらには教団に強い影響力のあるビージェ公爵家との仲も怪しくなる。つまり、相対的にこちらの立場を強化する。公平さを装いつつ、こちらの通したい案件を押し付けるのには、これ以上にない状態だ)
アーソ辺境伯領の反乱と聞いた時にはどうなる事かと思ったジェイクであったが、却って国内の諸勢力が牽制し合う結果となり、これを上手く制御すれば事態を好転させることができるのだ。
そして、その最大の協力者にして、懸案事項が目の前にいるヒーサであった。
今回の一件でのヒーサの功績はとてつもなく大きい。表に裏に問題解決に際して動きを見せ、それを見事に実らせてきた。
彼無くしてここまでの早期解決は不可能だとジェイクは認識していた。
であるからこそ、ヒーサの存在が頼もしくもあり、厄介でもあったのだ。
(処遇……。そう、ヒーサをどう扱うかが問題なのだ。功績があまりに大きすぎる。労に報いる褒美が少なすぎては不満を抱かれ、これまでの協力関係をふいにしかねない。逆に多すぎても、シガラ公爵家の力が大きくなりすぎる。セティとビージェが手を結んだと思ったら、一転して仲違えの状態に陥ることとなった今、ここでシガラの勢力拡大となると、三大諸侯の均衡が崩れ、シガラ一強になりかねない。それは避けねばならない)
ヒーサの扱い一つで、有利な状況が一転して崩壊する危険性すらあるのだ。
難しい舵取りを迫られるジェイクであったが、さらに悩ましいのは妹アスプリクについてだ。
今、ジェイクの目の前では、ヒーサ、ヒサコ、アスプリクが談笑に興じている。常にぶっきら棒であった妹が、自分には決して向けることのない笑顔を、あの二人にだけは向けていた。
ジェイクはアスプリクに対して大きな負債があった。アスプリクが教団本部『
王家と教団の対立を避けたかったという理由があったが、その点をアスプリクに勘付かれ、そして、仲が破綻した。
両者の間には越えがたい壁があり、しかもアスプリクはどんどん煉瓦を積み増ししていくという有様であった。
ジェイクとしてはこの状態をどうにかしたいと考えているが、アスプリクは兄の気持ちを知りながらも、完全に無視していた。かつての自分がそうされたように、その気分をお前も味わえと言わんばかりの態度だ。
しかし一方で、ヒーサ・ヒサコ兄妹との関係は良好であった。現に今までなら誰にも見せることのなかった笑顔を、この二人には向けていた。
ジェイクにとっては羨ましくも妬ましい光景であり、妹との関係修復を考えると、この二人の協力が必要不可欠なのだ。
(結局のところ、公的にも私的にも、この二人に頼らざるを得んということか)
危うい事だと思いつつも、ジェイクとしては他に選択肢はなかった。
此の二人を重く用いなくては破綻する。それが現状を考察した上での、王国宰相の結論であった。
数多の戦場や評定を渡り歩いてきたジェイクではあったが、今回ほど論功行賞に頭を悩ませる事もなく、どうしたものかと頭を抱える事となった。
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