悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
6-28 開幕! 主演・松永久秀のヒーローショー!(3)
6-28 開幕! 主演・松永久秀のヒーローショー!(3)
アーソ辺境伯カインは城壁の上から、離れたところに陣取るシガラ公爵軍の陣地を眺めていた。
現在、あの陣地には息子のヤノシュが赴いており、今後の手筈の最終確認を行っていた。
事前の計画は現段階では順調に進捗しており、あとは、上手くセティ公爵軍を誘い込んで、これを包囲殲滅するだけであった。
無論、油断はできないとカインは考えていた。
セティ公爵軍は度重なる奇襲や伏撃によって数を減らし、士気も落ちてきているとはいえ、王国随一の精強さを誇る部隊であった。
自分の手元にいる城兵、付近に潜んでいる伏兵、目の前にいるシガラ公爵軍、この三部隊の合計数よりも、セティ公爵軍は数の上で勝っていた。
上手く包囲下に置かねば、逆に反撃を受けてやられてしまう可能性も十分にあり得た。
だからこその、綿密な事前の打ち合わせをヒーサが求めてきたのだ。
(裏で繋がっているヒーサ殿と謀り、セティ公爵軍を殲滅する。その勢いのまま、宰相閣下に強引な直訴を行い、どうにか解決策を見出す)
これが作戦の概要だ。
なにしろ、宰相ジェイクの妻クレミアはカインの娘であり、謀らずも義理の親子で刃を交えることになっていたのだ。
お互いに戦いたくない相手であり、それでも戦わなければならない理由はたった一つだけだ。
カインが隠匿していた術士の存在がバレてしまい、その情報が教団側に流れてしまったせいであった。
教団は“術士の管理運営”を独占的に任されており、教団の関知しない術士は異端者として捕縛され、よくて再教育、悪くすれば処刑されるのが常であった。
しかし、カインはこの禁を破っていた。
二年前、ジルゴ帝国より
武門の家の者として、戦場で散るのは誉れであるが、それを理解しない教団の幹部は戦に巻き込まれたことに憤激し、命がけで自身を守ってくれたイルドを足蹴にして罵倒するという屈辱的な行いをしてきた。
あれ以来、カインは元より、アーソ領内の兵士も領民も、教団の連中に一泡吹かせてやると息巻いていたのだ。
もちろん、単独で教団に対抗するなど不可能であるため、事情を察して接触してきた異端宗派『
少しずつだがその数を増やし、教団に対抗するための術士の部隊の編成まであと少し、というところにまでこぎつけていた。
(だというのに、忌々しい奴らめ!)
その隠れ里の存在がバレると、教団側は即座に討伐を決定し、万を超す軍勢を以てアーソの地に侵攻してきたのだ。
やむなく挙兵はしたのだが、勝機は十分にあった。
なにしろ、ヒーサとは先頃までこの地に逗留していたヒサコを介してすでに繋がっており、アスプリクとは元々関係があった。
そして、ジェイクは義理の息子である。
これらの人脈を駆使して、好戦的なセティ公爵ブルザーを抑え込めばどうにか急場は凌げるのだ。
あとは、教団からの圧をいかにかわすかだが、これについてはすでに計画があった。
教団の最大の特権である“術士の管理運用”、これを廃止する動きに持っていくというものだ。
ヒーサもジェイクもこれには賛意を示しており、少しずつだが事態を良い方向へ持っていくつもりでいた。その専権事項さえなくなれば、アーソが王国側と敵対する理由もないからだ。
苦しい状況ではあるが、かと言って必要以上に悲観する必要もない。カインはそう思っているからこそ、自慢の息子を協力者との会合の席に送り出したのだ。
(あそこには今、リーベがいる。上手く出し抜く手筈にしてくれているようだが)
そこだけがカインは不安であった。
リーベの事は心底軽蔑していたが、現役の司祭であり、ブルザーの実弟でもあるため、あまり派手な行動はできなかった。
少なくとも、ブルザーを痛撃して、相対的な発言力を低下させるまでは、どうにかして大人しくしてもらう必要があった。
そんなことを考えながら、遠くにあるシガラ公爵の陣地を眺めていると、突如として陣地が騒がしくなった。小さくはあったが本営の天幕は見えており、それが豪快に吹き飛んだのだ。
「な、なんだ!? 何が起こった!?」
当然、遠くてはっきりとは確認できず、周囲にいた兵士も首を傾げるだけであった。
その兵士の内の一人が、監視用に備えていた望遠鏡を持ち出して来て、それをカインに渡した。
カインはそれを用いて吹き飛んだ天幕周辺を覗き込もうとしたが、その前に炎が上がったのが視認できた。昼間とは言え、赤い炎は良く目立ち、周囲の天幕にも燃え移っていた。
「敵襲か!? だが、“敵”は我々だぞ!」
表面的には、シガラとアーソは敵対関係にある。伏兵部隊が誤って攻撃したわけでもなさそうであるし、あるいは罠の存在に気付いたブルザーが先制攻撃をしてきた様子もなかった。
それでもいきなりの爆発である。
あるとすれば、備蓄していた玉薬に火が着いて爆発したというのが考えられたが、その割には炎の動きに指向性が感じられ、誰かの術が発動しているように思えた。
そして今、あの陣地にいる火の術士と言えば、一人しかいなかった。
「アスプリク様、何があったと言うのか!?」
カインはもう一度望遠鏡を構え、炎を燃え盛る辺りを見つめた。
そして、黒い大きな塊が暴れ回っているのが視認できた。
「まさか……、
カインの悲鳴に近い声に、周囲の兵士も警戒度を一気に高めた。
なにしろ、討伐軍が来る前には、
結局、討伐軍の到着と前後してパタリと姿が見えなくなっており、その後は討伐軍の対処に負われたため、引き揚げたものだと勘違いし、完全に頭の中から抜け落ちていた。
ヒサコの予想では、アーソと王国側が派手に噛み合わせて疲弊を狙うのが目的であり、討伐軍が来た以上は引き揚げたのだろうと予想した。カインもその意見には賛成であり、ひとまずは討伐軍の方に対処を集中するべきだと考えた。
だが、あの黒い犬、もしくはその飼い主は思いの外、狡猾であったようで、より泥沼に引きずり込むために、セティ公爵軍への包囲攻撃前のこの重要な時期を狙って、再び奇襲を企てたのだ。
「くそ! これではシガラ公爵軍に被害が出て、包囲攻撃どころではなくなるぞ!」
ジェイクが到着する前にブルザーをボコボコにし、うるさく口を挟む輩を消した上でジェイクと話し合うと言う計画が、これで台無しになってしまう危険が出てきた。
カインは“黒犬の飼い主”が想像以上に狡猾であった事を、身をもって思い知らされた。
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