6ー27 開幕! 主演・松永久秀のヒーローショー!(2)

 先手をと取ったのはリーベであった。


 黒犬つくもんが大口を開けて【黒の衝撃ダークフォース】を放って来た。


 しかし、アスプリクは冷静であった。飛んできた黒い砲弾を、自身の手の内にあった赤き炎の砲弾を放ち、これを相殺した。


 黒と赤の魔力がぶつかり合い、周囲に飛び散ったが、それをくぐるかのようにヒーサがリーベに斬り込み、その燃え盛る炎を刃で斬り付けた。


 だが、黒犬つくもんは素早く後方跳躍バックステップでこの斬撃をかわし、鼻先にすら当たらずに赤い軌跡を残して空を斬った。



「炎を紡ぐ赤き壁よ、邪悪なる者を通すな!」



 アスプリクが指で前方をなぞると、リーベを半包囲する形で炎が噴き出し、壁を形成した。



「逃げ道は塞いだ! 倒れろ!」



 アスプリクは素早く握り拳を作り、縄を引っ張るかのように腕を自分の方へと引き寄せた。すると、炎の壁が倒れ始め、まるで炎の波となってリーベと黒犬つくもんに覆いかぶさって来た。


 だが、前方も塞がれた。逃げようと素振りをみせたところ、ヒーサが素早く真正面から切り込み、前方への脱出を防いだ。



「甘いわぁ!」



 リーベの絶叫と同時に黒犬つくもんは真上へと跳躍、押し包もうとしてきた炎をかわした。



「それを待っていた! 魔力マナよ、収束せよ!」



 アスプリクは両手を広げたかと思うと、それを勢いよく自分の前でパンと叩いた。


 すると、リーベが上空に逃げたこともあって、ヒーサに向かってきた炎の波が収束していき、ヒーサの持つ剣へと吸い込まれていった。


 それどころか、先程の飛び散った魔力をも収束し、【黒の衝撃ダークフォース】の魔力すらヒーサの剣に吸わせた。



「闇の力も吸収させただと!?」



 ちなみに、驚いたのは実際のところ、ヒーサの方であって、演技をさせているリーベの方でうっかり喋ってしまったのだ。



(異なる系統の術式を合成するのは、相当な腕前がいると聞いていたが、アスプリク、お前はそれを自力でできてしまうのか!)



 アスプリクが本気で戦っているのを見たのは、ヒーサにとって初めてであった。色々と情報を収集し、国内屈指の術士だとの評を得ていたが、やはり実際に見てみると違った感想を抱くものであった。


 ただ、それなりに体には負担がかかったようで、息が荒く、呼吸は乱れていた。



(そう、こいつも魔王候補だったよな。弱々しい姿を何度も目撃してきたからうっかり情に流されかけたかもしれんが、やはり油断はできんな)



 だが、そんなことを考えつつも、ヒーサは攻撃の手を緩めなかった。


 元々燃え盛っていた剣に、闇の魔力も絡みつき、赤と黒の炎が剣に絡みついた。



「滅びよ、黒衣の司祭! 地獄の炎に抱かれながら、反省しろ! 【獄炎葬撃ヘルズ・クリメイション】!」



 上空にいるリーベに向かって剣を突き出すと、赤と黒の炎が渦を巻きながら飛び出した。


 飛び上がった二色の炎は勢いよくリーベに向かって飛んでいったが、ここで黒犬つくもんは思い切った手に出た。口から放つ【黒の衝撃ダークフォース】を放つと同時に至近で破裂させたのだ。


 至近で爆発したため、衝撃をモロにくらったが、その勢いで自身の体を吹き飛ばし、湧き上がる二色の炎をかわしたのだ。


 直撃したと思ったものの、見事な対応でかわされ、そして、少し距離を空けた場所にリーベと黒犬つくもんは着地した。



「ふぅ~、今のは危なかったですな。いやはや、さすが国一番の術士だ。冷や汗をかきましたぞ」



 リーベも汗をかいているが、口調は余裕そのものだ。なにしろ、リーベの喋る台詞はヒーサが全部こなしており、いかにも余裕ですと言う雰囲気を崩さないようにしているのだ。



「ハンッ! こっちは遊びやコネで、大神官の地位についてはいないんだよ! 僕は実力を以て、この地位にあるんだ! お前のように、魔王に縋るしかない愚物なんかと一緒にしないで欲しいね!」



「言いますねぇ~。しかし、あなたが強いのは分かっていましたし、思ったよりも早く正体がバレてしまいましたので、少し趣向を変えますか!」



 言い終わると同時に、リーベは黒犬つくもんを走らせ、二人を無視して、城の方に駆けだした。



「あ、逃げるな! 待て!」



 アスプリクは慌てて【火炎球ファイアーボール】を生み出し、勢いよく逃げ出し、背中を晒したリーベに向かって投げつけたが、黒犬つくもんの足は速く、まんまと逃げられてしまった。



「くそっ! あいつ、先にカイン殿を殺すつもりだ!」



 ヒーサは急いで近くに待機させていた馬に跨り、逃げるリーベを追った。


 アスプリクも同様に、自身の愛馬に飛び乗り、追跡に走った。


 ここで兵士達も我に返った。思わず凄まじい戦いぶりに見とれていたが、よくよく考えてみれば、自軍の総指揮官と教団の最高幹部が、化け物相手に戦っていたのである。しかも、引いた相手をそのまま追撃するなど、危険極まりなく、すぐに共回りのために追いかけようとした。


 だが、それは止められた。



「お前達は怪我人の手当てをしつつ、陣容を整えよ! いつでも動けるように待機しておけ!」



 ヒーサは馬で駆けながら、後ろを振り向きつつ命じた。


 これで次に明確な指示がない以上、自分の部隊は動くことはなく、その安全が確定した。



(よし、十名以下の損害で、しかも死者はなし。上出来だ)



 上手くいったと、ヒーサは自分の立ち回りを自賛した。


 実際、今回の戦闘はかなり高難易度のものであった。


 自分を動かしながら、同時にリーベを喋らせつつ、アスプリクの動きにも注意を払っておかねばならなかった。


 実のところ、黒犬つくもんとアスプリクには、好きに動けと指示しており、どう行動するかは事前に知らなかったのだ。


 自分を動かしつつ、リーベの操作も同時に行っているため、さらに黒犬つくもんの指示まで飛ばしていると、明らかに思考の容量不足であった。


 つまり、先程の動きは事前の指示や台本などではなく、黒犬つくもんが自分で勝手に考え、アスプリクと戦う上での最適解をひねり出していた。


 一方のアスプリクも本気で戦っていた。実際の戦闘であれば、リーベに集中攻撃すれば片が付くのだが、リーベにはこの後の広告塔の役目が残っているのでそれはできない。そのため、狙いを黒犬つくもんに絞って戦ったのだ。


 結果はヒーサと言う相棒がいたため、終始アスプリクが押し気味であったが、やはり王侯級悪霊黒犬ロード・ブラックドッグは一筋縄ではいかないな、というのがアスプリクの感想であった。



(とはいえ、アスプリクの本気の実戦を見れたのは良かった。今後の参考にさせてもらうぞ)



 ヒーサは今回の相棒を横目に見ながら、先を行くリーベの背を追いかけた。


 かくして、ヒーローショーの第一幕は終わった。


 だが、息つく間もなく、第二幕へと、舞台は移っていくのであった。

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