6-3 選択! どの道で進軍するか!?

「皆、揃ったな。では、会議を始めるとしよう」


 宰相ジェイクの発言より、会議が始まった。


 総勢で一万に達する大部隊でアーソ辺境伯領との境界まで進軍し、今後の具体的な行動に際しての取り決めがなされようとしていた。


 総大将たる宰相ジェイクが上座に座し、その横に参謀役のブラハムが立っていた。そして、長机を挟んで、右側にシガラ公爵ヒーサ、火の大神官アスプリクが座し、左側にはセティ公爵ブルザー、第三王子のサーディクがいた。


 また、各々の従者あるいは参謀等も天幕の隅に控えており、その中に公爵令嬢ヒサコや従者としてテアが帯同し、リーベ司祭も含まれていた。


 純軍事的な話が主題であるため、軍人や貴族以外には出番はないのだが、ヒサコは辺境伯領内の情報を持ち、またリーベは教団側の意見集約のために出席を認められたのだ。



「ブラハム、説明を頼む」



「ハッ! では、こちらの地図をご覧ください」



 ブラハムは机の上に持っていたアーソ辺境伯領の地図を広げた。自身の記憶を頼りに、かなりの略図であるが絵師に頼んで作成してもらったものだ。


 簡易な地図ではあったが、目標の城から各地にある村落や砦、道から山林が描かれており、口頭のみの説明より遥かに分かりやすかった。


 ブラハムは本来、教団所属の武官ではあるが、現在は一兵も仕切るする者がおらず、手持ち無沙汰になっていた。そこでジェイクが一時的にその身柄を引き受け、全軍の行軍参謀に指名していた。



「では、皆様にご説明いたします。現在、我々が野営している地点がここ。で、目標の城はここ。そのため、道順としてはこの大道を真っ直ぐ進むか、この湖寄りの道を進むか、山林のある道を進むか、いずれかになります」



 ブラハムの説明を聞き、使うべき道を把握した列席者であったが、疑問点もあった。



「ヒサコ、お前が把握しているあちらの防衛陣地はどうなっているか?」



 ヒーサがその他大勢に紛れていた妹に問いかけると、ヒサコはお辞儀をして前に進み出て、兄のすぐ横に立った。



「失礼いたします。私が辺境伯領を出る際に把握している状況ですと、ここの砦を補強しておりました。あと、道に障害物を置いたり、あるいは櫓を構築したりするなどしていました」



 ヒサコは記憶にある限りの防衛施設の場所を示し、皆に説明した。



「ほぼ、中央の大道に集中しているわけか」



「まあ、当然じゃないかな。中央の大道は道幅も広くて使いやすいし、起伏差も緩やかだ。軍隊が城を目指すなら、ここを使うだろうね」



 アスプリクもヒサコの説明を聞いて、周囲の状況から自分も中央ルートを選ぶと述べた。わずか十三歳ながらすでに二年も戦場での経験が蓄積されており、行軍についての基礎知識が頭に叩き込まれていた。



「しかし、それだけに中央の大道を塞いだのだろう。この防御施設の数だ。強引に突破を謀ったら、結構な損害が出る。迂回して、湖側か、山林側を使うのがよいのでは?」



 サーディクが防御の固さを指摘し、迂回を提案した。道幅は中央の大道に比べて劣るが、寄るべき砦などの防御施設も少なく、そういう意味においては通りやすいと言えた。



「問題は伏兵の存在でしょうな。ここは敵に地の利が働く場所。森林や丘陵、隠れられる場所はいくらでもあります。慎重に進まねばな」



 ブルザーは地図を睨み付け、いくつか気になる地点を順々に指さした。軍歴が三十年を超える熟達の指揮官であり、頭の中に油断という文字はなかった。



「それで、ブルザー殿、先日の会議の席での決定通りですと、私と貴殿が別の道を使って進軍することとなりますが、どちらの道を使われますか?」



 尋ねたのはヒーサであった。


 ジェイクの直轄部隊をこの場に留め置き、シガラ公爵軍とセティ公爵軍が別々の道を使って進軍し、城に迫ると言うのが以前の会議で決定されていた。


 四人の王族をそれぞれに配し、王族全員が一網打尽になるのを防ぎつつ、城に攻めると言う作戦であった。


 第一王子のアイクはケイカ村での留守番、第二王子のジェイクは本営待機、第三王子のサーディクはブルザーと行動を共にし、末妹のアスプリクがヒーサに同行する、というのがすでに決定されていた。



「まあ、現状では、選択の余地なく、湖側の道を選ばざるを得んな」



 ブルザーは三つの道の内、湖側の道を指さした。



「妥当ですな。中央の道は強行突破をするのには手間がかかりましょうし、山林側の道は起伏があるので、大砲を抱えたセティ公爵軍では行軍速度が遅くなりすぎる。そうなると、回り道になっても起伏の少ない湖側を通るべきですな」



「こちらがこの道を選ぶのに不服かね?」



「そうですね。山林側の道は湖側の道と比べて距離的には短いですが、起伏がある上に山林に隣接する箇所も多い。兵を伏せておくには最適でしょうな」



 どちらが先に着くのか、賭けを行っているためにより良い道を選ぶのは当然であった。そのため、距離はあっても楽な道を選んだブルザーは、あとで文句を言われても良いようにヒーサに確認を求めたのだが、ヒーサは特に文句も言わずに頷いた。



「兵数としてはブルザー殿の方が多いのですし、そちらに優先権は与えましょう」



「ほう、話が分かるのは助かる」



「賭けを持ち出したのはこちらですからね。下手な小細工を弄しているなどと思われるのも癪ですし、道を選ばせるくらい問題ないですよ。なにしろ、道を選んだ上に遅れて城に到着したらば、言い訳もできませんからな」



 ヒーサはここで軽く挑発を入れたが、ブルザーは軽く鼻息を荒くしただけで、これと言った反応を示さなかった。単純な挑発に乗るほど、ブルザーは甘くはなかった。



「結構です。では、私は山林側の道を、ブルザー殿は湖側の道を進む。これでよろしいか?」



「うむ。では、宰相閣下、この手順で参ります」



 二人の公爵よりの進言を受け、ジェイクはこれを承認し、首を縦に振った。


 こうして、ヒーサ率いるシガラ公爵軍は山林側の道を、ブルザー率いるセティ公爵軍は湖側を使い、城へ向かう事が決定された。

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