5-40 集結! 四人の王子王女、全員集合!(1)

 アーソ辺境伯領が討伐軍に対しての防備を固めていた頃、その討伐軍はケイカ村近郊に集結しつつあった。


 先行していた火の大神官アスプリクの部隊がアーソへの偵察を行いつつ、他の部隊にケイカ村へ一旦集合する旨を知らせたので、その部隊が集まりつつあるのだ。


 現在、集結しているのは第三王子のサーディクの部隊であった。サーディクは将軍としてジルゴ帝国との国境に接した地域に展開していたのだが、アーソ辺境伯の謀反の知らせを聞き、急いで駆けつけてきていた。


 移動力を重視したため、率いてきた手勢五百名は全員が騎兵であり、集結を呼び掛けた他の誰よりも早くケイカ村に到着した。


 サーディクは王家の四兄弟で一番の偉丈夫であり、見る者を圧倒するほどに鍛え上げた肉体の持ち主であった。前線での生活も長く、顔や体にはその戦いぶりを見せ付けるかのように傷跡が存在した。


 武辺者、という言葉がそのまま当てはまるような、そんな豪快かつ武勇に長けた王子だ。


 次いで到着したのは、セティ公爵の当主ブルザーの率いる部隊であった。


 セティ公爵領はジルゴ帝国との国境に程近い場所にあり、国の防衛を担う重責にあった。それだけに戦慣れした精鋭部隊が揃っており、その堂々たる行進は見る者を圧倒した。


 ブルザー自身、五十手前の齢を感じさせぬほどに精強なる肉体を持ち、“武”の公爵と謡われるのも納得の姿を見せ付けた。


 率いてきたのは、騎兵五百、歩兵三千、さらに攻城戦も意識してか砲兵部隊も千名ほど含まれていた。


 ブルザーも歴戦の勇者であり、顔には無数の傷が走るほどの強面で、ブルザー自身それを勲章として見せびらかすように振る舞うのが常となっていた。


 どの傷がいつの傷かしっかり覚えており、その時の戦話をするのが彼の何よりの楽しみとなっていた。


 また、サーディクの妻はセティ公爵家一門の出であり、サーディクとブルザーは親戚関係でもあった。


 そして、ブルザーが到着して程なく、アスプリクが放っていた斥候が戻り、それについての軍議が用意された天幕にて早速開かれた。


 会議の場に揃った顔触れは、アスプリク、サーディク、ブルザー、アイク、リーベの五名であった。


 アイクは第一王子という肩書はあったものの、戦に関しては疎い上に病弱で、いてもいなくてもいいだろうと当初は出席を拒んだが、アスプリクにしつこく迫られて、やむなく出席することにしたのだ。


 無論、意見する気など更々なく、あくまで兄弟や大貴族への挨拶程度で、あとは置物を決め込むつもりでいいた。


 一方、誘ってもいないのにしゃしゃり出てきたのが、ケイカ村の司祭リーベであった。


 リーベはとにかく鼻持ちならない人間で、アイクとしてはできれば顔も見たくもないと思っていた。しかし、リーベはブルザーの末の弟であり、また異端審問と教団絡みの案件であるため、無理に出席を捻じ込んできたというわけだ。


 そして、会議はまず、斥候からの報告から始まった。



「……で、つまるところ、防備を整えている雰囲気はあるけど、それはジルゴ帝国側に向けられている、と?」



「はい、遠巻きに観察した程度ではありますが、そう認識してもよろしいかと。ともかく、王国側の他領との境界に防衛線を敷いているようには見えませんでした」



 斥候として向かっていた部隊からの報告は、おおよそそのようなものばかりであった。アスプリクは三人一組の計十組を送り出したが、いずれの報告もそうしたものばかりで、兵は動いていても謀反を企図した動きとは思えないとのことだ。



「そうか。うん、報告ご苦労さん。下がっていいよ」



 アスプリクは部下に下がるように命じ、そして、五人は互いの顔を見合わせた。


 ちなみに席順は、上座にアイクが座し、長机を挟んで、左側にアスプリクとサーディクの順で、右側にブルザーとリーベの順で腰かけていた。


 本来なら、上座はアスプリクが座るべきところを、アスプリクがアイクに譲ったのだ。



「アイク兄は第一王子だし、上座でいいんじゃないかな。宗教絡みの案件だから、大神官の僕が座った方がいいかもしれないけど、アイク兄は議論に参加するつもりはなさそうだし、上座に座して、皆の観察でもしていた方が気が楽じゃないかな」



 これがアスプリクがアイクに上座を譲った経緯であり、アイクもそれを受け入れた。


 上座ならせいぜい最後の閉めの言葉だけでも言っておけばいいだけであるし、まあいいか程度の考えであった。

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