悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
5-35 謀反確定!? 火のない所に煙は立たぬ!
5-35 謀反確定!? 火のない所に煙は立たぬ!
疑心暗鬼に捕らわれているヤノシュに、ヒサコはさらに畳み掛けた。
「さらに穿った見方をすれば、セティ公爵の意向が働いているやもしれません」
「と言うと?」
「一司祭の報告書だけにしては、教団側の動きがあまりに迅速過ぎます。もし、あたしが教団幹部だとするならば、異端審問官をアーソに派遣し、調査を行うでしょう」
「ふむ……。つまり、セティ公爵がアーソの地に良からぬ野心を抱き、リーベの報告書を理由に話を一気に進めたと。あのバカ司祭はセティ公爵家の出だからな」
「はい。我がシガラ公爵家は婚儀によってカウラ伯爵領を“実質”支配下に置きました。三大諸侯の均衡を考えますと、セティ公爵も領土の拡張を考えたのではと邪推いたします」
「巻き込まれるこっちとしては、たまったものではないぞ!」
貴族の世界は権力闘争など当たり前である。今はジルゴ帝国の侵攻も小康状態とはいえ、黒犬の一件もあるし、油断できない情勢でもあるのだ。
にもかかわらず、緊要地のアーソ辺境伯領で騒動を起こそうなど、利敵行為も甚だしかった。
「まあ、異端派の潰すことしか考えてない聖山のバカ老人どもに言っても無駄か」
「仰る通りかと。ですが、討伐軍にはお兄様やアスプリク様も含まれております。なんとか誤魔化してもらうより……」
「それもダメだ。もう手遅れだ」
ヤノシュは諦めたように首を横に振った。
「教団側の駐留部隊が全滅してしまっている。黒犬の仕業だと思うが、それを教団側に秘匿していた以上、明かすにしても秘するにしても、心象が悪すぎる。もし、異端かもしれないと思われている人物の近くにいる教団関係者が揃って死んでしまっていた場合、外にいる教団関係者の視点はどうなると思う?」
「反旗を翻し、手始めに手近な教団戦力を削ぎに来た、と考えるでしょう」
どっちに転んでも、アーソ辺境伯にとって悪くなるようにしかなっていなかった。
進むも地獄、下がるも地獄。されど、さっさと行けと背中を蹴飛ばす不埒者が、自身の目の前にいることにヤノシュは気付いていなかった。
「……いっそ、ブラハムの消して、奇麗に口を封じておくか?」
「それは良くないかと。あくまで事故として処理するべきときに、一切の証人がいないのは不都合です。治療と言う名の軟禁状態にしておき、不幸な事故だったということを言い含めておくべきです」
「扱いが難しいな」
「状況が状況ですので、今は手札にできそうな札は、きっちりと把握し、確保しておくべきです。事故であったと押し通すのには、教団関係者の証言を確保しておくのが重要です。幸い、ブラハム殿は酔いつぶれて、崩落した瞬間は気を失っておりました。その曖昧な記憶を利用し、あくまで事故だったで押し通すべきでしょう」
「そして、あとは公爵閣下や大神官様次第というわけか……」
なんとも細い糸で希望をたぐい寄せている厳しい状況であり、ヤノシュには不安で仕方がないのだ。
なお、その僅かなる頼みの綱が、あろうことか一連の事件の黒幕であり、いつでも希望の糸を断ち切れる立場にあろうとは夢にも考えていなかった。
「ともかく、一度城に戻りませんか? 二人で詰めるには事が大き過ぎます」
「そうだな。父や他の家臣らと協議の必要がある。ブラハムの件は保留と言うことにして、部下にはきっちり監視を付けさせるとしよう」
ひとまずは話をこれでおしまいだとヤノシュは席を立ち、部下にあれこれ指示を出すために早足で厨房から出ていった。
一方のヒサコはトウを連れて人気のない裏の方へと移動した。
そして、人目がないのを確認してから、トウをテアの姿に戻させた。
「はい、これで準備は整った。もうアーソ辺境伯は事実の如何に関わりなく、反旗を翻したことになりましたとさ」
「最低……。マジでどうしようもないクズだわ」
「加担しといて、その言い草はないんじゃないかしら、め・が・み・さ・ま♪」
「はい、その通りでございます」
なお、テアがやったのは、トウに姿を変えて見守っていただけであり、加担と言うほどのことはしていなかった。あくまで、見ていただけであるからだ。
手紙にしても、ヒーサからということにして、ヒサコが書いただけであった。同一人物であるから、嘘でないと言えば嘘ではないのだ。
そんな二人のやり取りの最中、大きな黒毛の馬が駆け寄ってくるのを視認した。離れた場所に隠しておいた
「はい、これで逃げた馬を探していたあたしの従者は、馬と共に帰還しましたとさ。元の鞘に納まり、何もかもが通常になりました」
「戻ったのはここの二人と一匹だけで、周囲は大嵐じゃない?」
「そよ風を嵐の誤認しただけよ」
「火のない所に煙は立たぬ」
「煙が見えたから、油を撒いただけよ。まあ、撒いた後の油桶は他人に渡したけど」
「煽るだけ煽ってこの言い草ぁ!」
なにしろ、辺境伯領の秘事については先程話した通り、リーベがばらしたということで話が進んでしまうことだろう。
また、アスプリクもリーベから聞いたと嘘の話をばら撒いているから、そのうちそれが真実にすり替わる。
そう、あとはリーベ本人が死んでしまえば、その“嘘の真実”が固定され、ヒサコが煽ったことは黒幕以外知ることができなくなるのだ。
あまりの愉快の状況操作に、ヒサコ自身も腹を抱えて笑い始めてしまった。上がってしまった戦の狼煙、あとはどう収穫するべきか、すでにその段階の思考へと進んでいった。
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