悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
5-29 最後の晩餐!? 心行くまでお楽しみください!
5-29 最後の晩餐!? 心行くまでお楽しみください!
そして、宴が始まった。
ヒサコが持ち込んだ酒や食材を用い、出撃待機の重々しい空気は解除され、飲めや歌えやの大宴会となった。村人総出で準備に追われ、会場は教団の駐留する砦の広間で執り行われることになった。
割と大きな大部屋があり、二百人ばかりの教団関係者がそこに集まって、用意された酒や料理に舌鼓を打った。
「例の怪物騒ぎは間もなく終わります。ようやく潜伏先を突き止めまして、今日中にも仕留めることになるでしょう。教団の方々にも不自由をかけてしまいましたので、そのお詫びにご用意させていただきました」
これがヒサコが教団側に説明した宴席を設けるための方便であり、教団側もそれをすんなり受け入れた。
実際、砦での待機要請を出されていたため、砦と付近の村の外からは出かけれなかったため、その鬱憤を今夜一気に発散しようというわけだ。
村人が給仕となって料理を運んでいき、ヒサコとテア、それに村の女衆がお酌をして回り、場を盛り上げていった。
そして、当然のごとくお尻を撫で回された。
(早く帰りたい~!)
(笑え! 笑顔、笑顔!)
開始早々、逃げ出したいと思っているテアに対して、ヒサコは余裕の笑みでこれに応じ、見事にこなしていた。仕事に対する真剣度合いの差が出たわけだが、その後に画策する大惨事を考えればこそ、ヒサコは必死に取り繕っているのであった。
(有り得んわ~。なんで女神のあたしが、こんなコンパニオンみたいな真似を!?)
(神話とかにこういうのないの?)
(う~ん。
(いっそ、うちの国の神話みたく、裸踊りでもやっちゃう?)
(
時折すれ違いざまに二人は言葉を交わしつつ、必死で笑顔を作り、酒を勧め、そして、酔っ払い連中に色々撫で回された。
なお、テアの豊満なる胸部に倒れかかろうとする剛の者もいたりする。さすがにそれは全力で拒絶しているが、ヒサコは横目でニヤニヤしながら、助ける素振りも一切なし。
あくまで宴の一幕として甘受せよと言いたげな態度であった。
(もう嫌だぁ~! つぅ~か、ここにいるのって、神殿関係者のはずよね!?)
(だからでしょ。普段は品行方正を装っていようが、キラッキラの法衣の下は欲望の塊。坊主も所詮、人間ってことよ。俗世を離れようが、欲望からの解脱を完全に行える奴なんていないいない!)
ヒサコはその辺りは完全に達観しており、坊主であろうが人間は人間として見ていた。かつての世界においても“般若湯”をガバガバ飲んでいた坊主がいたことを、よくご存じであったからだ。
(ヒサコ、マジでなんとかしてよ! あ、くっそ、また触ってきた!)
(お目が高いなぁ~。生臭坊主どもの気持ちはよく分かる)
(共感してないで、どうにかしてよ!)
(思わずむしゃぶりつきたくなるような
(ちょ、そういう目でいつも私を見てるの!?)
(当然でしょ? いやぁ、眼福眼福)
お酌して、配膳しながらもヒサコは笑顔を絶やさない。一方のテアはいい加減、顔が引きつってきており、かなり限界に近付いてきていた。
こめかみ辺りがヒクヒクしているのがその証左だ。
(しょうがないな~。そろそろとっておきを出しますか)
(なんかいい手があるなら、さっさとやってよ!)
(もう少し酔いが回ってからの方がいいかな~、って思ってたから)
ヒサコは一度広間から退出してからすぐに戻ってきた。手には酒瓶が一つ握られており、それを持ったまたお立ち台に登った。
「はいはい、皆さん、ご注目ぅ~!」
突如として響き渡る声に、広間に揃っていた面々が一斉にヒサコの方を向いた。
「はぁ~い、ここで盛り上がっちゃう余興いきますよ~」
ヒサコの手には酒瓶と小ぶりなガラス製のグラスが握られており、それを見えるように高らかに掲げた。
「今から~、あたしと~、飲み比べをします! もし見事にあたしを酔い潰すことが出来ましたら、そちらのテアをお持ち帰りにして、好きにしてヨシ!」
「待てゐ!」
いきなり危険な勝負の景品にされ、テアは心の底から吐き出されたような妙な声を上げた。なお、その声は拍手と歓声によりかき消された。
「勝負内容は簡単! 誰でもいいですから、このとびきり強烈な
「ヒサコちゃ~ん、持ち帰るのはヒサコちゃんでもいいのかい?」
「ええい、ついでだ、持ってけドロボ~! 酔っぱらった女でよければ、どうぞ持ち帰ってください! 二人まとめて相手して、男を見せてもらおうじゃないの!」
ヒサコの威勢のいい掛け声に場はさらに熱気を帯び、興奮して机をバンバン叩き、誰が出るかで他薦自薦の声が飛び交った。
その人ごみをかき分け、テアがようやくヒサコの側まで歩み寄ってきた。
「ちょっとちょっと、聞いてないわよ、こんな話!」
「そりゃ話してないもん」
「んなの認められるわけないでしょ!」
「場が盛り上がるからいいじゃん」
完全に暖簾に腕押し状態。ヒサコはこのまま馬鹿げた勝負を始める気でいた。
テアとしては、当たり前だが、なんでこんなことで自らの操を賭けねばならないのか、理解の及ばぬ話であった。
「それにさあ、女神様、操はあたしがちゃんと守るから、安心して見てていいからさ!」
「その自信はどっから来るの!?」
「スキル【毒無効】」
「……あ」
一連のゴタゴタですっかり頭から抜け落ちていたが、ヒサコは最初に獲得したスキル【本草学を極めし者】から派生した【毒無効】を取得していた。
仮に毒を取り込んだとしても、たちまち無害な物質になってしまうため、トリカブトを丸のみしようが、ヒ素の粉末をガバガバ喉に流し込もうが、一切通用しないのだ。
そして、このスキルは精神を汚染する“アルコール”と言う名の毒にも有効であり、意図的にスキルを停止していない限り、ヒサコは絶対に酒に酔うことはないのだ。
「つまり、この勝負、あたしに負けはない。どんな手を使おうが最終的に勝てばいいのよ! 『武者は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つことが本にて候』と朝倉宗滴殿も述べているわ」
「別の意味でドン引きだわ……」
始めから結果の見えている勝負に相手を誘い込もうという姿勢は、相変わらず図太い神経の持ち主であることを表していたが、ここまで露骨にされてしまうと、対戦相手が哀れで仕方がないのだ。
何しろ、こっちは水を飲み、あちらは酒を飲んで、酔った方が負け! という勝負をしているのに等しい。初めからまともに勝負するつもりなどなく、絶対的な優位性を確立した上で、それを相手に悟らせずにさも真剣勝負のように振る舞う。
延々と当たりのないクジを引かされ、代金だけはキッチリと回収するようなものだ。
これを誰にも気付かれることなく、真顔でやってしまうのが相棒の怖いところであり、強いところだとテアは改めて思った。
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