3-23 初体験! 驚愕の結婚初夜!(3)


 ヒサコの手によって組み伏せられたティースではあったが、どうにか持ち上げた顔の先にはソファーで横たわるヒーサがいた。


 何かやったのは明白であった。



「ヒサコ、ヒーサに何をしたの!?」



 ティースは現在の組み伏せから逃れるのは無理と判断し、舌戦に切り替えた。無論、隙があれば体を振りほどくつもりでいたが、まずは気を逸らせるために口を動かし始めたのだ。



「お兄様にはお休みいただいただけですわ。ご自身の睡眠薬でね」



「な……。あなた、自分の兄に一服盛ったの!?」



「大量摂取しない限りは大丈夫な薬ですから、問題ありませんわ。お兄様の仕様書通り、用法容量を守っていますから、ご安心くださいませ」



 ヒサコはニヤリと笑い、クスクスと笑い始めた。あまりに常軌を逸した行動にティースは寒気すら覚えたが、それ以上に押さえ付けられている痛みから、汗を流し続けていた。



「私を押さえつけたり、ヒーサを眠らせたり、一体何が狙いよ!?」



「強いて言えば、“安全確認”ですわね」



「あ、“安全確認”ってなんのことよ!」



「そりゃ、決まっているじゃないですか。夜伽にかこつけて、懐に短剣でも忍ばせ、隙を見てそのままグサァーッと刺し殺してしまうとか」



「んなぁ!?」



 とんでもない濡れ衣であった。第一、ヒーサを殺してしまっては、自分にも類が及ぶのは確定しており、現段階では生きていてもらわなくてはならないのだ。


 いくら疑惑の対象とはいえ、殺害など論外であった。



「そんなこと、するわけないでしょ!」



「するかもしれないから、こうして私が調べているのです。ほんと、お兄様は甘々でいけませんわ。女を寝所に呼ぶときは、ちゃんと“身体検査”をしてからでないとね」



「ふざけないで! ふ、ふざ、ふざけ……」



 その時であった。ティースは強烈な浮遊感を覚え、同時に体が熱を帯び始めてきたことを自覚し始めた。無理やり組み伏せられているからではない。なにか別の外的要因が、体を蝕み始めていることに気付いたのだ。



「フフフ……、どうやら、効き始めたようですわね」



 ヒサコはなにやら怪しげな笑みを浮かべたかと思うと、ティースの拘束を解いてしまった。


 ようやく自由になったとティースは安堵し、立ち上がろうとしたが、どうにも体の動きが鈍かった。近くにある天蓋付き寝台の四隅の柱を掴みながら起き上がるのがやっとであった。



「な、なにこれ……?」



「押さえつけられた痛みで気付いておられなかったようですが、この部屋は催淫効果のあるお香で充満していますの」



 ヒサコの指さす先には、なかなかの名品と思しき凝った造りの香炉があり、そこから僅かばかり煙が漏れ出ていた。



「龍涎香を主成分に、ローズ、ラベンダーなどに加え、各種薬草も混ぜ込み作り上げた、お兄様特製の催淫効果のあるお香ですわ」



「そ、そんなものが……」



「まあ、花嫁のノリが悪かった時のためのとっておきだったのでしょうが、そんなものが必要ないくらい淫靡な女なようですし、お兄様も徒労でしたわね」



「う、うるさい、そんなわけないでしょ」



「ふふ、強がる口調の勢いがなくなってきてますわよ、お姉様」



 ヒサコはそう言うと、ゆっくりとした足取りで距離を詰めてきた。まるで獲物を見定めた肉食獣のように、舌をなめずりし、笑顔を向けてきた。


 ティースは逃れようとしたが、押さえつけられて逃げようとした疲労や苦痛から、思いの外体にダメージが入っており、お香の効果も合わさって、柱に掴まって立っているのがやっとであった。


 そして、両者の距離が詰まると、ヒサコは勢いよくティースの両肩を押した。


 ティースは倒されまいと必死で柱に掴んだが、どうにも思ったほどに掴む力が入らず、結局勢いのままに寝台の上に突き飛ばされた。


 背中から倒れ、そこには柔らかい弾力が伝わり、ボーっとし始めた頭であっても、寝台の上に寝転がされたことを認識した。


 そこへ、ヒサコが覆いかぶさるようにティースにのしかかってきた。


 このままではまずいと、先程以上に必死でもがいたが、やはり力が思うように出てこない。


 そして、両手首を掴まれ、完全に押さえ込まれた。ティースは寝台の上に寝転がされ、覆いかぶさるように自分の上には四つん這いのヒサコがいた。



「うぅ、な、なんで同じお香を嗅いでいるのに、あなたは平気なのよ……?」



「そういう体質だから」



 実際その通りであった。


 この日の昼間にスキル【本草学を極めし者】のレベルが上がり、そこから新たなるスキル【毒無効】を得たのだ。


 この程度の香りなど、本当にただのお香で、脳を破壊するようなことはないのだ。


 そもそも、【毒無効】を得た際に、この作戦を思いついた。


 一応薬学を駆使して作っておいたのだが、使うあてがなかったこのお香を、自分だけが無効化しながら使ったらどうなるか、試してみたのだ。


 結果は良好。【毒無効】は有効に作用し、ティースだけが前後不覚の状態に陥っていた。



「さあ、お姉様、夜はまだ長いですし、私達で楽しみましょうか。“身体検査”が終わって、安全が確認されましたら、その際はお兄様に御引き渡し致しますので、その点はご安心を」



 そして、ヒサコは自身の顔をゆっくりとティースのそれに近付けた。


 ティースは思わず顔を背けたが、その視線の先には図らずも、義妹に盛られて眠らされたヒーサの姿があった。


 本来なら、自分の上に跨っているのは、視線の先にいる夫のはずなのだ。それがどこをどう間違えたのか、のしかかっているのは義理の妹であった。


 お香と訳の分からぬ状況に混乱しながらも、ティースは抵抗を諦めず、身をくねらせたが、その都度、身に付けた衣服がはだけるだけであった。


 乱れる義姉の姿に、ヒサコはさらに加虐心を刺激され、気分を高揚させるのであった。


 絡み合う姉妹の夜は、まだまだこれからだ。

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