3-24 初体験! 驚愕の結婚初夜!(4)

 寝室では、なおもヒサコとティースの攻防が続いていた。といっても、催淫のお香にやられたティースが、【毒無効】のヒサコの前に、一方的に蹂躙されつつある状況であったが。


 寝台の上に転がされたティースは必至の抵抗を試みるが、ヒサコを突き飛ばせるほどの力が出ない。一方のヒサコは必死にもがく義姉の姿をニヤニヤ笑いながら堪能していた。


 加虐心が殊の外、刺激されるのだ。



「お姉様、あまり暴れないでいただきたいですわ。これでは“身体検査”をして、身の潔白が証明できないではありませんか!」



「あ、あんたなんかに保証されたくなんかないわよ!」



 口調こそ強めであるが、明らかに体力が削られ、呼吸が荒くなり始めていた。逃げ出したいが、逃げるには目の前の義妹を突き飛ばし、鍵がかかった扉を開けて、外に出る必要があった。


 そこまで体力や体がもつかどうか、かなり怪しくなり始めていた。



「やれやれ、仕方ないですわね。とっておきを使いますか」



 そう言うと、ヒサコは暴れるティースを解放し、なにやら寝台の横に置かれた道具袋をまさぐり始めた。


 逃げるなら今しかないと感じたティースは、強張る体を起こし、ゆっくりと寝台から起き上がって、出口の方に向かって歩き出した。


 視界は割りとはっきりしているが、頭は完全にぼやけていた。熱病に犯されていると言ってもいいほど、思考が正常に働いていなかった。


 ただ、本能的に危険を感じ、必死で扉に向かって足を前に出しているのだ。次に捕まったら死ぬ。それくらいの危機感を持って逃げ出した。


 本来なら、逃げ出すなど論外だ。敵に背を向けるのは、ティースの心情的にありえない。


 まして、あいてはあの嫌味ったらしいヒサコである。普段なら、逃げるという選択肢は絶対に取らない。


 だが、今は逃げた。漂う妖艶なる煙が普段の思考を消し去り、隠れ潜む臆病な自分をさらけ出しているからだ。


 ティースはようやく扉の所までたどり着き、ドアノブに手を伸ばした。


 だが、それを回すことができなかった。ドアノブに手をかけた瞬間、覆いかぶさるように手がティースの手に添えられたからだ。


 無論、その添えられた手の主はヒサコだ。



「お姉様、いけませんわ。これからがお楽しみだというのに」



 そこからのヒサコの動きもまた早かった。


 まず添えられた手でティースの手を叩き落とし、ドアノブから手を離させた。その勢いのままティースの腰に手を回し、抱き寄せて体を密着させた。


 そして、もう片方の手には、先程まさぐっていた道具袋から取り出したであろう、小瓶が握られていた。


 それを一気に口に含むと、そのままティースに口付けをした。



「むぐぅ~!」



 明らかに何かを口移しで流し込まれたようで、ティースは必至で抵抗したが、時すでに遅く、吐き出す前に飲まされた“何か”の半分以上が、喉を通って体の中に入っていった。



「がっはぁ、げほげほ! な、何を飲ませたの!?」



 咳き込むティースに対して、ヒサコは腰に回していた手を放した。支えを失ったティースはそのまま床にへたり込み、尻もちをついた。



「じきに分かりますわ。すぐに効いてきますから!」



「効くって……、うぅ!」



 ヒサコの言う通り、それは体内に入ると同時に暴れ出した。先程のとは比べものにならないほどの熱量を全身に運び、頭のぼやけ具合も一層ひどくなってきた。



「いかがでしょうか、飲む媚薬の威力は。先程の嗅ぐ媚薬よりも数段効果が上ですわよ。同時に喰らえば、どんな身持ちの固い女であっても、自分から股座を開く、それくらい強力ですの」



 ヒサコの口にそれは入ったのだが、【毒無効】のスキルで無効化されていた。たとえ、どんな成分が溶け込んだ液体であろうが、水と大差ないのだ。



「今飲ませたのは、芋茎の汁を主成分に、トリュフとか、カズラなんかを混ぜたものだそうよ。お兄様って、ほんと準備がいいわね。これなら、どんな女も“イチコロ”ってやつかしら」



 ヒサコは高笑いと共に薬の説明をしたが、ティースの耳には入っていなかった。とにかく、体が火照ってしかたがなく、正気を保つよう意識を集中させるだけで手一杯であった。



「顔色から見るに、必死で頑張っているってところかしら。では、そんなお姉様に謎かけです!」



 ヒサコは荒い呼吸でへたり込むティースの横に座り込み、肩を組んで顔を近付けた。



「問題! 下は火事、上は洪水、さて、なんでしょうか?」



「……お風呂」



「正解!」



 ヒサコは空いた手で床を叩き、見事になぞなぞに正解したティースを讃えた。もっとも、出された問題や、その後の態度から、おちょくられているとしか、ティースは感じなかった。



「では、次の問題! 下は洪水、上は火事、さて、なんでしょうか?」



「……え、逆?」



「はい、そうです。さあさあ、何でしょうか?」



 まともに頭が働かない以上、難しい思考ができなかった。ティースが悩んでいると、時間切れなのか、ヒサコはニヤリと笑った。



「正解は“今のお姉様”でした~!」



 ヒサコの手がティースの服の中に滑り込んだ。寝間着ネグリジェの中をまさぐられ、ヒサコの手が股の間に滑り込んだ。



「おほ~、こりゃ凄い。これはなかなか、お兄様も結構、強烈な薬を作ったものね。顔も真っ赤に茹で上がってるし、さっきの謎かけの通りね!」



「うるさい……。薬のせいよ」



 ティースは必至で心身ともに蝕んでくる薬の効力に抗ったが、ヒサコがそれ許さなかった。体のあちこちを指でなぞられ、あるいは突かれ、その度に体が律義に反応するのだ。



「薬のせいだなんて言ってますけどね。そんなの嘘っぱちですよ」



「嘘じゃない」



「いいえ。薬ってのは、体に備わっている力を引き出すのが、本来の姿だもの。どんな名医でも、無から有を作り出す薬なんか作れないわよ。あくまで、体の中にある治癒能力を活性化させて、傷や病を治すのが薬師の役目だもの。つまり、この“えろてぃかる”な体もまた、お姉様の本来持っている物。それを薬でちょいとさらけ出しているだけですわ。きゃ~、このむっつりスケベ!」



 その言葉はティースにとってショックであった。伯爵家の令嬢として、清く正しく、そして力強く生きてきたつもりであったのに、それを全否定されたからだ。


 どういう生活をしようが、どう取り繕おうが、本質は決して変わらない。そう断じられたからだ。



「さて、いよいよ煮詰まって参りましたし、前座は終わりにして、本番行きましょうか」



 そう言うと、ヒサコはティースを抱え上げ、足元を引きずりながら、再び寝台の前まで戻ってきた。そして、ティースの体を放り投げ、再び寝台の上に寝転がした。


 またしても横たわるティースの上にヒサコが四つん這いで覆い被さり、今度と言う今度こそ獲物に喰らい付かんと、舌をなめずりした。



「お姉様、とてもきれいですし、艶やかな顔をしておりますわよ。男が見たら、それこそそそられるような、そんななまめかしい顔ですわ」



 ヒサコはティースの髪に手を伸ばし、指先でそれをクルクルと弄んだ。



「雄大な大地を表すかのような茶色の髪や瞳、滑らかな肌、たまりませんわ。これで掌のゴツゴツさえなければ、完璧な令夫人なのですが、鍛錬なら仕方がないですわね」



「……これから、私をどうするの?」



「もちろん、お姉様の体をきっちりと“身体検査”いたしますわ。結果が白なら、そのままお兄様に御引渡しいたします。黒なら、私流のやり方でお仕置きさせていただきますわ」



 口付けから始まり、指先が、あるいは舌先が、ティースの体を這うように動き回る。


 薬で感度が上がっているためか、ティースはヒサコの指が動くたびに体をくねらせた。体は反応するが、心は屈するまいと必死で言い聞かせ、ただ早く終わることを願うばかりであった。


 こうして、ヒーサとティースの新婚初夜は、ヒサコと言う乱入者のおかげですべてが台無しとなり、夜も更けていくのであった。


 なお、自分を散々弄んだ義妹が、自分の夫と同一人物であるということに気付かないまま、精も根も尽きて、意識は深い眠りについていった。

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