2-37 発見! 探し求めていたもの!(テアの)

(う~ん、可愛いな~)



 前を歩くアスプリクを見て、テアはそう思った。


 象牙細工のような白無垢の体、そして、銀色の髪を流して歩く様は、実に幻想的な雰囲気を醸していた。


 儀礼用の法衣ではなく、お姫様が着るようなドレスでも着ていれば、さらにその愛らしさに磨きがかかるだろうとも考えた。


 おとぎ話の妖精のような姿をじっくり観察していると、不意にヒーサがすぐ横に近付いてきた。


 そして、静かに耳打ちした。



「あの娘に【魔王カウンター】を使え。静かに、バレないように、な」



 そう言うと、何事もなかったかのようにヒーサが歩き始め、ヒサコもそれに続いた。


 テアはあまりに不意討ちなヒーサの提案に思考が瞬間的に止まり、すぐに正気を取り戻して、何事もなかったかのようにその後ろに続いた。



(ヒーサ、言葉の意味を分かっていってるのかしら。まあ、分かってるんでしょうけど)



 先程のヒーサの顔は真剣そのもの。つまり、やる価値があると判断したのだ。


 【魔王カウンター】はテアがこの世界に持ち込んだ神造法具であり、隠れ潜んだ魔王を暴き出すために使うことができた。


 しかし、一度の降臨で三回しか使うことが許されず、もし使い切ったうえで魔王を発見できなければ、発見難易度が跳ね上がると言ってもよかった。


 そして現在、すでに一度使用してしまっている。あまりにヒーサの外道な振る舞いに、こいつが魔王だとドヤ顔決めて使ってみれば、完全にハズレであったのだ。可能性すらない、魔王としてはゴミ、それが法具の判断であった。


 その貴重な残り二回の内、今ここでそれを使えとヒーサは指示してきたのだ。



(ちょっと、何か確証があってのことなの? それとも、ただの勘? ……ええい、ままよ!)



 ヒーサは言動もふざけたものが多いものの、仕事に関してはなんやかんやで真面目であった。やり方は無茶苦茶だが、結果は伴うやり方をしてきた。


 ならば、それを信じよう。梟雄の言葉を信じるのもあれであったが、曰く“共犯者あいぼう”なのだ。


 ここで無駄打ちさせる理由が思い浮かばない。ならば、突っ込もう。


 テアは覚悟を決め、モノクル型の法具を身に付け、少し前を歩く白い少女を観察した。


 ピコピコと機械音的なものがテアの頭の中にだけ響き、そして、結果の数字が出た。



(アスプリクの魔王力は……、“88”!? え、マジ!? あの子が魔王力“88”ですって!?)



 半信半疑であった検査であったが、まさかの信じられないほどの高い数字を叩き出した。


 検査結果は1から100までの数字で表され、数字が高いほど魔王である可能性が高くなる。


 ちなみに、テアの前を歩く三人のうち、二人は検査を受けていた。



(いや~、でも、魔王としか思えない外道のヒーサが“5”で、あんなちっちゃい可愛らしい女の子が“88”って、こりゃまた凄いわ)



 しかし、見た目に騙されてはいけないことも、テアはこれまでの経験から学んできていた。五歳児くらいの幼児に擬態した魔王を見つけたこともあり、それに比べればまだ年を食っている方であった。


 もう標的は発見したのだし、あとは所定の手順に従って、魔王を締め上げればいいだけだ。


 ついでに、三人の内で計ってないヒサコを眺めて、無駄打ちをしてやろうかと考えたが、ヒサコはヒーサが生み出した人形のようなものなので、数字は出ないと判断し、止めておくことにした。


 なにしろ、もう魔王を見つけたので、心がウキウキになり、喜びを表に出さないように堪えるのに、必死であったのだ。



(やった、ついに見つけたわよ、魔王!)



 勝利の日は近い。テアは心の中で諸手を上げて喝采の声を上げた。


 勝ったな、と。

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