2-28 戦争勃発!? 花嫁vs小姑!(前編)

 ヒーサとティースの結婚式も無事に終わり、場所を大聖堂近くの広場に移していた。


 王命による結婚式であったため、王都では祭りの様相を呈しており、式に列席していた貴族のみならず、一般の都人もまた飲めや歌えの大はしゃぎであった。


 広場の方では人々が自由に出入りしては、噂の新郎新婦とその“妹”を眺めては祝辞を述べ、事件の鎮静化を喜んだ。


 「シガラ公爵毒殺事件」は民草の中でも話に上るほどに話題性があり、数々の噂が飛び交った。それを鎮める意味でも、御前聴取での情報は公開されており、注目が更に集まった結果であった。


 特に情報の封鎖や操作が行われなかったのは、今回の事件の“黒幕”である異端宗派『六星派シクスス』への牽制という意味合いが強い。


 異端者が裏で蠢動し、両家を仲違えさせるために今回の事件を引き起こした、ということで多くの者の意見は一致しており、お前らの策は失敗だぞという感じを見せつけるための早めの婚儀なのだ。


 そのため、『六星派シクスス』の勢力拡大を阻止したい、王家や教団関係者が協力的であり、このお祭り騒ぎとなったのだ。


 話題の中心に上る“三人”を見てみたい。好奇心が呼び水となり、広場にはドッと人々が押し寄せ、ヒーサ、ティース、そして、ヒサコを遠巻きに見つつ、手を振る三人に歓声を上げた。


 そんなこんなが一日中続き、ようやく解放されたのは夜になってからだ。


 一行は公爵家の上屋敷に戻り、居間のでようやく一息つけるようになった。



「やれやれようやく終わったな。と言っても、明日も似たようなものだがな」



 うんざりすると言わんばかりに、ヒーサはすでに重たい礼服を脱ぎ捨て、普段着に着替えていた。ヒサコやティースも同様で、こちらも服を着替えていた。


 居間にいるのは合計で五名。ヒーサ、ヒサコが並んで椅子に腰かけ、その後ろにテアが控えていた。


 三人と机を挟んだ反対側にティースが腰かけ、その後ろに彼女の専属侍女が立っていた。


 なお、その専属侍女は殺気にも近い気配を放ち、ヒサコを牽制していた。御前聴取の際にもティースに侍っていた侍女であり、あの有様を眺めていたため、ヒサコへの警戒が否応なく高くなっていたためだ。



「お姉様、そちらのキャンキャン吠えてる雌犬をどうにかしていただけませんか? 一日中、こちらに飛び掛からん勢いで見られて、いい加減肩が凝って来たのですけど」



 それに対して、挑発するようにヒサコが言い放ち、ティースもお付きの侍女も気を悪くしてか、さらにヒサコを鋭い視線で睨み返した。


 そこへペチッっとヒーサが妹の頭を叩いた。



「お前もいい加減にせんか。姉となった方への礼に欠ける」



「あら、私はまだお姉様を姉と認めてはおりませんよ。私の家族はお兄様だけですわ」



 お姉様呼びしておいて、この言い草である。表面的には取り繕うが、身内はあくまでヒーサのみ。そう言わんばかりの傲岸な態度であった。


 ちなみにヒサコは、“生まれてすぐに捨てられたため、性格が歪みに歪み、頭は切れるが妙に子供っぽく、メスガキと妖婦を足して二で割らない娘。でも、優しいお兄様の前だけ可憐な少女を表に出す貴族令嬢(十七歳)”という設定の下、動かしていた。


 テアには「設定盛り過ぎぃ~」と呆れられたが、ヘイト稼ぎ要員として目立ってしかも特徴ある存在でいなければならないため、それで通すことにしていた。



「すまんな、ティース。どうも唯一の身内であった分、こいつには甘くなってしまってな」



「お気持ちは御察しします。もちろん、私に弟や妹がいれば、似たような状態であったでしょうし。ああ、私にも可愛らしい妹がいてくれたらな~」



 なんとも棘のある言葉を最後の放ち、ティースとヒサコの間ではバチバチと視線がぶつかり合って火花が散った。



「それはさておきだ。テアは成り行き上紹介したが、まだそちらの侍女は紹介してもらっていなかったな。今後よく顔を会わせることだろうし、名を聞いておこうか」



 ヒーサがティースの後ろに控えていた彼女の侍女に目をやった。


 ティースよりかは少し色が濃いめの茶髪をしており、波打つ髪は後ろで髪留めで束ねられていた。視線の鋭さや気配からただ者ではないことは、すぐに察しがついていた。


 侍女というより、護衛と言った方が適切なほど、鍛錬を積んでいる体つきをしていた。



「彼女の名前はナル。齢は私より少し上で、小さい頃からずっと私の側にいてくれています」



 ティースがそう紹介すると、ナルと呼ばれた侍女はヒーサに向かって恭しく頭を下げた。



「そうか。では、ナルとやら、今後ともよろしく頼むぞ。引き続き我が妻の“護衛”を続けてくれ。なにかと物騒であるからな」



「あら、やはりお気付きになられましたか」



「気配が普通の侍女と一線を画するものがあるからな。相当な鍛錬を積んでいるのだろう。もっとも、武芸達者なティースには、護衛は不要かもしれんがな」



 ヒーサがニヤリと笑うと、ティースもつられて笑ってしまった。武芸が達者であることを褒められるなど、女の身の上ではあまりないので、それが純粋に嬉しいのだ。


 だが、そんな彼女に冷や水を浴びせるのが、ヒサコの“役目”だ。


 兄と妹の共演による“飴と鞭作戦”。ヒーサはティースに甘い言葉を囁き、ヒサコは逆に辛辣な言葉をぶつける。


 もうすでに目星は付けてある。ティースを攻撃する材料、嫌がらせの題材は把握済みであった。

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